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【アトツギ大全#001】継いだその日、「まず何から始めるか?」

アトツギの経営ノウハウって体系化されてないですよね。一方、スタートアップだと、シリコンバレーの起業家達の様々な書籍もあるし、日本でもMVPの作り方からファイナンス、組織まで色んな資料に安価で簡単にアクセスできます。

同じように、アトツギが事業承継に関わる際の普遍的なノウハウも一定貯まってきてあるにはあるのですが、体系的にまとまっていません。この数年、自分自身が事業承継のアトツギ側として関わってきたので、「アトツギ大全」というハッシュタグで知識とケーススタディを織り交ぜながら書いていこうと思います。


親の会社に入社前夜までに自身のwillとVisionを言語化しよう。

ものすごく良い状態で後継者が呼び戻されることは稀です。財務がダメ、事業の将来性が見通せないとか、組織が歪みあってる、マネジメント層が育ってない、DXが進まない、などなどです。組織に大鉈を振るって大改革したい所ですが、その前にアトツギのあなた自身のwill(人生で実現したいこと)とビジョン(x年後にこうなっていたいというイメージ)を言語化することが大切です。入社する前の日までに作ってみましょう。

willとビジョンが大切なのは、入社後は、往々にして旧態依然とした組織に何言っても理解されなかったり、新規事業を金の無駄と陰口叩かれたり、ベテラン社員に爪弾きにされたりとご自身のメンタルタフネスを試される場面がたびたびやってきます。そこでその時に自身の心が折れないよう、まずは自分自身がどのような願い(will)を持って家業に帰ってきたのか、自分の人生にとって、この継承が人生をどのように豊かにするのか、また10年後、「自分」「家族」「社員」がどのような状態になっていたいのか(Vision)を想像し、言語化して残しておくが、後々のハードな日々を乗り越えるのに有効です。

ケーススタディ: 
例えば、自身や家族の10年後の状態などを想像する時には「人生の輪」のフレームワークを使うことも有効です。以下の8個の要素を円状の折れ線グレフで10点満点かで示し、現状がどうか、自分がアトツギとして過ごす10年でどんな風になっていきたいのか、またそうなるにはどう過ごすのが良いのかを書き出してみましょう。
1.仕事・キャリア / 2.お金・経済 / 3.健康 / 4.家族・パートナー・恋人 /5.人間関係・友人・知人 /6.学び・自己啓発 /7.遊び・余暇 /8.物理的環境

その時にまとめたwillやvisionは手元におけるノートやいつも使うNotionに書き留めておいて、「あー、マジでしんどいな」、と思った夜に見返すと辛い時の道標になってくれると思います。

親の会社に入った初日、まずは関係性の質からGood cycleを回していこう。

今日はあなたが初めて実家の会社に出社する日です。小さい頃から顔見知りのおじさん、おばさんの社員がいて、まずは少し緊張した面持ちの先代(父親)に顔見せし、全社員集めて「よろしくお願いします!」とハキハキ挨拶。そして自分の机に戻った後、会社の財務諸表でも見ておいてくれと言われたり、父親のお得意さん周りに同行して、夜は歓迎会、そんな感じかと思います。
そして1ヶ月たち2ヶ月たち、見えてくる問題や社員の愚痴、謎の経費、不自然な日報、さてどこから手をつけようかと思います。癌のような社員にいきなり怒鳴り込んでクビにしてやろうかと若気の至りで思いますが、大体そんなことを言っても空回りして、うまくいきません。じゃあ、どうすれば良いのか。

その際にお勧めは「Good Cycle model (成功循環モデル)」をベースにした「関係性の質から始める」アプローチになります。

成功循環モデルはリンク先を見てもらうといいのですが、「①関係性の質」→「②思考の質」→「③行動の質」→「④結果の質」の順に改善していく手法です。
①社員同士の関係性がよくなったので、②一緒に頑張ろうと思うようになり、③それが行動につながって、④結果が改善する、結果が良くなることでさらに関係性がよくなる(①に戻る)、という順でやっていきましょうというアプローチ方法になります。

最初に結果の改善からやらせろよ、まどろっこしいと思う方もいると思いますが、あなたが継いだのは、歴史ある老舗企業、若造が行動を変えろといっても動く社員などいません。まずは関係性の改善に有効なアプローチは、会社の中心人物たち、具体的には企業のソースやサブソース(#003で説明)の面々と対話やビジョンの共有を通じて、彼ら/彼女らと質の良い(心理的安全性の高い)関係性を作る事です。

企業のソース/サブソースを理解する。

自分自身、13年前に帰ってきた時は右も左も分からない状態ですぐに「副社長」になりました。そこからは「副社長」という形で棚に置かれたので、ふわっとした日々が続き、その1年後(12年前)には肩書きが社長になったとはいえ、そこから10年は自分が社長と思ってなく、実家の会社にコンサルとして参加しているという意識で関わりました。

