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社外役員として自己の実効性評価をしたとしたら

恒例の「社外取締役特集」を読んで考えた

週刊ダイヤモンドの社外取締役特集で、1社で3000万円も4000万円も役員報酬をもらう方がいらっしゃると拝見し、そういう方の報酬ってどういう根拠で決まっているのだろうかと思いました。

有価証券報告書のコーポレートガバナンスの状況など見ていると、取締役会での議決権はあるとはいえ、経営の監督側である取締役の報酬は固定給であるところが多いです。
業績を問わず監督するのにかかる費用は定額でお支払いしますよ、ということなのだと理解していますが、公式の会議の出席回数を見ると、取締役会、指名委員会、報酬委員会などいろいろ足しても多くて年間30回前後。
社外役員の話ということで執行しないとなると、基本的には会議出席が業務となると考えられるので、記載以外の業務があるとすれば、執行役員会議や経営会議の傍聴、サステナビリティー委員会、リスク管理委員会、ダイバーシティー委員会等にもオブザーバー参加されているのかも?
あるいは、取締役会出席にあたり、準備に相当時間をかけられているのかもしれませんが、非常勤なので月の従事日数は数時間から多くて3~4日ではないか。
会計専門家の場合と同様として時給2万円としても、2万×8時間×4日×12カ月で800万弱なので(2万って相当高いですし年間通じて毎月4日も稼働することもないかもですが)、3000万となると拘束時間で報酬が決まっているわけではないでしょうね。逆に、プライムの会社の役員報酬の最頻値が年間600万円、というのは「時間で計算してざっとそんなもの」なのかも知れません。
600万円を大きく上回るとすると、その方の高度な知識や専門性によるコンサルティングやアドバイスを期待しているのか、その方が他の業務に従事することに対する機会損失を補償しているのか、あるいは著名な方の名前使用に対する対価なのか?もちろん、訴訟や場合によってはレピュテーションリスクに対する部分もあるのでしょうが。

結局、「経営に対する監督」とはどのような素養のある方がどのくらいの時間をかけて、どのような活動をされたのか、というところに着地するのだろうなと思い至りました。それで数千万ってどんな計算だろうかと思わないでもないですが、まずは、人のふり見て我が振りを直そう、ということで。

取締役会の実効性評価

最近では、「取締役会の実効性評価」を自社あるいは第三者機関などに依頼して実施し、結果を開示されている会社が増えています。取締役「会」なので、会議体として、自社に必要とされる知見を持った人選がなされていること、会議で反対意見がでるなど十分に議論がなされているかといった議論の質、社外役員が判断できるように情報提供するなどサポートがなされているか、等の観点から、構成員にアンケートがあり、その結果を集計するなどして振り返りを行い、翌年以降の改善につなげるといったものです。さらに踏み込んで個々の取締役の評価をされる会社もあるようです。
個人の評価を行うとすると、その方が会議、ひいては経営の監督ににどのように貢献したのかが問われることになろうかと思いますが、社外役員の場合経営の監督の立ち位置ですから、まずは、〇つまり実施した、あるいは×、実施していない、の2択で評価することとなるのではと。で、×、がつく場合というのは、そもそも①取締役会に出席していない場合や、②会議で発言しないなど貢献がない場合、あるいは、③会社として重大な不祥事が出た場合などになろうかと思います。①は開示されますし、③も(不幸なことに)該当があれば何らかの形で表に出ますが、②はなかなか評価が難しいですし、外からはわからない情報です。
もちろん、招集通知や有報には「なんとか取締役(監査役)は、何とかの立場から適切な発言をしています」といった定型に近い文言が記載されていますが。

自分で自分を評価するとすれば

3月決算会社の場合、6月の株主総会で就任して1年のサイクルを回した中で、自身が取締役会の実効性あるいは監査役会の実効性にどのように貢献したのかは、自己の成長のためにも振り返る必要があるなというのがそもそもの問題提起でした。

取締役会の場の雰囲気にもよりますが、自身としては、会議で発言しなければバリューがないという価値観で育っていることもあり、また、言いたいことがいろいろ出てくる会社に就任しているためか?たいていは取締役会、あるいはその前後の監査役(監査等委員)の会議で意見を申し上げております。

いろんな会社の話を聞くに、発言は挙手制ではなく指名制で順番があり、時間内に最後まで回ってこない、であるとか、会計士が何人もいると同じ意見ばかりが表現を変えて繰り返されるといった会議もあるやに伺います。
構成員に著名な経営者の方がおられる場合などはその方の独演会になったり、会議のファシリがもう一つで、それぞれの意見を聞くだけで何ら深堀せず次の議題に移るという会社もあるとか。(わざとやっているのかも?)
そういう話を聞くと、自分の関与している会社では活発な議論がなされているという意味で実効性があると思いつつ、では、自身の意見で会社が変わったのか、深い気づきを与えられたのかという点ではまだまだ研鑽が必要だと思うところも多いです。

わかりやすく、ここは課題だというのは普通に議論を聞いていたら、会計専門家であれば気づくし、やってる会社も課題があること自体はご理解されていることが多いです。どちらかというと忖度せずいろいろ言ってみるほうではあるのですが、会社としても認識しつつもしがらみがあって・・・みたいなのはどうするのがいいのかなと思っていた時にこんな記事を見つけました。

社長を動かすのは論理よりもしつこさ
(略)社外取締役の仕事は、会社は「社会の公器」という視点から、ステークホルダー全体の長期的な価値の向上を考え、経営状況を監視し、必要であれば進言することである。
もちろん、社外取締役が「あの事業はもうダメだから手放せ」と言っても、社長は簡単には首を縦に振らないだろう。いくら論理的に正しくても、共同体内の論理や社長の順張り志向にはなかなか勝てないのだ。
ただし、乾坤一擲(けんこんいってき)の進言はあまり効果がないが、あきらめる必要もない。私の経験からすると、3年くらい「あれ、どうなった?」と言い続けると、社長も聞き入れてくれるものである。単純に、しつこさに根負けしたということもあるだろうが、日に日に業績が悪化していくことで、「だから私が言ったとおりじゃないですか」と、こちらの主張が立証されていくからだ。

東洋経済オンライン 冨山和彦氏 https://toyokeizai.net/articles/-/102531?page=3

論理よりもしつこさ!これなら得意かもしれません。
「こちらの主張が立証されていく」というのは専門的知見や洞察力がないとできないことですよね。
健全なリスクテイクも必要ではあり、事業に100発100中はないので、業績が悪化したときに「それみたことか」といった言い方はすべきではないとは思いますけれども、本当に提言すべきと判断した時は、シンプルに同じことをずっと言い続けることも重要だと。3年くらい、とあるように、会社が変わるにはまだまだ時間がかかるのでしょうね。
過去に何回も言ったし、もういいか、とならないように言い続けようと再認識した次第でした。

あと考えるのは、会計専門家としての立ち位置です。当然会社のほうが先に検討されているはずではありますが、会計論点があれば専門家の見地からもらさないように注意喚起や気づきを与えられているか、となると、複雑なイシューがたくさんある会社だと本当に準備が大変です。
会計はわからないので、ダイバーシティーや法律など自分の専門分野についてのみ意見しますという立ち位置の方もいらっしゃるとの話も聞いたりしますが、会計は経営判断のための言語でもあるので、ある程度まではどなたも必修分野ではないかと考える次第です。となると、会計専門家としては役割としてほかの構成委員よりさらに最新動向を知っておくなどキャッチアップもかかせないし、やること多いなと思ったりしています。

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