毛巣洞手術

「俺、毛巣洞になっちゃってさ」と言われて、
「ああ、あの症状ね。うんうん。」と分かる人がどれくらいいるだろう。

毛巣洞とは腰のあたりで体毛が体内に向かって生えて、
洞という字の通り、皮膚下に穴を開ける症状である。
傷というべきか出来物というべきか非常に悩ましい。

自分が毛巣洞になった原因は、
何年も前に古い畳の上で腹筋運動をやりすぎてスレてしまったからである。
なので「床ずれ」だと思っていた。
それが今回はいつも通り膿んでいつも通り皮膚科に行ったら、
たまたま細菌の事で気になるから肛門科に行きなさいと紹介され、
肛門科に行ったら何も言ってないうちから手術する事になっていた。
流転する我が人生そのもののような急展開だった。


手術前の診察では毎回同じ医師だったのだが、
なぜか「麻酔が効くかわからない」「麻酔がきかなけりゃ延期」と、
不安をあおられてばかりだったのが今もよくわからない。
切除したらこんなに快適だよ!という未来も語ってほしいものだ。


多少の不安は抱えつつも、まな板の鯉ならぬ、
手術台の上の鯛焼きという心境でいざ手術へ。

手術のための入院はなんと一泊二日。
ちょっとしたお泊り感覚で切除できるのだ。

指定された時間に病院へ行き、病院着に着替えたらもうすぐに、
「はい、では行きましょうね」と手術室へ。
徒歩で入ったので手術スタッフみたいな感覚を味わえました。

まずは麻酔。
下半身麻酔なので腰に注射を打つのです。
そのために腰がよく見えるように丸まるだけ丸まるのですが、
これがなかなかの力技。
手術台の背中を起こしてそれに対して垂直方向を向く。
横から押される形になるのだが、
足の方を看護師さんが押さえつけているので、
スーツケースに詰め込まれる時はこんな感じかなというくらい、
体を折り曲げました。

丸く。丸くと全力で丸まっていると、
下半身に少しHOTな感じがしたと思うと、
下半身全体に入浴剤のバブの強烈な泡がぶつかるような感覚が。
どうやら麻酔が成功したようです。

手術時間はたったの30分。
処置する時間は正味15分くらいだったのかもしれません。

電気メスで切除されるので、なんだか美味そうな匂いがします。
自分の腰の肉が焼けてる匂いなのですが、
どうにも焼き肉の匂いに思えて仕方がない。
意識があるままの手術だと余計な事を考えるものですな。

手術は無事成功。
「これだけ取りましたよ」と切った患部を見せてくれたのですが、
焼き肉の匂いのせいか、こげたピートロにしか見えませんでした。
ただ、長さ7センチくらいはあったので、
想像以上に根深かったようです。


術後は病室へ移動。
下半身がしびれているのでひたすら横になるのみ。
当然絶食。水もろくに飲めやしない。
5月の半ばだったので暑くなり始めていてベッドが暑いのなんの。
滝のように汗をかきました。

点滴を見ているだけの時間というのはヒマなものです。
何か考える気力も無い。精神的に悪い事さえ浮かんでこない。
修行する時ってそういう気持ちになるんでしょうね。

おしっこは尿瓶にベッドの上で出す事になってました。
個室を取れるわけもないので、ジョロジョロ~という音がなんだか恥ずかしかったです。そのせいで思うように量が出なくて、それを問題視した看護師さんに「管をつけようか」と判断される寸前までいきましたが、夜中に大量に出て、夜勤の看護師さんに渾身のサムズアップを送りました。

まあ、看護師さん曰く、「女性はもっと大変なんですよ」との事。
さもありなん。


一晩開けて退院が可能か判断する診察に行くことに。
退院OKと許可が出ましたけども、あれ、形式的な診察なんじゃないかなあ。

病院着は浴衣とパジャマの中間みたいな作りになっているんですが、
気づいたらズボンを履いていない。
「ズボン、どうしましたっけ」と看護師さんに尋ねると、
手術するとズボン無しになるとの事。
まあ上着も十分にたけが長いので恥ずかしい思いはしないんですが、
エレベーターの鏡に写ったその姿は、
「仏像が動いている」と即座に思いました。
言うまでもなく仏像は俺の事ですが。


一瞬仏像になったものの娑婆に出たら何だか変な気分でした。
焼き肉の匂いや尿瓶で盛り上がっていた喧騒もどこ吹く風。
誰が見ても術後すぐの人間には見えないのは不思議な感覚でした。


退院したその日からシャワー入浴は可能で、
帰宅して即シャワーに入りました。汗かきまくったので。
風呂場の鏡で手術痕を確認すると、
ちょうどお尻の割れ目の先に、サイコロステーキ1個分くらい、
ボコッと穴が開いてました。
医者が言うには、ある日急に肉が盛り上がってくるとの事。
今現在も穴は空いたままです。

人の体に穴が開いていれば色々出てくるもの。
血が大量に!なんてことはありませんが、
血のようなもの、膿のようなものなどが出てきます。
それが下着につかないように、女性の生理用ナプキンを、
患部に縦にあてて下着に貼ってます。
もう1ヶ月も経つので扱い方も慣れました。
ロリエ夜用です。

痛みも最初の2週間くらいは仰向けに寝るにはロキソニン必須でしたが、
今ではよっぽどじゃない限り痛みはありません。

風呂で患部はお湯で流すしかできないというのが面倒ですね。
面倒だしなんか不潔な気がします。
場所が場所なので排便の時は気を使いますし。
切るまでもなかったのではと思わなくもありません。

でもまあ、今が人生で一番若いわけだし、
つまり回復力は今がおそらくMAXなのでOKとしましょう。
ドラッグストアでナプキン買うのももう慣れたしな。
秋にはきれいサッパリ治る見込みなので無理せず養生したいと思います。


#体験記 #毛巣洞 #手術

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