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逆噴射小説大賞2020ライナーノーツ

これを書き始めたのは10月2日、逆噴射小説大賞2020開催二日目です。「エッ二日目にしてもうライナーノーツに手を付けたの?まだ三作しか書いてないのに???」諸賢はそう思われるかもしれませんが、今のうちに書いておかなければ忘れることもあります。鉄は早く打てとはそういうことでしょうね。多分違うけど。

いきなり素振り作品(大賞応募作ではない)から入るがお許しいただきたい。「TENET」見て「信頼できる相棒とのスパイアクション…素敵やん」と思い立ち出てきたのがコレなので、自分のアウトプットがいかにポンコツかお分かりになるでしょう。「グレイ」と名乗った胡散臭い男がグレイ型宇宙人という設定はアホらしくて気に入っています。成功しているかは別として。

宗教や死というものをテーマにして書きたいとは常々思っており、そして出てきたのがこれ。自分のアウトプットが(以下省略)。ファンタジー世界における葬送儀礼、というかすぐ復活できる死生観の薄い世界だからこそ起きるトラブルに焦点を当てたかったんです。ただ死体を回収するだけでなく、そこからどう物語を生むか? で宗教戦争や宗教絡みの暗殺者に波及。今一歩踏込みが足りない気がします。

前回の逆噴射小説大賞選考にあった所謂「スター・ウォーズ」問題。あれも「料理の仕方で美味しくなるのでは?」ということで冒頭に設定をギチギチに詰め込んでから、手紙という形で「色々あった」と匂わせつつ急転直下で物語を始めてみました。分かってもらえると思うんですが、手紙に登場した七人の設定練ってる時が一番楽しかったです。畳むつもりのない風呂敷はよく広がる、何せ責任というものがありません。

冒頭の剣神の語りがまず脳内にあり、そこからどういう物語を展開していくかを考えたらゾンビとナチが生えてきた。サメはバランスを取るための後付けです。バランスとは? ゾンビ+ナチス+サメは黄金の方程式。タイトルは自分の死を前にどうでもいいことで盛り上がる弟子三人(と三社)を見て「いい加減死なせてくれ」という剣神の吐露をイメージしましたが、分かりにくかったと思います。反省ですね。

おそらく自分が書いた五本の中で最もR・E・A・Lがある話。ほぼ史実なので(当然「起き上がり」を除く)。詳しくは『神葬祭大事典』という本にあります。高い本ですが、例の失礼な戒名でググるとGoogleブック検索なるもので該当箇所が全部読めます。胡乱パルプとするためにゾンビ要素を後付けしたんですが、もうちょっと馴染ませる努力をした方がよかったですね。仏道disに文字数を裂き過ぎた。

「丙午の包丁」は今回「逆噴射小説大賞2020」に投稿した五本のなかでも、最も多くスキを付けていただいた作品となります(11月2日現在)。扉絵は「ぱくたそ」でバッチリのが一瞬で見つかったけど、それ以外は内容もタイトルも悩み倒した一本。ライナーノーツを機に、私がどのような変遷でこれを書き上げるに至ったかを残しておこうと思います。

まず「料理された死体を書いてみたい」という思い付きから転がるように書けてしまったこの一作。実際に投稿するより前のバージョンがいくつかあるのですが、それを投稿する前に今一度「逆噴射小説大賞で求められている『パルプ』とは一体何であるか」を考えてみることにしました。そこで取った手段は、「逆噴射小説大賞2019」で最終選考に残った作品の読み直し。実は恥ずかしながらまだ手を付けていなかったんですね。その後で自分の作品を読み直し、どういう理由で改稿に至ったかを挙げてみます。

まず以下が初校です。

「W市一家バラバラ殺人事件」の惨劇を知る者は、「あれは犯人にとって殺人ではなく調理だった」と評する。
始まりは「忍び込んだ家で人が死んでいる」という空き巣犯からの通報だった。連絡を受けて向かった警察官は、まず浴室で人間の吊るし切りを発見する。ぶら下がるのは頭蓋と延髄、傍らに並ぶのは皮、臓器、四肢や骨。吐き気を堪えて死臭漂う家屋の捜索を続けた警察官は、居間に辿り着くなり限界を迎えて嘔吐した。
床に並ぶのは人肉の平盛としか言いようのない物体。切り揃えた肉はさざ波のようで、脇には青白い生首が添えられている。傍らにも捏ねた肉塊が幾つも積まれており、後の捜査で肉塊は一家の主人、浴室の吊るし切りと平盛はそれぞれ主人の妻と一人息子の成れの果てだと判明した。
まるで手練れの料理人が如き芸当。しかし手際が巧みのものであろうと、人を捌くは最早人の道に非ず。ならばこれは鬼か魔の所業。だが人の法に鬼を裁く理はなく、人の術に魔を捕らえる理はない。懸命の捜査も虚しく、凶行の犯人が見つかることはなかった。
「これには裏があってな、家族はもう一人いたんだ。まあ戸籍のない餓鬼を拾った一家がどう扱っていたかものやら、良くて家畜か奴婢だろう。ところがソイツ、どこぞより曰く付きの人切り包丁なんかを手に入れちまったからさあ大変。瘴気に当てられ赴くまま、一家を文字通り料理しちまった訳だ」
「その話、今聞かなきゃダメかな」
廃墟となった事件現場の一軒家で、私は声を潜めて言った。言外に黙れと主張したつもりだったが、手にした和綴じの古本は気にせず喋り続ける。
「当然だろう、たった今俺達を探し回っているのは当の包丁を持った下手人なんだから。それに本は物を語るのが仕事だからな」
狂人が夢想した呪物を書き留めた奇書『冥物目録』は、人が嗤うように頁を歪ませた。妄想が物語を孕み、産み落とされた狂気が世を乱す。暗闇の向こうで、錆の浮いた刃が揺れた。

