ある1つのサッカー、そのはじまり diary2023.4.2

日本最北端の国立大学、北見工業大学。そのサッカー部。今年の部長は僕だ。

僕らは今まで、大学の中で、仲間とだけボールを蹴っていれば満足だった。けれどもうすぐ、このサッカー部は北海道で切磋琢磨の輪に加わることになる。今日はその黎明のシーンの1つだったから、書き残す。

たった一つの声から、それは始まった。

同期のKが、本気でこのサッカー部を「チーム」にしたい、と僕に言ったのはいつだっただろうか。つい最近のような気もするし、随分と昔のような気もする。その最初の一歩はあまりに重く、もし彼がいなければ、僕は決してこれを書いていない。

過去を振り返ってみる。僕にとってサッカーはその喜びを味わえるものではなく、自分の外側にあってただ美しいだけのものだった。サッカーというスポーツに対する憧れはあったが、それは自分がプレーしているときでも憧れのままで、真に自分ごととしてサッカーを捉えることはなかった。そもそも運動神経は、悪くこそないが決して良くもなかったし、文化的、もっと言えばオタク的な趣味に、より強く魅せられていたということもあった。何より僕は、根本的に性格がサッカーに向いていないとすら思っていた。僕の目に映るサッカーは努力・友情がただ美しかったが、僕は怠惰で、ひねくれていて、自己評価を含めて醜かったと思う。

惰性で続けていたが、サッカーは中学までで一度やめた。下手に公立中学に行っていたら僕は高校まで続けていたかもしれないが、都内にある強豪の市立中学だったのが幸いした。完全に諦めがついた半端者の僕は、一度サッカーから離れた。あるいは、その決断をもって半端者ではないと言えるのかもしれないが。

この選択を僕は後悔していない。サッカーから離れるにしても、高校という、学校生活の中で最も比重が大きいと感じる人もいるであろう期間だ。しかし大きな幸運があり、僕は部活動で音楽と共に過ごした高校の3年間に、サッカーを続けていたら絶対に出会えなかった、無二の出会いを得ることができた。おそらく高校での出会いがなければ、僕はサッカーを続けなかったことを後悔しただろう。けれど運にはなぜだか自信があるのだ。

そして僕はこの期間があったおかげで、今サッカーをやっている。それまでの僕にとってサッカーは自分のものでなかった。ずっと逃げ出したかった。僕は本来、本と音楽と映像だけに浸って学生生活を過ごすのに最も適しているような人間で、幼少期に親がサッカーと引き合わせてくれたという理由だけが、中学まで僕をサッカー部に押しとどめた。親のせいにしているわけではない。むしろ、結果的にはサッカーとの出会いをくれて感謝している。ただ、才能も努力もなく、友達を作る力もなかった当時の僕にとって、サッカーは重荷だった。一度、外側からサッカーを見る時間が必要だった。

僕はこのサッカーをやらず、できなかった3年間によって、自分の意志でサッカーが好きと言えるようになった。

大学生になってようやく、1人の人間としてサッカーと向き合えるようになったのは喜ばしい。ただ入学したとき、大学にサッカーチームはなかった。サッカー部は仲間内だけでサッカーを楽しんでいた。確かに気楽でいい。僕のような奴でも気負わなくていいし。ただ、2年間やって少し気持ちは変わっていた。サッカー部はみんな、高校まで勝負の世界でサッカーをやっていた人たちで、僕よりずっとうまい。人数だってこれだけいるのに、どうして外で試合をしないのだろう。もったいない。

けれど別段不満があったわけではない。それならそれで何も問題はなかった。サッカーとは全く関係ない趣味が沢山ある僕は特にそうだったのではないか。

けれど巡り合わせというものは本当にある。

こんなサッカー部だから、部長を選ぶときにサッカーの上手さなんてどうでもいい。なりゆきは省くが、僕は部長になった。むしろ下手さからえらんだのではないかというくらいだ。

それでも僕は最初の一歩を踏み出す気なんてなかった。確かにチームでないのはもったいないけれど、チームを作ろうと決める、という最初の一歩は、僕にとっては重すぎた。

けれど同期のKが最初の一歩をくれただけで、僕はやる気になった。逆に言えば、それくらい最初の決断が重かったのだ。1人の味方を得た僕は、そこまでモチベーションがあったのかというほどやる気になったのだ。

何を書きたくてどうまとめればいいんだったっけ。

そう、今日は学生サッカー連盟の総会があったんだった。

すごく疲れた。3時間もあったし、でも重要な確認事項ばかりで気を緩められないし、新加盟だから唯一挨拶も求められたし、やらなきゃいけないことが山積みで頭抱えたくなってくるし。

けど、北海道じゅうのサッカー仲間とオンライン会議に参加しているときも、大学のひみつの場所で手続きをしながら電話でKと今後の話し合いをしたときも、手続きのために部員の登録情報とかを連絡でもらえたときも、本当にチームが自分たちの手でゼロからスタートするんだ、っていう高揚感、ワクワク、なんとも言えない嬉しさで、まだ始まってもいないのに、感無量というか、いろんな感情でいっぱいだった。

そういえば、そもそもこれを言ってなかった。僕は北見が好きだ。

どうかこのサッカー部が続いて、未来の自分でも、自分の知らない後輩でも構わないから、これを読み返して、自分たちのサッカーのはじまり、その1ページ、その日のよろこびの言葉を受け取ってくれたらいいな。

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