人の本心は言葉で語られない【WSの記録】
こんにちは、多機能女優の松井花音です。
前回に引き続き、先日参加したワークショップで得た事を書き残していきます。
▼前回の記事
書いている今日は4月1日。ワークショップが3月29日・30日だったため、あれからもう2日か。いや、まだ2日。こうしてnoteの編集画面に向き合いながら感じていることは、「人間の記憶はすぐに抜け落ちる」ということ。
エビングハウスの忘却曲線によると、人は記憶を1日後には74%を忘れているそう。恐ろしい。今の記憶はすでに26%以下しかないようです。
と、いうことで少しでもこの記憶が残っている間にカタカタしていきます。
役づくりは人付き合い
それにしても今回の2日間は学びが多く、濃密な時間でした。数値化できるような実践的スキルというよりは、役づくりをしていく上でのアプローチのヒントを沢山得る事ができました。
そして、役づくりはとある人物に向き合うことであるため、役者が学ぶ思考のヒントは、日常生活におけるコミュニケーションのヒントにも通ずるところがあると思っています。
ここではせっかくなので役者として活動する人も、そうでない人にも是非共有したいことを残していきます。
想像以上に人は口数が少ない
突然ですが、普段の会話の中で思った事をすべて口に出しますか?
これにYESと答える方はいないと思います。
会話の中で思った事があったとしても、”これを言ったら相手に悪い”、”どうでもいい事だから口に出す必要がない”、”私の印象が悪くなりそう”など、様々な理由で声に出さない言葉は多くあると思います。
そんな当たり前のことに気づいたお話。
今回のワークショップでは、会話シーンのお芝居づくりにチームで取り組みました。そこで配布された台本に、何やら「おや」と思う箇所が。
空白のセリフがいくつかあったのです。
「 」
こんな形で。
適したセリフを考えて入れてみてください。とのこと。
この問いには共通の答えがあるわけではなくて、それぞれのチームがそれぞれの作るシーンに適した解答を見つけていくものでした。
シーンを成立させ、かつ面白いものにしていくためにはどんなセリフを入れるとよいか。
そのためにはまず、会話・シーン全体の流れを把握した上で、そのシーンにおける人物の欲求・目的、人物の性格、背景等の情報を台本から読み解き、想像していく事が必要です。これでまず、どんなセリフを言うと会話が成立するか、が定まってきます。
そこに至るまでのアプローチ方法も大きな学びの一つでしたが、この先が今回特に印象に残ったポイントです。
仮で入れてみたセリフを見て監督が言った一言、
ハッとさせられました。
そう、人は思ったことを全て口に出すことはないんです。でも、こうしてセリフを考える時にはどうしても説明的になりがち。きっとその原因には、受け取り手の想像力を信じられていないことや、表現の自信のなさもあると思うのですが、語りすぎはリアリティに欠けて、観ている側を白けさせる可能性もあります。
だって、日常にすべての思いを口に出す人がいたら不気味ですよね。
前段で書いた通り、人は心の中で思った事があってもあえて口をつぐむ事が多くあります。その理由は、その時々によりさまざまですが、これが後の言動を左右したりするんです。その連動が面白い。
そしてこの声に出さない思いこそ、本心だったりするんですよね。言葉に出さない部分にこそ、その話の一番美味しい部分が隠されていたりする。
だから、面白いセリフを考えるという点でも、その一言で面白い事を言おう・完結させようと考えるのは危険です。それではただの大喜利になってしまいます。前後の連動を考えて、声に出す言葉と、胸に秘める思いを検討する。ここで多くを語らなかった理由には、実はこういう理由があって、だから後のこの言葉や行動にも繋がっている。そのようにしてシーンに深みを持たせる事ができるセリフこそ面白いセリフなんじゃないかな、と思いました。
いま一度、日常のコミュニケーションに戻して考えてみます。相手が思っている事、感じている事を理解するためには、言葉以外の部分にも注目することが大切。前後の会話、相手の性格や習慣、表情、身振り手振り、間の取り方…、実は言葉にならない部分の方が情報量が多いのです。
ただ、言葉で明確に示さない分、勘違いや思い込みによるズレが多発してしまうのもコミュニケーション上の難点ですが…その不器用さも含めて人間のリアリティだと思います。そして、登場人物をいかにリアルに表現できるかが求められる映画においては、そうした人間の機微に向き合う事が大切なのだと感じました。
一人芝居作品に生かしてみる
ちなみに、私が日々取り組んでいる一人芝居のセリフは、これまでこんなことを考えていました。
ワークショップ受講直後につくった動画がこちら。
なるべく発する言葉を控えめにしましたが、リアリティを追求すると、きっとここで言っている事もほとんど声に出さないと思います。
でも、ラフに見てもこのシーンを楽しむための要素が伝わるように、あえてヒントを口に出してみました。
たとえば、
の部分。
全てを言葉に出すと、実はこんな風に考えていました。
強がって「ふーん」と受け流す事も、タバコの事をそもそも突っ込まない事も考えられたのですが、わかりやすくストーリーを見せるために「タバコ」「彼女」のキーワードをあえて発してみました。
そして、心のうちではこれだけ多くの事を考えながら演じましたが、"これを言っても相手を困らせるだけだろう"、"未練があるように思われたら嫌だ"などの理由をもとにあえて言葉に出す事をやめてみました。
雑学王はコミュニケーション上手?
もう一つ、今回学んだこと。
前述した通り、往々にして、本心は言葉として見えないものです。
それでも私たちはコミュニケーションを取らなければいけない。特に映画や演劇の作品作りにおいては、本心を100%把握する事ができず、考え方も人それぞれ違う中でもゴールイメージをそろえる必要があります。
でもいくら言葉で説明しようとしても、理解し合う事が難しい時もあります。例えば、監督にとっての「もっと」と、言われた俳優にとっての「もっと」ではその尺度が違う、なんてことも。
相手との認識を近づける、理解するためのアプローチ方法の一つが"共通の指標を持つこと”なのではないかと感じました。
”このシーン、こんなイメージで作っていきたい”
と思った際のイメージを共有するために、イメージの近い映画や漫画のシーンなどを指標として示す事です。
そして、現場により出会う人は様々なため、その指標は対峙する相手の詳しいジャンルに合わせる必要があります。それは映画なのかもしれないし、漫画かもしれない。プロ野球選手のエピソードかもしれない。相手が瞬時に理解できる例え話を出せる人は、認識のずれを防ぎ、コミュニケーションのストレスを軽減させます。
自分の中の引き出しを拡充させる。かつ、ただ増やすだけでなく、いつでも即時に引き出せるようにしておく。
これも作品づくりの上でも、日常のコミュニケーションにおいても重要な要素だと思ったので書き残しておきます。
これ以外にも細かな事を含めると学びの多いワークショップでした。
これからも積極的にインプット・アウトプットの機会には参加していきたいと思います。
最後に、今回、素敵な学びをくださった萱野監督、小柳さんに感謝いたします。
ワークショップは随時開催されているようですので、「気になる!」という方はぜひチェックしてみてください。
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松井花音 Matsui Kanon
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