瑞牆山 山灯花(5.12d)
冒頭
「もろた!!これでやっと終わる・・・!」
今日2便目。今までで状態は一番良くて、核心を超えた。あとは、ちょっと小悪いムーブをこなすだけ。
もしかしたら、今年ラストの便だったかもしれない。
小ヤスリ岩の山灯花に通って6日目。微笑街道から始まり、結局1年間小ヤスリ岩に通い込んだ。
1時間半の遠くて急なアプローチをもうこなさなくていいんだ!
終点の灯りはもうそこ!!
これで終わる。とにかくこれで終わるんだ!!
この一手を取ったら足をあげてたら全てが終わる!
最後の一手を出す。
取った!!!
そう思ったのは一瞬だった。
デットをしたら右足が切れた。
「ヤバい!」そう思って右手を握り込む。
しかし、握り込めなかった。良いインカットしたガバカチなのに、握り込めなかった。
自分の手が、足が、壁からゆっくりと離れていく。
もう一度掴み直そうと手を出すが、無情にも宙を舞う。
「こんな事があるんかよ・・・。なんで握り込まなかったんだよ・・・!!なんでだよ!!!握れよ!!!!!!!!」
もはや言葉に聞こえない叫び声をあげる。
自分の不甲斐なさに涙が込み上げてくる。ロープにぶら下がったまま泣いた。
末端壁にも叫び声は聞こえていたらしい。
しかし、そんな事はその時の僕にとってはどうでもよかった。
終点が見える目の前で、今年の最終切符だったかもしれない便の切符。それを落としてしまった現実を突きつけられた。
ビレイ点に下してもらったが、悔しくて足に力が入らず座り込んでしまった。
周りを見ると夕陽が沈んでいく。
灯りは遠く暗くなってしまった。
不甲斐ない自分にまた涙が込み上げてきた。
始まり
今シーズンはやはりというか、何というか、なかなかクライミングが出来ない中で、自分なりのクライミングを模索しつつ、去年できなかったRPのピラミッドをつくる為に、簡単なものから難しいものまでとにかく沢山登って地力をつけるというのが目標でした。
そんな中でも、惚れたラインが一つありました。
それが、表題にもある山灯花です。
植樹祭の駐車場から約1時間半のアプローチ。
頂上付近の岩にここを登るんだと言わんばかりにあるド真ん中のライン。
25mにボルトは7本。登攀距離は壁を右左に登るのでもっとあるはず。それに、核心を超えてもまだボルトはない。落ちるとボルトルートなのにめちゃ落ちる。
そんなラインを登りたくて間隔は空きつつも計7日間小ヤスリ岩に通いました。
1日目(5月29日)
この日は、微笑街道をなんかサクッと登る事が出来た。
↓その記録
時間が余り過ぎたので一緒に来たあやか姐さんがトップロープで触っていたのに便乗して山灯花を触る。
何となくムーブが全体的に出来てしまった。なんかいけそうな気がしたので「通いたいなー。けど、遠いな~・・・。」と思った気がする。
この日はなんとなくムーブを作って終了。
2日目(7月1日)
約2か月後。
再び小ヤスリ岩に。この日はとねぎさんと。
暑くてRPは不可能なのでトップロープでムーブバラシに徹する。
ムーブを全て忘れていたので絶望した。あれ?こんな難しかったけ??
ただ、ほぼノーハンドレストを出来ることを発見。その他は、核心が真夏の昼間は持てないという事だけ分かった。はい、絶望(2回目)。
その日は、ノーハンドレストの発見と秋になったらなんか出来そう感だけ得て終了。
3日目(9月19日)
約2か月後。
この日はお久しぶりのまっすーさんと。
一回目はトップロープで触る。あれ?なんか出来そう・・・!
