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おっさんの闘病記【番外編:1】

こんにちは。かんおさです。

いつもながらこちら辺境記事をお読み頂きありがとうございます。

今回も、難病を抱えながら世界の隅っこで細々と生きるおっさんの何という事は無い生活風景をお届けしたいと思います。

同じ病を抱える方だけでなく、何かしらのハンデを抱え生きる皆様にとって、私の緩い生活が少しでも足しになれば嬉しいです。

※注意

今回は、親しらずの抜歯という事で状況をある程度ではありますが、細かく描写しております。
もし、その様な施術中の描写が嫌な方は読まないようにお願い致します。

問題なさそうな方は、そのままお楽しみいただければ幸いです。

おっさん、人生初の抜歯をする

この日は初夏という事もあって、天頂から降り注ぐ陽光が実に恨めしいほどである。
要するに、滅茶苦茶暑いでござる。

休みの日であるので、こういう時こそ、悠々自適の引きこもりライフを満喫するには絶好の日和なのだが、残念ながら今日は外せない用事があって、お出かけなのだ。

と言う訳で、既にもう乗り慣れた路線を使い、毎度ながらお世話になっている大病院さんに、今日もやってきた。

2週に一度、足しげく通っているだけあって、すっかりと見慣れた風景だったが、今日は心持ち影があるように思える。
恐らくそれは私の心境が若干沈んでいるからだろう。

何を隠そう実は今回来院したのはいつもの治療の為ではなく、親しらずを抜歯するためなのだ。

恐らく多くの方は、親しらずを抜くと言うと、決まって負のイメージしか持たないと思う。
それは私も同じで、過去の経験者からことごとく悪い話しか聞かないからだ。

経験者曰く、抜くとき凄い痛かった。
それで済めばまだ良いのに、抜いた後も痛かった。
腫れあがって物が食べられなかった。
辛かった。苦しかった。もう嫌だ。

そんな声ばかりが届き、正に地獄のような印象しか私には無いのである。

まぁ、とは言えあくまで人は人、自分は自分。
案外、私にとっては苦にならないかもしれないし、そうでないかもしれない。
結局のところ、体験してみない事には真実は分からない。

と言う訳で、覚悟を決めてやってきたのである。
しかし……本音を言えば帰りたいでござる(軟弱
痛いのも苦しいのも嫌です! 私はぬくぬくと生活したいだけなのです!

そもそもこのステロイド治療中に、何故、抜歯しなくてはならなくなったかと言えば、元はと言えばステロイドを切り上げるタイミングがつかめなかったからである。

最初は1年で終わるというから1年待ったのだが、そうしたらやっぱりあと1年ね? あ、もう半年ね? みたいな感じで、結局のところ、終わりは見えなかったのだ。

そうこうしている内に、ステロイドの後遺症で私は糖尿病一歩手前まで追いつめられるわ、骨は脆くなるわで、これ以上引っ張ると最悪の事態もあり得るとの判断から、今回の抜歯に踏み切ったのである。

まぁ、ぶっちゃけ今はまだ、何も起きていないので無理に抜く必要はない。
だが、未来の事を考えると抜かなければいけなくなった時、リスクが大きいという事なのだ。

そんな訳で、荷馬車に揺られる子牛の心境で、私はいつもの病棟とは違う口腔外科専用病棟へと足を運んだ。

慣れない病棟内を右往左往しつつ、優しい受付のお姉さんに何度か案内を受けながら何とか受付を済ませ、あれよあれよという間に診察台に案内されてしまった。

ちなみに今回は、下あご右奥の親しらずを抜歯である。

イケメンのお兄ちゃんが麻酔をしてくれて、それが回るのを待つ。
この麻酔の感覚がまた独特で、恒常的に手の先が痺れている感じとはまた、全く質の違う痺れを味わうというのがある意味新鮮だったりする。

そして麻酔を打ってもらってから気付いたのだが、歯の視神経に麻酔をして貰ったのだが、右手の痺れが若干弱まったのだ。
変な所で神経って連動しているんだなぁと、人体の神秘を感じてみた。

