十九本目『原沢久喜選手と柔道ブンデスリーガ』
今回は6/27-30までの4日間、原沢久喜選手がドイツに滞在し、NRW州のJC 66 Bottropのクラブチームのメンバーとして柔道ブンデスリーガに参戦されたことについて書いてきます。
それでは参りましょう。「はじめ!」
ドイツの柔道ブンデスリーガ
以前の記事でも紹介しましたが、ドイツでは年間を通して全国の柔道のクラブチームのリーグ戦が開催されており、各クラブチームがしのぎを削っています。
ドイツの柔道ブンデスリーガは、ドイツ柔道連盟(DJB)が主催する、ドイツの柔道スポーツの最高峰リーグに位置付けられています。ドイツ全土のさまざまなチームで構成されており、リーグはブンデスリーガ1部と2部の2つに分かれています。
組織と構造
ブンデスリーガは地理的な基準によって北と南の2グループに分けらています。各グループの上位チームがシーズン終了後のプレーオフで対戦し、ドイツ国内のチャンピオンを決めます。
シーズンと大会
基本的にシーズンは春に始まり秋に終わります。各チームは一定期間ごとに対戦し、試合結果はブンデスリーガの公式Webサイトの順位表と得点表に記録されます。各グループの成績上位チームは最終ラウンド(プレーオフ)への出場権を得ます。
ルールと参加チーム
大会は国際柔道連盟(IJF)の国際柔道ルールに従って行われ。チームは男女別の7階級で構成されます。国際的に活躍する柔道家もたくさん出場しています。
普及と発展
柔道ブンデスリーガは、ドイツにおける柔道競技の普及とクラブチームの地域貢献に重要な役割を果たしています。才能ある柔道家がともに成長し、高いレベルで競い合える場を提供しています。ドイツの柔道文化の重要な一部であり、柔道の人気とさらなる発展に貢献していると言えます。
原沢選手の渡独の経緯
昨年2023年の12月に柔道グランドスラム東京大会で、ドイツ女子のコーチとしてナショナルチームに帯同していた時に、X (旧ツイッター)で原沢選手からDMでブンデスリーガについてお話ししたいことがあるという内容で相談をいただいており、大会後の講道館での国際合宿の合間に顔合わせをすることになりました。
原沢選手は2024年7月にフランスのクラブチームで講習会のオファーがあったので、そのヨーロッパ滞在期間に合わせて6月29日のブンデスリーガの第5節に参戦できないかと計画を立てました。
今回は北地区のJC 66 Bottropというクラブチームで選手登録の契約をしましたが、もともとは別のチームでも契約の話があったようです。しかしそのクラブチームとは思うように契約の話が進まなかった(先方から選手登録締め切り期間直前になっても連絡がなかった)ようなので、僕の知り合いの指導者がいるクラブチームで契約の話を進めることになりました。
1シーズン1回だけの参戦はできるのか?
