【第16章・姉弟子(後段)】融女寛好 腹切り融川の後始末(歴史小説)
第十六章 姉弟子(後段)
栄が大久保屋敷の近くまで来ると、門脇のくぐり戸の前で狩野新十郎が立っているのが見えた。寒いのか、さかんに腕や腰を回している。一向にこちらに気付かない。
「新十郎さん、どうでしたか」
栄が声をかけると、新十郎はビクッとして振り向いた。
「あっ、お栄様。はい、大丈夫です。お会い下さるそうです」
屈託のない新十郎の笑顔につられて栄も表情を緩めた。しかし、こうも人の気配に鈍感では、剣術の才能はなさそうね。折を見て、絵画修行に専念するように言おうか