そしてその後、今から2年ほど前に真の意味で自分自身の会社と思えるようになりました。その違いは何にあったか?
以前のnoteに書いた「ソース原理」的にいうと、自身が入社した瞬間の会社のソース(魂)は自身でなく先代であり、ようやく2年前に自分にソースが継承され、真の意味で社長になれたと思います。(経緯やソース原理は詳しくは以下の投稿で)

ソースとは、傷つくリスクを負いながら最初の一歩を踏み出した創業者のことだ(あるいは、その役割を継承した人物のことである)
自分はこのソース(Source)を「最初の一歩を踏み出した創業者の魂」と解釈しています(魂がウェットな表現ですが自分にはこれがしっくりくる)。

以下のnoteから抜粋

アトツギは、肩書きが社長になって、株を注いでオーナーになった瞬間に真の意味で社長(その組織のソース)になるのはありません。「なぜ、自分が社長なのに、皆は先代の方ばかり向くのか?」という疑問や苦悩はそれはソースを継いでいないからです。まず、会社に戻ってきた時、自身が真の意味で社長でないことを受け入れ、現状のソースとそれを支えるサブソース(多くの場合は父親と苦楽と共にしたベテラン役員)の企業内での関係性の相関図を理解することが最初の一歩になります。

先代やベテラン役員との定期的な対話の場を作る。

自分自身もそうだったのですが、先代とは業務連絡は行いますが、ちゃんと目を見ての対話が出来ない、もしくは酔っ払った状態でしかお互い本音が出ないというような、ちゃんとしたコミュニケーションが出来てない状態にある事が多いです。これは近親者への気はずかしさがあったりしますが、月1回か週1回、定期的に対話の場を設けるのは大切です。また可能であればサブソースである父親を長く支えてきたベテラン役員たちとの対話も定期的に設定しましょう。

組織のソースである先代やサブソースのベテラン役員と対話を行い、相談事から課題の解決を一緒に行ったり、顔を突き合わせて会社の歴史を振り返ったり、大切にしている理念を言語化するという経験は双方にとって良い時間になるし、ソースの継承の発端にもなります。時には飲みに行ったり、サウナに行ったり、ゴルフしたりと、生理的な行動の共有も非常に重要です(生理的な行動の共有を行うと心理的な距離が近くなるからです)。

理念や経営の対話と生理的距離を近くすることをバランスよく行い、その上で心理的安全性の高い関係性をソース、サブソースと作りましょう。大切なのでは、なぁなぁな関係ではなく、お互いに良い事も悪いことも言い合える心理的安全性の高い関係性です。それをしたじきに次のアクションに移ります。

「心理的安全性(psychological safety)」とは、組織の中で自分の考えや気持ちを誰に対してでも安心して発言できる状態のことです。
組織行動学を研究するエドモンドソンが1999年に提唱した心理学用語で、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、罰したりしないと確信できる状態」と定義しています。メンバー同士の関係性で「このチーム内では、メンバーの発言や指摘によって人間関係の悪化を招くことがないという安心感が共有されている」ことが重要なポイントです。

https://www.recruit-ms.co.jp/glossary/dtl/0000000230/


全社員と面談を行う。

全社員と1時間程度の面談を行うことは大変ですが会社内の状態を把握するために有効です。ただ、順序として先代やベテラン役員との関係性構築の後、入社半年-1年後くらいで全員面談を行うのが良いかと思います。というのも、ちゃんとマネジメントが行えない組織だと、アトツギとの面談は、会社慣習とベテラン役員の悪口大会になることが多いですんで、ちゃんと理解度高めてからの方がいいです。ちゃんとした問題提起も中にはあって、それはベテラン役員の行動や商習慣を是正してもらうことが必要なのですが、彼らの考え方や行動を変えるには事前に築いた関係の質が重要です。

また、社員意見の傾聴を行うことで、若造が流されてしまい現場意見を鵜呑みにして経営的に意味のあったムーブを辞めさせるという良くあるアクションはマイナスしか組織に生みません。大切なのは、ロジックで見つつ、関係性の質に基づいたアプローチを行う、ベテラン役員の意見も聞きつつ、スモールサクセス(小さな改善)を積み上げていくことになります。


今回は人間関係に重点を置いた内容にしました。ちなみに自分の時は全然出来てなくて、全員面談して鵜呑みにして役員すっ飛ばして現場の業務フロー変えたのですが、しばらくしたら元に戻ってました。そういう後で思い出して恥ずかしくなるような失敗を起こさないようにするのが大切ですね。

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