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内緒にはしておきたくない、イクラ丼の罪なちょい足し

 寒さの深まりと共に、イクラの粒がどんどん大きくなってきている。

 先日、今シーズン最初のイクラの仕込みをした。
 家族にイクラ好きがいるので毎シーズン何回かは仕込む。

家族がいいくらい食べてなお有り余っているイクラ。
半腹分だけでも2、3日は家族で楽しめる。

 日本で醤油や塩漬けのイクラが一般的になったは大正時代からだという。
 一応、調理法は不明ながら平安時代に子持ちの鮭を使ったものと思わしき加工品の記録があるらしい。また、北海道のアイヌの伝承に干したイクラに関連する話があるなど局地的に消費されていたことはあったようだ。
 しかし少なくとも、現在ほど広く珍重される扱いではなかったはずだ。

 状況が変わったのは、現在のマルハニチロが塩漬けイクラの缶詰の販売を始めた頃らしい。
 また、どうやって伝わったのかについては諸説あるが、イクラの語源がロシア語で魚卵を意味するикраから来ている通りに、現在のように「成熟した筋子をバラして調味したものを生のまま食べる」ようになったのはロシアから伝わった文化であることは間違いなさそうだ。

 ではロシアではどうやって食べるのか。
 ブリヌイに乗せたり、薄く切ったパン  (黒パンの場合もあるし白パンの場合もある) にバターと共に乗せて食べるのが基本だ。
 ブリヌイはもちもちとしたクレープとパンケーキの合いの子のような食べ物で、生地同士が非常にくっつきやすいために作る際には1枚焼き上げるごとにたっぷりのバターを塗ることが多い。

 いずれにせよ、主食と組み合わせるという意味では、日本のイクラ丼やイクラの寿司も本質的には大きく変わらないと思う。

 という訳でどんぶりに酢飯をドーン
 白米もいいが今回は酢飯で行く。

すしのこはこういう少量の酢飯を作る時に非常に便利だ

 そしてイクラを乗せる。
 白米が見えなくなるまで乗せるのもいいが、イクラは主食を引き立てるものだと思うので自分としてはこれくらいのバランスが理想だ。

白い米の上でルビーのように輝くイクラ
たまらない

 醤油漬けにされたイクラの粒が旨味と塩辛さと脂っ気のカプセルとなり、米と共に口に運べば見事に弾ける。そんな味がありありと浮かぶ。
 食べる前からわかる美味さだ。



 さて、タイトル回収はここからだ。

 みなさんは先ほどのロシアでのイクラの食べ方を読んだ上で、日本のイクラ丼に足りない要素があることに気づかれただろうか。

 そう、バターだ。

 パンにせよブリヌイにせよ、イクラを乗せる主食にはバターが塗られる。
 イクラ自体が脂っぽさを感じる食べ物であることを考えると、確かにやりすぎかもしれない。
 しかし、ロシアのイクラは一般的に塩漬けなのに対して日本のイクラは醤油漬け。
 要素として見てれば本場ロシア以上に合うのではないか。

 という訳で、バターをドーン
 ついでにワサビも添える。

バターイクラ丼という意外と見ないものが完成した

 バターが溶けるよう、全体を混ぜてから口に運ぶ。
 見た目は美しくないが、こんな蛮行を働いている時点で今更だ。強いていうならば先にバターと酢飯を混ぜてからイクラを乗せると幾分か美しいかもしれない。

 それはそれとして味の件だが

 当然、美味い。

 イクラ丼は口に入れた瞬間ではなく、イクラが弾けた際に時間差でその旨さが爆発する食べ物だと思っている。
 しかしバターイクラ丼は、最初の時点でバターの乳製品らしい香りと甘味と旨味が醤油の香ばしい塩気と風味と共にたちのぼり、その後にわさびの香りが酢飯の酸味が一瞬スッキリさせたかと思うと間もなくイクラがやってくる。
 正に最初から最後まで100%。RRRのような食べ物だ。

 さらにバターとイクラだが、どちらも脂っ気のある食べ物ではあるがそれぞれが輝くタイミングが違うように感じられる。つまり、それぞれが相手を食っていない、ダブル主演なのだ。やはりRRRだ。

 強いていうならばバターはもうちょっと少なくても十分な気がした。
 そしてワサビはバターでマイルドになる分、もっと多めに入れてもいい。実際途中でワサビを追加した。

 という訳でバターイクラ丼、大正解だった。
 あまりにも美味かったので他にやってる人間がいないか調べたら、数は多くないがそこそこ出てきた。
 まあ思いつくよね。ただ店として出しているところはなさそうだ。

 この時期、北海道や東北地方ではイクラを自宅で作る方も多いだろう。
 そんなご家庭で是非1度お試しを。
 そしてその際は、米は酢飯そしてワサビ (できればちゃんとした本わさび) を添えてほしい。
 バターとイクラという主役を支える、素晴らしい脇役として活躍してくれるはずだ。

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