麻酔を打ってもらった事で、しびれが消えるという摩訶不思議な状況を楽しんでいると、担当の先生がいらっしゃった。

遂に始まってしまう。
親しらずの抜歯、開始である。

この子、かなり強情らしいです

さぁ、本番と言わんがばかりに、一気に場の空気が変わる。

まずは何やら口以外の部分を覆う紙で出来たフェイスマスクみたいなものをかぶせられ、私の視界はさえぎられた。

そうして施術の開始である。

あの歯医者では聞きなれた高周波を放つドリルの音が響く。
あの音が大好き!と言う方は、あまり多くはないだろう。
私も嫌いとまではいわないが、好んで聞きたいとまでは思わない。

しかも、何やら今回はオマケ付きである。

何やら妙に香ばしいにおいがするのである。とどのつまり、何故だか焦げ臭い。
何が焦げてるの!? ていうか何を削ったらそんな臭いがするんでしょうかねぇ!?

勿論、声にも表情にも出さないが、私の心は早くも絶叫状態である。

ま、まぁ、まだだ。まだ、慌てる時間ではない。
ちょっと凄いドリルで今、何かが(それが気になるのだが)削られただけ。

いかんせん、視界も無く、ましてや感覚も殆どない状況下なので、妄想だけはドンドンと膨らむ。

しかし、先生は慣れた作業のようで、次々と矢継ぎ早に助手さんに指示を出して機材を変えていく。そして、ドリルの役目が終わったと思ったら、何の前触れもなく先生の動きが変わった。

今までは、何と言うかこう、単に削って整えるような動作だったのだが、こう何かを掴むというか、ちょ、何か凄い圧が、圧が!?

例えていうなら、と言うか、いや例えなくても、親しらずを何かの器具でむんずと掴み、それをこう、力でねじ伏せるように捻り、ひね、って、何か人生で感じたことの無い場所で、聞いたことない音がするんですが!?

これは体験した事のある方でないと分からないと思うのだが、こう、奥歯の更に奥でミシミシと言う音が聞こえる、様な気がするほど、引っ張り、ねじり、そして捻り上げるという、もう何だろう、このザ・パワー!的な、感じ。

実は私、もっとこう親しらずの抜歯って、現代科学の進歩もあってもっとスマートなイメージを想像していたんですよ。
こう、根元を上手く切断して、上手く引き抜く的な?

けど、違いました。超力技ですよ、これ。
補助道具とかもしかしたら、昔と違うのかもしれませんが、やってる事は、力でねじ切る! ねじ伏せる! さぁ、ひれ伏せ、親しらず! 的な感じでした(あくまで私の感じたイメージです)

しかも、担当されているのが腕も細い女医とあれば、何と言うかもう、申し訳なさの方が先に立ってきます。

いや、プロのお医者さんですから一患者がそんな偉そうなことを言える立場ではないのは頭では理解しているのですが、こう、ね、お医者さんが力を籠める度に、私の耳には心の声(副音声)で

「ふんっ!」「ぬぉりゃ!」「こなくそ!」「ね、ねばるわねっ!」「これならどう!?」

みたいな声が聞こえて来るんですよ(実際には無言です)

と言う訳で、こう顎に手が添えられ(もうミシミシ言ってます)、渾身の力を籠められ、奥の方でミシミシメキメキと音が聞こえる(気がする)度に、

ひいいぃ、もう良いから、親しらずちゃん、もう良いから!早く抜けてあげてぇ!

みたいな、こうなんだろう、親しらずの頑張りに対する何とも言えない気持ちと、お医者さんに対する申し訳なさみたいな、今まで感じたことの無い複雑な心境と共に、それ以上に

あかん、これ、あかんやつー!

と言う、根源的な恐怖を久々に感じました。

いや、冷静に考えればそれで死ぬとか痛いとか全然無いんですよ。
ただただ、経験したことの無い意味不明な状況で、これが怖さに繋がったのだと思います。

これ、今にして思えばなんですけど、あれですよ、あれ。
ちょっと堅気じゃない方が仰る決まり文句にあるやつです。
「おぅ、口に手ぇ突っ込んで奥歯ガタガタいわせたろか!」的なあれ。

これ、脅し文句になるほど怖いのか? って不思議に思っていたんですけど、体験して納得しました。

うん、何がとか説明できないけど、凄く怖い体験でした。
多分、自分では手の届かない体の中を他人にまさぐられるっていうのが、本能を揺さぶるんだと思います。
まさか親知らずの抜歯でそれを体験することになるとは……。

で、どうやらうちの子(親しらず)は、相当に頑固だったらしく、

「ちょっと一回、楽にして下さいねー」

と、お医者さんも一旦、休憩の様子。
うちの子が本当にすいませんです。

とまぁ、そんな事が3回ほど繰り返された後、遂に……口の奥から今までと明らかに違う感触が!

