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#045 屈辱の黒染め

今年の夏 初めて白髪染めをした 正直にいうと屈辱的だった


人生で髪を染めたのはおそらく三回程度

染めたいと思うこともそんなになかった お金を払って髪を傷めつけてさらには手入れも大変なんて 自分の髪質に不満とかそういうのを感じたことのなかったわたしとしてはわざわざ面倒を買いたくない という考えだった

髪質に不満がなかったのは髪にこだわりがなかったことと 美容師さんに髪質を褒めてもらったことがあったからで 不満がないというかそもそも本当に興味がなかったのだ 

「染色禁止」当たり前のように校則に定められた項目

もちろん違反したことなどない そもそも破って面倒な校則は破る意味も価値もないと思っていたたちだから染色に限らずメイク禁止などの明らかにみてわかるような違反はする気にもならなかった 

しかし高校生という何かと繊細な時期を ある意味精神武装することによって周りから勘違いされるような態度で生き抜いたわたしを大人はきっちり勘違いしてくれた 

猫っ毛で自然な茶系よりのストレートヘア それはわたしが生まれ持った髪だったが 大人はわたしのことを勘違いしていたから もちろん目をつけられた

生活指導の日を待ちわびたかのように「染めるのは禁止だ、ちゃんと戻してこい」というのだ 地毛であることを何度か訴えたが聞き入れてもらえなかった 大人はわたしの言葉を信じなかった 

わたしはわざわざカラー剤を購入して黒に染めた 不自然なまでの黒に お金を払って髪を傷めつけた 自らの手で 

屈辱である

翌日大人を睨めつけるようにして聞いた「これで満足ですか」と そしてもう一言「染色禁止と校則で決まっているにも関わらず地毛を黒に染めろというのはあなた方がわたしに違反を強いたのではないですか」と 大人は何も言わなかった その一件以降 黒染めが落ちても大人はわたしにまた黒に戻せとは言わなくなった

武装した態度で精一杯立ち向かったけれど 心はズタズタだった

その一度きりの黒染めによって大きなダメージを受けたのは 細く柔らかい髪だけでなく 脆く繊細な年頃の精神だったのだ

わたしが生まれ持ったあの茶味がかった猫っ毛のストレートスタイルはこのとき永遠に失われた

その後年々癖が目立つようになり 徐々に固く太くなっていった もちろん加齢のせいでもあるだろうが あのときの悔しさを拭えないでいた


社会人になってもヘアスタイルにあまり関心がなかったけれど 自分で上手にセットできない分 ある程度印象を変えられるのからとパーマを何度かかけた その頃にはもう一度傷んだのだから これ以上傷もうが同じだと思うようになっていたし パーマスタイルは雰囲気も変わるのでヘアスタイルもファッションのように楽しめるようになってきていた


ここ数年では白髪が目立つようになり 夏頃にはいよいよ白髪染めをしようかと思うようになった 
パーマや数回のカラーを経験したので もう染色に抵抗はないものと思っていたが 不思議なことに白髪染めをすると決めたとき そしてそれが実際に行われてしまった後 わたしは初めて真っ黒に染めたあの頃と同じ気持ちでいた

楽しむためではなく 人の気に触らないようにするための染色 できればやりたくないと思っているのに やらざるを得ないということが受け入れ難いのだ

白髪染めというのは始めたら最後 継続しなければならないというイメージがある わたしは人生であと何回白髪染めをするのだろう あといくらかけるのだろう
もう自分自身の髪ではいられないのだなと思うと悲しい


半月ほど前 2度目の白髪染めをした そこで初めてブリーチを経験した インナーカラーというスタイルに挑戦するためだ この際思いっきりカラーも楽しんでみようと考えたのだ インナーカラーとはその名の通り全体ではなく内側だけにカラーを入れる ぱっと見はわからないが 耳にかけたり結んだりするとちらっとカラーが見えるものでおそらく数年前から流行っているスタイルだ 
白髪が目立つのは頭頂部なので基本的には白髪染めをして 内側にベージュ系の色を入れてもらった
最初はわかりにくかったけれど 一週間もするとブリーチした部分のカラーが落ちてきて インナーカラー入れてます! という感じになってきた

ブリーチした部分は白髪染めの部分より傷んでいるのがよくわかる 髪の毛に興味がなかったわたしも 今なら何もしなくてもそれなりに綺麗な地毛を持っているということがどれだけ恵まれていることかわかる
ただそれを失った今はスタイルを楽しむことを覚えた 友人も新しいわたしのスタイルを褒めてくれることが多い できる限りのケアをしながらこの先色々なスタイルに挑戦してみるのも悪くないよな なんてあの屈辱感をちょっとだけ拭えるような気がしている



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