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桜前。まだ色のない都内の風景

文字に残さないと、忘れてしまう小さな感情がある。

玄関を出て後悔するアウターの不必要さ

エレベーター内に貼られた手洗いうがいの注意喚起の張り紙

2-3回振り子のようにワイパーを動作させないとならない花粉の粒子たち

呼吸することを諦めたオフィス街

お披露目の出番を控えた七分咲きの桜坂

腰の曲がったお婆ちゃんが、軽くこちらへ会釈しゆっくり渡る短い横断歩道

日本の未来を憂い拡声器なノイズの塊。深緑の車

昼寝した墓地に咲く淡いヤマザクラ

淀みなく走れる表参道

もう休んで良いよ‥目を閉じた旧原宿駅舎

仕事終わりの彼女を駐車待ちした原宿駅の突き当り

道路から見える全景が一変した代々木公園

コロナウイルスの事を砂消しのように消し去ってくれる渋谷のスクランブル

休日の暖かくて柔らかい風が流れる代官山の教会前

急な坂道の脇に建つレゴブロックなマンション

目黒川の桜で稼ごうと店先で必死に呼び込む昼の居酒屋

玉ねぎを食べてサラサラ血液のように流れの良い山手通り

ベイブリッジから眺めた自分たちの役割を心配するオリンピック選手村

そして

センサーの反応が悪くなり

ロックがかかりにくくなった僕の車と

そこに枝葉をもたげた色のない桜蕾たち

まだ、春前。

平凡な休日のドライブで感じた

記録と記憶。


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