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#003 フライトクリスマス

クリスマス当日に雪が降るという 「ホワイトクリスマス」を期待する人は多い

わたしがクルー時代に期待していたのは当日にフライトが入ること 「フライトクリスマス」だ 本来イベント時のフライトは「〇〇フライト」とイベント名が前にくるので普通なら「クリスマスフライト」というのだが 今回はあえて「フライトクリスマス」ということにしよう

フライトクリスマスに何があるのかと言われれば 特別に指定されたイベント用のフライト以外は実は何もない 当日も通常通りフライトをこなすだけである

ただやはりサービスの一環として特別感を演出するために ジャケットの胸元に手作りのリースをつけたり ネームプレートにシールを貼ったりすることはあった

基本的には安全上の理由で例えばツリーなどのオブジェを機内に飾ったりということはできないので 最低限気持ち程度のものに留める

過剰な演出を避ける理由はもう一つ わたしたちが日々のフライトにおいて留意していることなのだが それは通常のフライトはもちろん どんな日柄やイベントごとも機内に乗り合わせるお客様は千差万別ということ

つまり多くの人に喜ばれると見込んだサービスも不快に感じる方がいる可能性があるということは忘れてはいけないのだ 

その中で安全性と高いサービス品質を保たなければならない 自分たちにとってはいつものフライトでも お客様にとっては人生で一度きりのフライトかもしれないから 普段から一便一便丁寧に臨むのがプロである わたしたちは安全を守るクルーであり最高のフライトを演出するためのキャストだった


何か特別なエピソードが期待できそうなフリをしてしまったようで今少し後悔している 申し訳ないがいいエピソードが思い当たらない

クリスマスに特別語るような思い出が全くなくて自分でも驚く

クルー時代 クリスマスはもちろん年末年始や誕生日にも有給を申請したことは一度もない

当日一人で過ごすのが寂しいわけでも 一緒に過ごす友人や家族がいなかったわけでもないけど 自分よりもその日に休みたい人はたくさんいるだろうしって気持ちがあったし 正直休みでも仕事でもどちらでもよかった

でもまあ どちらかといえばフライトの方がいいかな そういうイベントごとにはなんだか少し照れ臭さがあって 当日こそ普通に過ごしたいってどこかそういう気持ちがあったと思う

クルー時代に限らず 幼い頃を思い返しても家にサンタが来た記憶はないし イベントごとに疎い家庭で育ったせいか 自分自身もイベントごとに疎く基本的に当日にこだわりがない 誕生日なんかも祝う気持ちがあればというタイプなので 当日に祝ってもらえなくても全く嫌な気持ちにはならない


しかし特別感というものは当日にこだわるからこそ生まれるものなんじゃないかとも思う 結局わたしは照れくさいからと言いながら クリスマスにフライトという日常に隠された当日の特別感を楽しんでいたのかもしれない

仕事以外でクリスマスに飛行機に乗った経験はないから 一般的にはフライトクリスマスはある意味特別なことなのだろう 当時は日常と錯覚していただけだったのだ

イベント用のフライトではないのにその日に飛行機に乗らざるを得なかったお客様には この便に乗れてよかったと思っていただけるような些細なサービスを届けることが我々の任務だったわけだけど

胸につけた小さなリースやネームプレートのシールを見て お客様が微笑んでくださったり メリークリスマス と声をかけてくださったりすると この日のお客様の笑顔が見られてよかったなと思うし それがやっぱり特別に思えて毎年11月末のスケジュール発表の日は期待してしまうのだ

今年はフライトクリスマスになるかなって





https://anchor.fm/-95203/episodes/003-e1brkal

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