機材席
夜に口笛吹いたら蛇が出るよ。
っていうやつを聞いたことがないってサークルのみんなに言ったら驚かれた。
機材席に座ったら機材になるよ。
ってでも言われたことがあるって言ったら意味がわからないと言われた。
小さい僕も母に実際そう言われてキョトンとしていたのだけは覚えている。
機材席ってなに?
いやなんとなくはわかるけど。
機材が置いてある席なんだろう。
だとしても「機材席」に「座る」ことはできないだろう。
機材が置いてあるんだから。
前売完売御礼でしたが、機材席が開放されました。
SNSを見ていたら上の文字が飛び込んできた。
機材席だ!
機材席が開放された!
ってことは機材席に座ることができるってことか!?
すぐさまその全く興味のないお笑いのライブを購入した。
翌日、座席番号のついたチケットをスマホ提示し、入場した。
10列くらいある座席の10列目中央。
そこに座った。
周囲を見渡すも、機材らしきものは見当たらない。
開演まであと5分。
なんか若い上下黒の男のスタッフが僕の真後ろに立って、僕の後頭部を3、4度タッチしたり、右耳をグイーッと捻り曲げたりした。
不思議と痛みは感じないし、後ろを振り返って注意する気にもならなかった。
ライブが始まっても、終始その男は後ろに立っていた。
僕は気にせずにライブを見ることに集中した。
集中しすぎたのか、ときおりコントをしているコンビのボケの表情が、まるで至近距離で見ているように大きく見えたりした。
かと思えば俯瞰で見れたりして、その寄りと引きのタイミングが絶妙に、そのコントの臨場感を高めているように感じた。
満足度の高いライブだった。
終演後、僕は立ち上がれなかった。
足が石のように、いや全身が鉄のように固くなっていることに気付いた。
開演前は動かせた首も、正面を向いたまま固定されたように動かせなくなっている。
自分以外の客が全員退場した。
「じゃ、あとはよろしく」
背後の男が初めて声をかけてきた。
その男が伸びをしながら僕の目の前を横切るのが一瞬だけ見えた。
開放感に満ち溢れていた。
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