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【私訳】『水滸伝』の名場面「武松の虎退治」(後編)
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『水滸伝』の名場面「武松の虎退治」の続きです。
酒屋でしこたま飲んで酔っ払った武松は、店主の忠告を聞かずに、虎が出ると言われている峠を登って行きました。
道中、果たして大虎が現れて・・・
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武松は「おお!」と叫び、青石から転げ落ち、とっさに棍棒を手に取って、石の陰に身をかわした。
虎は腹を空かせていた。
両方の前足の爪を地面に立てて身をかがめるや、パッと身体を宙に浮かせて跳びかかってきた。
武松は、びっくり仰天、酒がすっかり冷や汗となって吹き出す中、すばやく身を翻して虎の背後に回った。
虎というものは、背後に回られるのが苦手だ。
前足でグッと地面を押さえ、腰を浮かせて後ろ足を蹴り上げた。
武松がサッと身をかわすと、蹴りそこねた虎は、「うおお!」と一声吼え、その咆哮は雷のように鳴り響いて山を震い揺るがした。
虎は鉄棒のような尾を逆立ててひと振りしたが、間一髪、武松はこれもまたうまくかわした。
だいたい虎が人を襲う時は、「ひと跳び、ひと蹴り、ひと振り」の三手。
この三手をしくじると、勢いが半ばそがれてしまう。
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三手ともしくじった虎は、またもや「うおお!」と一声吼えると、くるりと向きを変えた。
虎が再び襲いかかってくると、武松は両手で棍棒を振り回し、あらん限りの力を込めて、「えいやっ!」と打ち下ろした。
すると、バサバサッと音がして、葉の茂った木の枝が武松の頭の上に落ちてきた。
目を凝らして見ると、棍棒は虎には当たらず、焦って打ったために枯れ木に当たって棒が真っ二つに折れてしまっていた。
武松の手には、折れた半分だけが残っていた。
虎が再び咆哮し、怒り狂ったように襲いかかってくると、武松はサッと宙に跳んで身をかわし、十歩ほど後へ下がった。
虎は前足の爪で地面をグッと押さえ、武松の真っ正面で身構えた。
武松は半分になった棍棒を傍らに投げ捨て、虎が跳びかかってくると、すかさず両手で虎の頭の皮をむんずとひっつかみ、力まかせに虎を地面にグイッと押さえつけた。
虎は必死にもがいたが、武松の腕力にねじ伏せられて、ピクリとも身動きできない。
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武松は足で虎の眉間と両目をめがけて力一杯蹴りまくった。
虎は吼え立てながら、バタバタと身もだえして、前足で身体の下の泥土を掻き上げた。
地面がえぐられて坑が空き、両脇に泥の山を二つこしらえた。
武松が虎の口を坑にぐいぐい押し付けると、虎はもはやどうすることもできず、ぐったりと動かなくなった。
武松は左手で虎の頭をギュッとつかんだまま、右手をそっと放して、鉄槌のような拳を振り上げ、あらん限りの力でボカボカと殴りまくった。
五十から七十発ほど殴ると、虎の目、口、鼻、耳からドッと鮮血が噴き出し、ぐったりとして動かなくなり、口だけが力なくハアハアと喘いでいた。
武松は手を放し、松の木の辺りで折れた棍棒を見つけ出し、虎がまだ死んでいないかもしれないと思い、再びその折れた棒でひとしきり殴り続けた。
間違いなく息絶えたのを見届けてから、ようやく棍棒を投げ捨てた。
武松は、「はて、このお陀仏した虎をどうやってここから運ぼうか」と思案した。
血だまりの中から両手で持ち上げようとしたが、まったく動かすことができない。
それもそのはず、武松は体中の力を使い果たし、手も足もすっかり力が抜けていたのだった。
武松は青石の上に座ってしばらく休み、じっと考え込んだ。
「どうやら日も暮れてきた。もしまた別の虎が跳び出てきでもしたら、もうどうにも立ち向かえん。ひと踏ん張りしてまずは峠を下りることにしよう。明日の朝引き返して始末すりゃいい」
そう言って石の傍らに落ちた笠を拾い、雑木林の中を巡りながら、一歩一歩峠を下りて行った。
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中国の古い長編小説の多くは、都市の盛り場での講釈を母胎としています。
『水滸伝』も、元来は、個々の豪傑たちの銘々伝が講釈師によって語られたものです。
「武松打虎」は、数々の「水滸物語」の中でもとりわけ民衆に人気のあった痛快な故事です。
酔った武松と酒屋の店主の掛け合い、そして延々と克明に語られる人食い虎との格闘シーンは、講釈師が「ここぞ腕の見せ所」とばかり熱弁を振るった場面です。
今でも「武松打虎」は、京劇の演目にもなって人気を博しています。
【原文】
武松見了,叫聲「阿呀」,從青石上翻將下來,便拿那條哨棒在手裡,閃在青石邊。那大蟲又餓又渴,把兩隻爪在地上略按一按,和身望上一撲,從半空裡攛將下來。武松被那一驚,酒都作冷汗出了。說時遲,那時快;武松見大蟲撲來,只一閃,閃在大蟲背後。那大蟲背後看人最難,便把前爪搭在地下,把腰胯一掀,掀將起來。武松只一閃,閃在一邊。大蟲見掀他不著,吼一聲,卻似半天里起個霹靂,振得那山岡也動,把這鐵棒也似虎尾倒豎起來只一剪。武松卻又閃在一邊。原來那大蟲拿人只是一撲,一掀,一剪;三般捉不著時,氣性先自沒了一半。
那大蟲又剪不著,再吼了一聲,一兜兜將回來。武松見那大蟲復翻身回來,雙手輪起哨棒,盡平生氣力,只一棒,從半空劈將下來。只聽得一聲響,簌簌地,將那樹連枝帶葉劈臉打將下來。定睛看時,一棒劈不著大蟲,原來打急了,正打在枯樹上,把那條哨棒折做兩截,只拿得一半在手裡。那大蟲咆哮,性發起來,翻身又只一撲撲將來。武松又只一跳,卻退了十步遠。那大蟲恰好把兩只前爪搭在武松面前。武松將半截棒丟在一邊,兩隻手就勢把大蟲頂花皮胳嗒地揪住,一按按將下來。那只大蟲急要掙扎,被武松盡力氣捺定,那裡肯放半點兒松寬。
武松把隻腳望大蟲面門上、眼睛裡只顧亂踢。那大蟲咆哮起來,把身底下爬起兩堆黃泥做了一個土坑。武松把大蟲嘴直按下黃泥坑裡去。那大蟲吃武松奈何得沒了些氣力。武松把左手緊緊地揪住頂花皮,偷出右手來,提起鐵錘般大小拳頭,盡平生之力只顧打。打到五七十拳,那大蟲眼裡,口裡,鼻子里,耳朵裡,都迸出鮮血來,更動彈不得,只剩口裡兀自氣喘。武松放了手來,松樹邊尋那打折的哨棒,拿在手裏;只怕大蟲不死,把棒橛又打了一回。眼見氣都沒了,方才丟了棒,尋思道:「我就地拖得這死大蟲下岡子去?……」就血泊里雙手來提時,那裡提得動。原來使盡了氣力,手腳都蘇軟了。武松再來青石上坐了半歇,尋思道:「天色看看黑了,儻或又跳出一隻大蟲來時,卻怎地鬥得他過? 且掙扎下岡子去,明早卻來理會。」 就石頭邊尋了氈笠兒,轉過亂樹林邊,一步步捱下岡子來。
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