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「韓非子」説林下 (32)

「韓非子」説林下 (32)

【書き下し文】
斉 魯を伐ちて讒鼎(ざんてい)を索(もと)む。
魯人 其の鴈(がん)(※2)を以て往かしむ。斉人曰く、鴈なり、と。魯人曰く、真なり、と。
斉曰く、楽正子春(がくせいししゅん)(※3)をして来たらしめよ。吾れ将(まさ)に子に聴かんとす、と。
魯君 楽正子春に請ふ。楽正子春曰く、胡(なん)ぞ其の真を以て往かざるや、と。君曰く、我れ之を愛(をし)む、と。答へて曰く、臣も亦た臣の信を愛(をし)む、と。


【現代語訳】
斉が魯を伐って讒鼎という宝を求めた。
魯は使者に贋物を持たせて遣わした。斉の人は言った。それは贋物だ、と。魯の人は言った。これは本物だ、と。
斉の人が言った。「それなら楽正子春を来させよ。私は彼に聴いてみよう」と。
魯の君が楽正子春に頼んだ。楽正子春は尋ねた。「どうして本物を持っていかないのですか」と。魯の君は言った。「本物は惜しいのだ」と。楽正子春も答えて言った。「私もまた私自身の信用を失うのは惜しいです」と。


※1 讒鼎は魯の宝物。
※2 鴈は贋と同義であり、偽物のこと。
※3 楽正子春は曾子(曾參)の弟子。

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