ぺきっ

……何か聞いちゃいけないような、って言うか聞きたくない音が聞こえた気がする。

これ絶対、折れたよね!? 折れたでしょ!? ねぇ、お医者さん!

と言う訳で、どうやらうちの子、本当に離れるのが嫌だったんでしょうね。
凄い抵抗を見せた結果、真っ二つに折れたっぽいです。それは感覚で分かりました。

その後、更に、お医者さんと、うちの子の戦いは続きます。

残った方を改めて抜こうと頑張るお医者さん。
ふん! ぬおおおお!! みしみし。
捻ったらきっと!! みしみし。
こっち向きなら!! みしみし。

抜けねー!? もう良いから、本当に良いから! 早く抜けてあげて!?

もう完全にアイアンクラッチ状態で私のあごに添えられた手にも、俄然力が入ります。しかし、どうやらうちの子は本当にしぶとかったらしく、

「ちょっと食い込んでいるので骨を削りますね」

との一言が。

ここで嫌ですと言える筈もなく、って言うかそれはもう確認ではなく宣言ですよね? とか思いつつ、「はい」と一言を返す私。って言うか、それしか私には許されていないとすら感じましたし。

そうして再度響く高周波。
今回は焦げ臭くなかったのですが、骨は焦げないのか何なのか。

と言う訳で、よく分からない場所を何か削りだしたようで、再度、チャレンジです。

左に、ふん!
右に、ふん!!
捻りながらぁ! ふん!!!

そして痛くはない物の、その度に普通なら引っ張られちゃ駄目な所が引っ張られていると言う絶望的な感覚。

メシリと言う、今までに感じたことの無い感覚が響き……お医者さんが、一息入れる様子が伝わってきました。

お? これは、もしや?

「終わりました。思ったより(骨を)削らなくて済みました」

おおお、お疲れ様です! いやぁ、本当にうちの子がご迷惑をおかけしました。

と、心で拍手喝さいを送りつつ、頷く私。

その後、縫合作業があったのですが、お医者さんと助手さんが一気に緩んだ様子で会話を始めたのが印象的でした。

内容は恐らく内部の何という事は無いお話だったのでしょうが、まぁ、あんだけ大変そうだったので、とりあえず私も一安心です。

ちなみに、抜けた親しらずちゃんを見ますか? と聞かれたので、一も二も無く頷いて見せてもらいました。

最後までお医者さんを手こずらせた我が子は、それはまぁ、見事に縦に真っ二つでした、ええ。

しかし、自分の親しらずを肉眼で初めてみましたが、綺麗でした。
少し透明ながら薄黄色で、普通に宝飾品として通用するんじゃないかと思う位に美しいと感じました。

これが今まで、私の奥歯の裏でひっそりと眠っていて、それをほじくり出してしまったと思うと、罪悪感がない訳ではないのです。

そんな私の気持ちを察した、と言うよりそういう方も多いのだろうでしょうが、「持って帰られますか?」とも聞かれたので、こちらも即答でした。

そうして、お医者さん(と私)を手こずらせた親しらずは、私の家の仏壇に備えさせて頂いてます。

いままでありがとう。そして、お疲れ様。

無理やり抜いてしまった事は申し訳ないけど、これからはちゃんと時々向かい合って供養するから勘弁してね。

そんな感じで、私の初の親しらずの抜歯は、本人的には大騒動の内に幕を閉じました。

願わくば、残りの左の子は素直でありますように。

今回の記事は以上になります。
お読み頂きありがとうございました。


こんにちは! 世界の底辺で、何とか這いつくばって生きているアラフォーのおっさんです。 お金も無いし、健康な体も無いけど、案外楽しく生きてます。 そんなおっさんの戯言を読んでくれてありがとうございます。