とりあえずトップアウトだけして降りる。
もうトップロープはいいと感じたので、2回目からはリードをする。
各駅停車になってしまったが、リードでトップアウトは出来た。ずっと感じてはいたけど、繋げ核心と思った。あと、もう少し手順・足順を修正しないと絶対登れない。
3回目、ヘッドライトを付けながら核心越えて落ちるを繰り返した。結局トップアウトできずに裏から回り込んで回収。
まっすーさん。遅くまで付き合っていただきありがとうございました。
ただ、これはたぶん出来るルートだと確信めいた何かを感じた。
4日目(10月14日)
夏もいつの間にか過ぎて秋になりかけてた。
この日は萩さんと。
トップロープをする意味をもう感じなかったので、初めからリードで。
とりあえずトップアウトだけして各セクションのムーブを固める。核心はリーチムーブで確率が良いムーブを発見。これはかなり大きい発見だった。一気にRPが見えてきた。
次の便。めっちゃ集中できてた。声すら出なかった。それぐらい集中できてた。いつの間にか核心を超えれた。
「あ、核心超えれた!」と思ったら、フットホールドにロープが重なってる。
「ヤバい!」と思って少し足順を修正して登った瞬間。落ちた。スリップして落ちてしまった。
「Fuuuuuck!!!!やってもーたー!!!!!」
けれど、それぐらい集中できてた。ㇵァ・・・。
しゃあないのでムーブをしっかりと修正してトップアウトする。
萩さんは
「いつの間にか核心越えててビックリしたよ~。かんちゃんは見せてくれるね~。撮影の為にRPしなかったのでしょ?」
と言ってくれた笑
なぜか分からないけどほっこりした笑
ありがとう萩さん。
うん。できれば登りたかった・・・。
来週一発で決めれるようにイメトレできる期間がしっかりできたし良いかと考え直す。
まぁ、RPの瞬間を萩さんに撮影してもらおう笑
決めきれない自分の弱さを噛み締めて帰った。
平凡な自分には下を向いている暇なんかないや!!
登って、トレーニングして、もっと強くなるんや自分!!!
と自分に言い聞かせる。
寒い中、一日だけ、しかも僕に完全に付き合ってもらう感じなのに一緒に行ってくれた萩さん。ありがとうございました。
5日目(10月22日)
前日にダイハードで敗退し、気持ちを切り替えて山灯花。
この日は寒い!!ダウンを2枚着てビレイしなければ耐えられない。
パートナーはあやか姐さんと萩さん。
前来た時より進めなかった。
なぜなんだ‥。
一歩進んで2歩退がる。
ここ最近のクライミングはずっとこんな感じ。
明日頑張ろう。
6日目(10月23日)
この日もあやか姐さんと萩さん。
あやかさんは先にRPした。どうやら、クリップを腰クリップに変えたら楽になるらしい。
背に腹はかえられない。僕もそうしよう。落ちると7mぐらい落ちるけど。
クライムオン。
核心をスムーズに越えれた。
上手くレストも出来た。
最終クリップまで行けた。これはいける!!
はやる気持ちを抑える。
冒頭に戻る・・・。
「もう一便出そうよ!まだ時間あるから!!」
そうあやか姐さんが言ってくれた。
「ダウン・・・。ストップ・・・。ダウン・・・。」
消え入りそうな声でお願いして、ホールドを掃除する。
ビレイ点で足に力が入らなかった。座り込んで不甲斐ない自分にまた泣いた。
決めきれなかった。ただそれだけ。
あと一手。けれど、その一手が遠かった。
陣地に戻って声にならない呻き声をあげる。
その横で、萩さんと姐さんが撮影の事で言い合いをしている。(ほぼ姐さんが萩さんに意見を言っているだけだったが・・・。)
それを聞いていると自分の事なんてどうでも良くなってきた。
なんか萩さんが可哀想になってきたので仲裁に入る。
この出来事で気持ちは切り替えられた。
もう一便出すもRPなんかできるわけもなかった。
トップアウトして最後のムーブをちゃんと固めた。
そういえば、一番初めのムーブはデッドじゃなくてこのスタティックムーブだった。
落ちたのはヨレてても止めれるという過剰な自信が招いた結果だった。
「自惚れてたなぁ‥。」そう思いながら帰宅。
帰り際、末端壁で登る準備をするかっしーがいた。
ヘッデンを付けて。
どうやら、トワイライトをオンサイトトライするらしい。
意味が分からない。
なぜ暗い中トワイライトをオンサイトトライするの??
結局、落ちてカムが抜けていたが、そのままトップアウトしていた。(次の日登れたらしい)
「こういう人が強くなるんだろうなぁ。」そう思った。
「かんちゃんは平凡だから。」
誰かに言われたこの言葉が僕に重くのしかかる。
7日目(10月29日)
この日はとねぎさんと。
たぶんシーズンラストチャンス。
意外と暖かく、これは完璧な状態じゃないか??と駐車場で話したが、小ヤスリに近づくにつれてだんだん雲が濃くなってくる。
とりあえず、回り込んでヌンチャクをかける。
そのついでにムーブも確認する。寒いことを除けばフリクションは1番良い!!
