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曖を惹く

「あ、」と思う瞬間がある。

そういう時は脳の奥で火花がパチパチとあがって、それが心につながる導火線に燃え移る。伝った炎は、ゆっくりゆっくり時間をかけて心を包む。

体の中の炎が大きくになるにつれて、熱さで思考はやられてしまって、考えられるのは君のこと。それと今日の晩御飯のことくらい。

そのまま心が無くなるまで燃え続ければ、炎が消え、熱が冷めると新しい心がどこからか装着され、ドクドクと元気に脈を打つ。

しかし途中で炎が消えて、不完全に燃え残ってしまった心の残骸は、黒い煤で汚れて痛々しい痕が残る。時間が経てば綺麗にはなっても、すっかり元通りということはない。火傷の痕をなぞるたびに浮かぶ熱を、忘れられない。

曖昧にぼやけた視界の中、手を伸ばして、やっと掴めたと思ったら、そこには消えない痛みと焦げ臭い匂いだけがのこっていて「あ、あれは恋だったんだ。」と気づく。

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