【第17章・虎穴に入る】融女寛好 腹切り融川の後始末(歴史小説)
第十七章 虎穴に入る
栄は、神田駿河台の大久保屋敷を辞し、いよいよ阿部家上屋敷に向かう。現代で言うと、東京駅丸の内口の新丸ビル辺りである。
神田からは、神田橋御門を渡ってまっすぐ南下すれば近い。しかし、その地域には、御三卿の一橋家や譜代大名筆頭・酒井家などの屋敷が並んでいる。近道なのでちょっと失礼、とはいかない。よって、少し東に迂回し、呉服橋御門の側から阿部家上屋敷を目指すことになる。
栄と護衛兼連絡役の狩野新十郎が、呉服橋御門の番所に着いたのは、四つ(ほぼ午後十