これはいける!今日登り切るしかない!!!
登り始める準備をする。
いつも通り1ピン目だけかけて、シューズを履く。
風が強くなってきた。
「頼むから、そろそろ登らせてくれよ‥。」
とボソッと呟く。
意を決して登り始める。
4ピン目まで登ってレストする。
良い感じでパンプが取れてきたところで再び登り始める。
やはりフリクションは良い。もはや自動化した核心のムーブをこなす。いつの間にか核心を超えてた。
心を落ち着かせる。
レストをしつつチョークアップをする。
「痛っった!!??!」
どうなら噴き上がる風でチョークが舞い、左目にチョークが入ってみたい‥。
「マジかよ‥。」
左目を開けると、コンタクトにチョークが入り込んで視界が白色になる。「まだ登らせてくれないのか‥。」そう思ったのは一瞬。もはやここまで来たら登り切るしかない。「スタンスとホールドとムーブは完璧だろ??登れよ!!!!」と自分を奮い立たせる。
死んでる視界の左目を瞑りつつ、ムーブを起こす。遠近感が上手く掴めなかったが、体はスタンスの距離を覚えているようで、なんとかムーブをこなせる。
何度か距離感がおかしくて落ちそうになったが、気合いで次の手を取りに行く。
この前落ちたところまで来た。もう登るしかない。次はスタティックにムーブを起こす。
完全に取った!!!
足をあげる。ゆっくりとマントルを返す。
やっと終わった。登れた。登らせてくれた。
視界には秋の深まった山の灯りと瑞牆の岩塔群が一面に広がっていた。
「ありがとう。」
それが1番始めに出た言葉だった。
感想
微笑街道から始まり、結局、一年間通して小ヤスリ岩に通ってました。
登った後も相方のビレイに小ヤスリに行ったので、計10日間も小ヤスリ岩に行きました。たぶん、今年の日本で1番通ったと思います。
小ヤスリ上段のルートはどれもボルトルートなのに、落ちると7mぐらい落ちるところは落ちます。
聞いた話しによると、どうやら目打ちでなんとボルトを打ったらしく、それでなぜかランナウトするぽいです。
それはそれとして、
「微笑街道」「山灯花」「蒼天攀路」
どれも最高なルートです。この3部作を登り切れて個人的には今年の花崗岩は割と登れたかなと。
この3本は、小ヤスリを正面に左から、
12c・12d・12a
と割と難しいグレードというのもありますが、3本登る1番の核心は、パートナーだと思います。
1時間半のアプローチで遠い、12台しかない。この条件で、一緒に行って貰えるパートナーがたまたま見つかり、皆んな快く?付き合っていただけたので、登り切れました。改めて、ありがとうございました。
最後に
今年の1月。
周りとのギャップに自分が本当に山やクライミングが好きなのか分からなくなり、1ヶ月半の間、山もクライミングもジムすら全く行かなかった。
けれど、山やクライミングの磁力は強い様で、なんやかんやまた始めた。
一年間小ヤスリ岩に通って、山灯花でフォールして泣き、それでも諦めずに通って、やっぱり僕はクライミングが好きなんだなと思いました。
僕の灯火となってくれたこのルートに、一緒に通ってくれたパートナーの方達に感謝したいです。
ありがとうございました。
カエル
p.s.
萩さんが動画作ってくれました。
いつもありがとうございます!
萩さんに取って貰えると本物の100倍カッコよく映るので嬉しいです笑
p.s.のp.s.
馬目さんに会う機会があり、なぜあのピン間なのかを聞いてみました。
元々、微笑街道のラインがエイドラインだったらしく、馬目さん・佐藤裕介さん・ジャンボさんの3人でそのエイドを登りにいったら、どうやらフリー化出来そうだぞ!という事で、小ヤスリ岩の開拓が始まったらしいです。
小ヤスリの3本のコンセプトは、マスターで登る事をコンセプトで開拓したらしく、その結果、あのピン間になったそうです。
確かに、どのラインもほぼ腰クリップに近く、マスターで登ってもヌンチャクがかかっていてもそんなに変わらない気がします。
ちなみに、山灯花はジャンボさんがボルトを打って馬目さんが初登になったらしいです。
続人生劇場では、山灯花をマスターで登るの事になるので、次はコンセプト通りマスターで登りたいなぁ。
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