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何も決めない 年始・高知の旅①

年始に衝撃的なニュースが続き、自分の心もどことなく落ち着かない。とりあえず家でじっとするのはやめた方がいい。昨年末に予定していた通りではあるが、1月4日から2泊3日で高知へと旅に出た。

青春18きっぷでの1日がかりの移動は久しぶりだ。午前9時に神戸を出て、鈍行を乗り通して高知に着くのはなんと10時間後である。物理的な距離以上にダイヤの接続が悪い。香川から四国山地を越え高知へ向かう土讃線には、普通列車がほとんど走っていないのだ。

土讃線は高知県に入る前に、一旦徳島県の三好市を縦断する。その中心駅、阿波池田に降り立ったのは午後3時過ぎ。ここで次の高知行きの出発まで1時間40分もあるので、昼食を兼ねて散策してみる。

阿波池田駅。高知方面の普通列車は1日わずか7本


ひっそりとした駅前商店街にあった、町家風のレストラン4S STAYに入った。2階は宿になっていて、1階の店内も特産物の加工品を並べたり四国の映像を流したりしている。パソコンで作業をするリモートワーカー風の人々を見ながらカレーを食べた。受付の男性に聞くと、有名な溪谷の大歩危・小歩危に近く、特急が全て停まるので観光客は多いらしい。

酒造蔵などが登録有形文化財となっている「中和商店」


町を歩くとモダンな建物が目につく。国の登録有形文化財となったものもあった。ここ池田は元は酒造や刻みタバコの製造で栄えたという。山に囲まれているが、四国の「へそ」に位置し、古くからの宿場町だったんだなと実感する。中でも大きな真鍋屋という白壁の商家は、地域交流拠点「MINDE」としてカフェや移住相談窓口になっていた。落ち着いた中庭が素敵だったが、施設は正月休み中。またゆっくり訪れてみたくなった。


1両編成のディーゼルカーに揺られ、うとうとしながら溪谷の絶壁を眺める。中国山地と比べても平地がなく日が差さない。池田は荷運びや商売、旅で山を越える人々にとってオアシスだったのだろう。土佐山田で対向列車から降りてくるたくさんの学生や通勤客を見て、「ああ抜けたな」と思った。列車は高架線を走り、午後7時過ぎに高知に着いた。

高知に足を踏み入れたのは初めてだ。コーナンと警察署という不思議な組み合わせに挟まれた駅前ロータリーを抜けて、はりまや橋へ歩く。アーケードの裏通りに入った雑居ビル2階のはりまや橋ゲストハウスに投宿した。スタッフはおらず、用紙に名前と住所を記入してポストに入れる簡素なチェックインスタイルだ。荷物の整理をしてから、晩ご飯を食べに出かけた。

帯屋町、京町という大きな2本のアーケードが東西に走っていて、高知城の方に歩くと有名なひろめ市場がある。昼間の市場かと思っていたが23時まで営業していて、フードコートのような飲み屋街だ。混雑しているので、この日は中を見て回るだけにする。帯屋町の盛り場は正月明けで人通りこそ少ないが、結構元気そうだった。アーケードの中に無料案内所があるのは少し驚いたが。

帯屋町アーケード

適当にどこかで食べようと思っていたが、1軒気になる店があった。宿の壁に貼られたQRコードの紙を読み取って見た「高知の店情報」。オーナーのおすすめをまとめたページで、「昼間からやっている居酒屋」と紹介されていた葉牡丹に目が留まった。アーケードから電車通りを挟んだ向かいに、渋い提灯とのれんをたらして佇んでいる。いっぱいかもしれないなと躊躇していた時、タイミングよく団体の客が出てきた。「今だ」とのれんをくぐると、優しげなおかみさんにカウンターに通された。

瓶ビールを1本、串揚げ盛り、しめさばときゅうり和えを頼む。メニューは定食屋のように豊富で、高知名物の海鮮よりは串がメインのようだ。エビやイカの串があっておいしかった。

客層は幅広く、初仕事終わりのサラリーマン、若いカップル、帰省中かもしれない学生グループと色んな人が入ってくる。出張でおすすめされやすい店でもあるだろう。

周りが酒を飲む中で悪目立ちするかもしれないが、メニューで気になったオムライスを頼んでみる。出てきたのは想像以上のもので、色合い、卵のコーティング、チキンライスの柔らかさが素晴らしい。

隣のスーツ姿の男性にもそれが伝わったのか、「僕もオムライスを」とつられていた。会計の時、おかみさんが「隣の人も頼んでくれてよかったね」と微笑んでいた。やはり臆せず動いてみるものだ。

翌日の計画は特にない。路面電車に乗ったり、ひろめ市場でカツオを食べたりしようか。何も決めずに旅するのはいいなと思いながら、宿に戻った。

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