じーくどらむすさんの「ワンダールクス」を見て

理論派ゲーム企画屋を自称する私が、じーくどらむすさんの「ワンダールクス」を見て、思ったことを書きます。

この記事を簡単にまとめると
ゲームは以下の4つの要素から成立している。
(1) 入力と独立した情報は単に「情報のレイヤー」 (ガワ, e.g. 世界観)
(2) 入力へのフィードバックは「反応のレイヤー」 (入力, e.g. VFX, SE)
(3) 能力へのフィードバックは「遊戯のレイヤー」 (能力, e.g. パズル、戦闘)
(4) 努力へのフィードバックは「進行のレイヤー」 (努力, e.g.成長)

この記事の目次
1. ワンダールクスは「作り手のチェックリスト」である
2. ワンダールクスに足したいもの
3. 感想


1.  ワンダールクスは「作り手のチェックリスト」である

各人が自分なりに解釈して使い勝手の良い武器にできるような、より実践的な理論を目指そうと考えた

 とご本人がおっしゃられているように、ワンダールクスは「ゲーム」を体系的に整理して理論立てているものではありません。運営タイトルの開発者に多い、理論派の皆さまが想像するモノとは異なる次元のものです。
 とはいえ、理論派の皆さまもこのワンダールクスを知っておいてほしいです。というのも、理論派の細かな分析や理路整然とした話は、感覚派には理解しがたいものだったりします。これくらいのざっくりした感覚的な言葉で説明して、チーム内の合意を作っていく…という作業は結構大事です。
 ではワンダールクスとは何か、というと、「作り手のチェックリスト」と考えることができると思います。売り切り系開発者に多い、感覚派の企画者がゲーム内容をチェックするときにこれら4要素を意識すると、「大きな間違いを起こしにくくなる」だろうというものです。

 つくったゲームがなんかつまらない。そんな時、ワンダールクスの4つの「レイヤー」それぞれのどの要素が欠けているのか検証してみるといいと思います。

2. ワンダールクスに足したいもの
 とは言ったものの、たった4つしかゲームには要素がないのか、その4つを検証すればゲームがおもしろくなるか、というとそんなことはないのが現実です。そこで、ワンダールクスを実際に運用する際に、以下の3点だけ頭の片隅に置いておくと、より実際で役立つと思います。

1. ワンダールクスは、細かな要素を指定していない。
2. ワンダールクスは、売り切り一人ゲーム用のチェックリストだ。
3. コンセプトの検証をしよう。

1. ワンダールクスは、細かな要素を指定していない。
 感覚派でも使える…!とか言ったが、実際のところ、ワンダールクスはゲームの要素をかなり初歩的に分類しているだけに過ぎません。つまり、頭を空っぽにして使えるツールではなく、その都度自分で検証する必要があります。つまり、感覚派がインスタントに理論派と同レベルの検証を意識的にできるようになる…というものではありません。とはいえ、最低限問題がどこにあるのか、を認識するのに大変役立ちます。

2. ワンダールクスは、売り切り一人ゲーム用のチェックリストだ。
 マルチプレイゲームや、運営タイトルでは「他プレイヤーの存在」「プレイヤーの入れ替わり」など、ワンダールクスが挙げている要素以上に気にするべき重要なポイントが数多くあります。ワンダールクスを用いてマルチプレイや運営を考えはじめると、かえってこんがらがってしまうと思います。使えないわけではないが、十分ではないことを念頭に置いておくべきでしょう。

3. コンセプトの検証をしよう。
 フラクタル理論というものがあります。「ゲームの要素は、どの粒度で切り取っても、コンセプトを反映したものになる」というものです。GDCでなんどか取り上げられているし、同じことを言っていた気がするので、知っている人も多いでしょう。
 わざわざ指摘することでもないかもしれないですが、ワンダールクスで挙げている要素それぞれを検証して、ゲームを面白くしたつもりでも、それぞれの要素や面白さが本当にコンセプトに沿っているとは限りません。場合によっては、特定の要素を簡素にしたほうがコンセプトに沿った作品になるかもしれない、ということを常に忘れずにいましょう。

3. 感想
 既にゲーム開発に携わっている(理論派の)人にとって、ワンダールクスは不完全で、とりたてて新しいわけでもないのは事実です。とはいえ、どう自分の考えを理解してもらうのかーーということを考える際の大きなヒントになります。
 ぶっちゃけ、ゲーム業界ってとても特殊で、高卒や芸大、専門卒の技術組や、修士まで進んだようなインテリ、ゲームしかやってこなかったオタクが同じ部屋で机を並べて、同じ目標に向かっていくわけですから、コミュニケーションコストがとても高いです。
 特に最近だと、外国人や帰国子女も珍しくないですし、ビジネスとしての規模も大きくグローバルに展開していきます。そういうレベルでいい仕事をするには、本来ならばある程度コミュ力の高い人たちで意思決定をしていければ何の問題もないのかもしれません。しかし、ゲームは必ずしもそういう人が作ればいいものができるわけでもありません。だからこそ、ワンダールクスを知っていれば、どう考えればチーム全体の合意をとれるだろうか、ということを考えるきっかけになるのだろうと思います。









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