これより更に前のバージョンだと"始まりは「忍び込んだ家で人が死んでいる」という空き巣犯からの通報だった。"でした。「通報されるべき空き巣が通報してくる」という異常事態を表現したかったのですが、回りくどいですね。一家も吊るし切り、生け作り、ハンバーグというレパートリーで料理されているという設定でしたが、ここに描写を裂いていると物語を進める余裕がないのでカットです。
"まるで手練れの料理人が如き芸当"の一段落も雰囲気が出ていて気に入ってはいるのですが、あんまりチンタラ書いてるとマジで設定を開示するスペースがないので丸ごとカットしました。
また一番大きな変更なのですが、遺体を見つけた警察官と『冥物目録』(本の名前も変わってる)を手にした主人公は当初別人の予定でした。これも文章量を減らすため同一人物にしてしまったのですが、結果的に物語の推進力が出た気がするのでオーライですね。"「それに本は物を語るのが仕事だからな」"という台詞も無機物が命を持ったという設定から出てきた台詞ですが、泣く泣くカットです。カットしてばっかりやな。

そしてこちらが二校。

逃げるように警察を辞めてから一年。蚤の市で何の気なしに取った和綴じの古本が口のように頁を開いて話しかけてきた時は、とうとう俺も狂ったかと思った。
「やっと見つけたぜ、お巡り」
結論から言うと、狂っていたほうがまだマシだった。
俺は自分でも訳が分からないが、その喋る本に全てを話していた。警察を辞めるきっかけとなった事件の顛末を。
始まりは「隣家から悪臭がする」というありきたりな通報だった。だが扉を開くと濃密な死臭。吐き気を催しながらも捜索を続けた俺は、居間に広がったそれを見て吐瀉物を撒き散らした。
薔薇の形に飾り切りにされた肉、せせらぐ小川のような刻んだ腸、空で遊ぶ鳥のように散りばめられた骨。小洒落たレストランで出る肉の盛合せや刺身の船盛りみたいに体をバラされ、所在ない生首が三つ添えてある。広げた三人分の皮が皿替わりだ。後の捜査で、この家に住む夫婦と一人息子の成れの果てだと分かった。
肉を食おうとすればあの光景が脳裏に浮かび、次第に精神も参ってしまい俺は逃げるように警察を辞めた。伝え聞くところによると、まだ犯人の目星すらつかないらしい。
そこまで語ると、『古今冥物目録』と書かれた本は「やはりな」と口を開く。
「とある古道具屋にあった、人切り包丁の仕業だ」
「何だって?」
「家族にはもう一人いたんだ。まあ戸籍のないガキを拾った一家がどう扱っていたものやら、良くて家畜か下僕だろう。ところがそのガキ、どこぞより曰く付きの人斬り包丁なんかを手に入れちまったからさあ大変。瘴気に当てられ気の向くまま、一家を文字通り料理しちまった訳だ」
そこで俺は気付いた、いつの間にか事件現場となった一軒家の前にいる事に。
「包丁は持つ者の精神を支配し、誰彼構わず料理させる曰く付きだ。呪われていると言ってもいい。だがガキはまだ次の犯行に及んでいない、抵抗しているんだ。奴隷扱いされていたにしては大した気合だが、もうそろそろ限界だろう。誰かが包丁を取り上げないと、また誰かが料理にされちまう」
「……それで、俺に何をしろと?」
古今東西の呪物が書かれた魔書は一時押し黙ると、人が笑うように頁を吊り上げた。
「そうだな、まずは囮にでもなってみるか?」
頭上のガラスが割れる。破片と共に包丁を逆手に持った子供が俺目掛けて降ってきた。

これもまだ料理の描写に未練がありますね。この頃になると料理された一家よりもヤバい物を集めている爺様の方に興味が移っていたので省略されました。「最初は美しい何かだと思ったものが、そうではないと気付いたギャップによる嘔吐」を書きたかったのだと思います。
下手人の設定も同様の理由でカットです。もし続きを書くことがあれば変わるかも。
「そうだな、まずは囮にでもなってみるか?」の台詞は、さらに前の段階だと「『注文の多い料理店』って知っているか?」でした。「虎穴に飛び込め」を遠回しに表現+本に本を語らせる、ということをやりたかった様子ですが、そんな捻ったことを書く余裕があるなら「ブッ潰そうぜ、俺と、お前で!」という台詞で「これから何を読ませるのか」をはっきり表現した方がいいかなと思い、変更しました。内容については以上となります。

扉絵は「ぱくたそ」でバッチリのが一瞬で見つかった時点で「勝ったな…」と思いました。ただそれだけだと味気ないので、他の方を真似してタイトルを入れております。

タイトルも当初は「人切り包丁(『冥物目録』収録)」「暴け、冥土のガラクタを」等の案があったのですがどうもしっくり来ませんでした。そこで設定上は爺の蒐集品にある「江戸の大火事の原因になった振袖」から「八百屋お七」の伝説を連想し、そこから「丙午の包丁」のタイトルが決まりました。

●発展と展望
今までの逆噴射小説大賞は勢いだけで書いていた反面、頭を悩ませて書いた作品にはちゃんと反響があることを実感しました。ヘッダー画像も初めて作ってみたんですが、これもスキが多く付いた理由の一つかなと思います。
来年の逆噴射小説大賞2021では今回学んだ教訓を元に書いていければと思いますので、今後とも何卒よろしくお願い致します。

甲冑積立金にします。