以前は1シーズンに最低参加日数が決まっており、その日数参加できない場合はチームに違約金が発生していたと思うのですが、今回契約の段階で確認したらその罰金制度は今はないようでした。なので原沢選手がある一節の試合にだけ参加することも可能となりました。
なので今後は、チームと契約さえできれば日本選手のサプライズ参戦も増えていくのではないかと期待しています。
チームとの契約
しかし契約内容は各クラブチーム、各選手によって異なります。今回の原沢選手の契約は選手登録締め切りギリギリだったにもかかわらずスムーズに成立したのは、その条件がクラブチームとって良かったからだと言えます。
航空費がクラブチーム持ちではなかったこと
選手層の薄い最重量級(+100kg級)での参戦であったこと
国際的なネームバリューと大会実績を持ち合わせていたこと
仲介者がよく知っている人物であったこと
言語の壁がなかったこと
etc
このように様々な条件やタイミングが重なって今回の契約が成立したと言えるので、必ずしも日本人だからといって契約ができるというわけではないのでご注意ください。
契約は英語またはドイツ語で行われますので自分の提示する条件と相手の提示する条件をお互いが理解し、その条件のすり合わせができるかが、重要なポイントになります。ブンデスリーガに興味をお持ちの方は最低でも英語を習得することを推奨しておきます。
試合結果
試合は各7階級2回ずつ行われ、計14試合の内、勝ち数の多いチームの勝利となります。引き分けはなくゴールデンスコア(GS)方式で必ず勝敗をつけます。
原沢選手の出場する100超級は一番目の階級となり、いきなりの登場となりました。1試合目は相手が釣手を絞ってくるのを利用した内股巻き込みで一本、2試合目は指導3での辛勝となりましたが、チームの勝利に大きく貢献してくれました。
Bottropはチームとしても9勝5敗という内容で、同じNRW州のSUA Wittenとのダービー戦を勝利で終えることができたので、仲介をした自分自身もホッと一安心でした。
柔道ブンデスリーガの役割
今回久々にブンデスリーガを観戦し、改めて柔道の持つ価値について色々と考えさせられました。
ブンデスリーガという場は、
競争力の高い試合によるエリート選手の能力の開発
若手選手が世界トップ選手と試合できる貴重な機会の提供
ナショナルチームを引退した選手の第二の柔道キャリアや目標としての役割
ドイツにおける柔道の大衆化(柔道への熱意と関心を高める)
柔道クラブの振興と発展(トレーニングや大会、組織の構造の改善)
柔道のスポーツとしての質の向上
柔道のコミュニティとチーム精神の促進(選手、コーチ、サポーター)=地域貢献
などのドイツにおける柔道の発展、振興、普及において大きな役割を果たしており、アスリートにパフォーマンス披露の場を提供するだけでなく、あらゆるレベル(プロ/アマ、プレーヤー/サポーター問わず)で柔道の継続的な向上と大衆化を支援しているのだと感じました。
選手の中には小さい頃からクラブチームに所属し、ナショナルチームに所属している(していた)選手もいれば、ナショナルチームに入るために努力している州選抜レベルの若手選手、ナショナルチームには入れなかったけれどもチームの勝利に貢献するために仕事や学業と並行して柔道のトレーニングを行なっている選手、そして助っ人外国人選手など、その姿は様々です。
そんな柔道家達がチーム一丸となって試合を盛り上げ、パフォーマンスを発揮する姿は心にグッとくるものがあります。また、クラブチームに所属する小学生や中学生の子供達も応援に駆けつけ、試合をするトップ選手達を身近に感じることで、後の柔道家としての目標や夢として大きなモチベーションになっているんじゃないかと思います。
クラブチームで柔道をすることのメリット
クラブチームで柔道をするということは、そのクラブチームは所属選手を子供から大人になるまで指導することになるので、その育成計画も長期的に考えることができます。もちろん各クラブでの差異や指導者によっては個人差はあると思いますが。
その場その場での試合の結果だけでなく、将来的にどのような柔道家になって欲しいのか、なれるかを長期的な視点で探りながら、そしてその選手をより良く理解しながら育成ができるのだと思います。
ある時点で競技スポーツの選手として結果が出せなくても別の目標を持って柔道に取り組むこともできますし、または所属選手のサポート役として長期にわたってチームに貢献することもできます。
ドイツで柔道が生涯スポーツとしても普及しているのには、このクラブチームのシステムがあってこそなのだと思います。
謝辞
最後になりましたが、忙しいスケジュールの中ドイツに来ていただき、ブンデスリーガに参戦してくださった原沢選手には心から感謝の意を表したいと思います。
4日間の短い滞在期間で、ケルンNTCで行われていたドイツ女子のナショナルチームの合宿の視察や、合同練習への参加、さらには我々のクラブチームJC 71 Düsseldorf e.V.では貴重な講習会もしていただきました。
ハードスケジュールでベストコンディションではなかったはずですが、ブンデスリーガでも勝利をもぎ取るクレバーさには脱帽でした!
今後も日本とドイツの柔道界で様々な交流を築いていきたいと思いますのでどうぞよろしくお願いいたします。
それでは今回はこのへんで。「それまで!」ではまた。
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