出張は、ごほうび。
ある日、移動つづきの日々について先輩と話していたとき、「でもなぁ、出張ってごほうびみたいなものだからなぁ」とうれしそうに言った。私はその言葉をずっと忘れられずにいました。
編集兼営業職として今の会社に入ってから、もう7年が経ちます。やっていることのすべてをきちんと説明するのは難しいけれど、「北海道中を駆け回って、集めてきた情報を編んみ、本をつくる」という仕事が今の私の活動軸です。
本の発行は、年に4回。それ以外に、ウェブの記事や自治体関連のパンフレットの編集などを担当していて、会いたい人がいれば北海道中どこへでも訪ねていきます。文字どおり、東西南北どこへでも、です。
取材先まで片道3~4時間かかるなんてことは、日常茶飯事。多いときで月の半分ほどが出張で、行先によってはひと月の移動距離が2000kmを超えるときもあります。行ったことのないまちは、もう随分少なくなりました。
会いたい人に会って話を聞き、文章を書く。そういう仕事をしていると言ったときに返ってくる反応の8割が、「楽しそう!」というもの。私自身、なんて幸せな仕事をさせてもらっているんだろうと、建前じゃなく心からそう思います。
そして残りの2割は、「(楽しいだろうけど)大変そうだね!」というもの。最初の頃は、できるだけ良い面だけ知ってほしくて、「移動は慣れるし、何より楽しいので」と答えていましたが、最近は「確かにハードですね」と素直に答えてしまうことも増えました。楽しさやありがたさについては、きっとわかってもらえているだろうと思える間柄の人に限ってですが。
遠方に取材となると、せっかくだから何件かまとめて回って来られるように出張の予定を立てます。取材依頼や撮影準備、日程調整に宿泊先探しなど大抵はすべてひとりで進めるのですが、幹事ができないタイプの私にとってはなかなか大変な作業です。
初めの頃は長距離運転も苦手だったので、取材先に着くまでの移動もひと苦労。一日数件の取材を予定どおりにこなすのもどきどきで、宿に到着した瞬間眠ってしまうような日も度々ありました(一度先輩と二人部屋で泊まったとき、話しながら眠って驚かれたこともありました)。
「出張はごほうび」という先輩の言葉が忘れられなかったのは、取材の楽しさを上回る大変さを実感することが多かったから。仕事であちこち行かせてもらえるのも時間をとってもらえるのも本当にありがたいし、行ってみればやっぱり楽しいのだけど、「ごほうび」とまでは受取れない。そういう自分のキャパのなさを情けなく思いつづけてきました。
そんな私ですが、最近「ごほうび」の意味を素直に受け取れた出張があったので、そのときの日記をここに残しておきたいと思います。12月の始まり、函館方面へ向かったときのことです。
明日から道北出張に出かけるというタイミングで、この日記を書きました。出張前夜のこのそわそわした緊張感は、まだなくなってくれません。でも明日、また朝日がのぼるくらいの時間帯に車を走らせながら、「楽しみだなぁ」という気持ちがこみ上げてくるんだろうなという予感があります。
日程調整も、長距離移動も、取材も、もっと言えば帰ってきてから文章を書くことも、何ひとつ簡単だと思えることはありません。だけど一つひとつと向き合った後で、こんなに満ち足りた気持ちになれるのだから。これはもう「ごほうび」に違いありません。
「出張は、ごほうびだよ」。あの日、先輩がそう話してくれたときの気持ちがやっとわかるようになりました。
北海道のあちこちで、温かく迎え入れてくれた皆さんのおかげです。いつもありがとうございます。もらったものを、写真と文で返していけるように明日からもがんばります。
最後に、取材や編集について書いた文章をいくつか残しておきます。道北から帰ってきたら、また原稿を書く日々が始まります。今はそれがとても楽しみです。
それでは、行ってきます。
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