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ご意見箱

先月、仕事の都合で大阪に引っ越してきた。

歩いて15分のところにでかいスーパー銭湯があるので、毎週金曜の夜は息子を連れてくるのが習慣になっていた。

なんせ1000円なのである。

子どもは500円。

何時間いてもだ。

大きくなったときに毎週なんか連れてってくれたな〜って思ってくれるためでもあるし、自分への軽いご褒美でもあるし、それが1500円は非常に嬉しい。

今日は3回目で、セブンティーンアイスの棒を掲げたまま走り回る息子を右腕でホールドしながら、1階ゲームセンターコーナーのそばにある四角い柱に貼られたご意見を見る。

 安くて楽しい!サイコー!

 サウナも良い温度で整いました!

 1日中いても1000円!無理しないでください(笑)

「なんか書いたら?」

息子に備え付けの蛇腹?チェーン付きのボールペンを渡すとそれを持ったままゲームセンターコーナーへ走り出したが限界ビーン!となって後ろにのけぞりそうになった後頭部を手のひらでカバー。

そのままテーブルの高さまで持ち上げて、またボールペンを渡す。

「剣みたいなん持ったら走り出すのやめてくれ。はい書いてなんかご意見、ご意見、良かったこととか」

 あいすお 
  いしい

「あいすお いしい …アイスおいしい、あー、オッケー、じゃあこの、ご意見箱、に入れよう」

さらに息子をリフトアップし、ご意見が貼りめぐらされている四角い柱を背にして置かれてある赤い立方体の箱、『ご意見箱』に、意見書を投入するように促した。

赤いといってもポストを模したものではなく、投入口は箱の上面に貯金箱のようにあって、息子はそこに意見書を入れ損なって柱と箱の奥の数ミリの隙間に落としてしまった。

「あーあーあーもぉ…」

しゃあなしにその隙間を上から覗くと、その周囲に貼られてあるご意見と同様に、その隙間にも何かご意見が何枚か貼られてあるのが見えた。

動くかなと思ってご意見箱を持ち上げると全く重量感もなく持ち上がったので箱分だけ右にずらして、隠されたご意見をあらわにした。

 シャンプーの補充がされてませんでした。

 従業員にフードスペースの営業時間について聞いたら、「わからない」と無愛想に言われました。最低限の指導をしてください。

 サウナが狭すぎる。

 騒ぐ人は出禁にしてください。

なるほど。

悪い意見は箱で隠しているのか。

確かに箱の裏以外には良い意見しか見られない。

まぁ貼っているだけ健全…なのか?

でも隠してるしなぁ。

隠すなら貼らなきゃいいのに。

『悪い意見を箱で隠さないでください。』

そう書いて、ご意見箱を元の位置に戻して、投入した。


翌週金曜。

また息子を連れてここに来た。

ひと通り堪能したあと、ゾウがラムネをすくうゲームをしている息子を尻目に、ご意見の柱をさーーっと眺める。

まだ貼られてないのか。

というかあんな意見を貼るわけないか。

言われてみればご意見箱で隠されていたご意見は、どれもネガティブではあるが真っ当な意見ではあった。

イタズラは貼らない。

当然。

まぁでも。

まさか。

んー。

一応。

箱をずらしてみる。

「ひろきー、ちょっと来い」

ラムネが取れなくて半べそで駆け寄ってくる息子を腰から持ち上げる。

「見ろこれ」

「………けんか?」

「よく分かったな、これは喧嘩だ」

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