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詩乃さんの約束は、きっと本当。

人生は、小さな約束にあふれている。またごはんに行こうね、とか、今度そっちのまちに遊びに行くねとか、日常的なものからほんの少し特別なものまで。すぐ叶いそうなものから、ちょっと背伸びをしないと叶わないものまで。

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詩乃さんは、私にとって初めての“編集者仲間”。デザイナーの青坂さんを通して知り合って、時々SNS上でお話するようになって、一昨年の冬、青坂さんと3人でクリスマスパーティーをしたのが最初の出会いでした。

東京で暮らしている詩乃さんは、定期的に北へ飛んできています。この間、青坂さんと一緒に私の家に遊びに来てくれたときで、確か7回目の北海道。いわゆる定番ルートとは外れた、道東を中心とするややニッチなエリアを気に入って何度も何度も足を運んでくれているようです。

たぶん私の3つくらい年下の可愛い人で、編集者としてすごく尊敬していて、だから心の中では可愛いなぁと思いつつ、つい敬語で話しちゃうような、そんな存在です。

青坂さんが撮影した詩乃さん。2人の撮り合う写真が大好きです。

遊びに来てくれた冬の日、ストーブで作った焼き芋を出そうとして、「そういえば、苦手なものあったかな」と思って聞いたときのこと。

「大抵のものは食べられるけど、食感の混ざったものがちょっと苦手。たとえば、クルミの入ったブラウニーとか。クルミもブラウニーも大好き。でも、それぞれの食感は別々にいてほしくて…」と、クルミとブラウニーを擬人化するように、「どちらもちゃんと好きだよ」とそれぞれを傷つけないようにして話してくれました。

言葉を尽くして話してくれる姿がおかしくて、その場ではつい笑ってしまいましたが、頭の半分では「誤解のない言葉選びをする人だなぁ」と考えていました。そんな風に考えていたこと、伝わっていたでしょうか。

無事に焼き芋を食べてもらい、お土産にもらったクッキーを食べて、コーヒーがなくなって白湯を飲んでおしゃべりしていたときのこと。

私がぽろっとこぼした「理不尽な話」を、詩乃さんはすっと私の立場に立って、「そんなのはおかしいよ」という顔をして聞いてくれました。「何とも言えないけれど」とか保険をかけたりしたっていいのに、あたりまえに見方になってくれる。そのときは言葉にできなかったけど、それってすごく優しい気持ちだなとうれしく受け止めていました。

そこで、思い出したことがあります。

まだSNSだけでお喋りしていた頃、詩乃さんがお部屋やレタッチのあれこれについて、フォロワーの方からの質問一つひとつにすごく丁寧に答えているのを見かけて。「優しいなぁ、大変じゃないのかなぁ、でも答えてもらった人は絶対うれしいだろうなぁ」とこっそり見ていたことがありました。

あの日、すっと私の立場に立ってくれたみたいに。詩乃さんは、目の前の人に、きちんと寄り添える人なのかもしれません。あたりまえのように、分け隔てなく、根底にはちゃんと愛を持って。

普段、愛って単語を使って文章を書くことはないけれど、詩乃さんについては使いたくなってしまいました。

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小さな約束の、すべてはきっと叶わない。たとえ「またね」の約束が叶わなくても、それは悲しいことじゃない。事実よりも、約束をしたときの気持ちのほうが大切だと思うから。

「また来ます」と言って、詩乃さんは東京へ帰って行った。「いつか一緒に何かを創作しましょうね」とも言ってくれた。

叶わないかもしれないなぁとは、不思議とまったく思わない。詩乃さんの約束は、きっと本当だとあたりまえに信じられる。だって、クルミ入りのブラウニーについてあんなに一生懸命に伝えてくれる人だ。どんな言葉も、本物だと思うから。

なんて書いてしまったけど、本当に思っていることだけど、これからもずっと、他愛のないお喋りをしましょうね。

あとがき
後日、詩乃さんが書いた『.doto』のエッセイを読みました。詩乃さんが道東へ通うきっかけになった取材。「道東は、そのままの自分でいられる場所だと思った」と話してくれたこと。

“まるで大地が「本当はどうありたいの?」と問いかけてくれるようだから”

私はもう6年ここに住んでいて、ずっと近しいことを考えています。それはやっぱり「何者でありたいか」ではなくて、「どうありたいか」に近くて。詩乃さんが思う道東と、私が思う道東は、きっとぴったり一緒ではないけれど、近しいものかもしれないなと思いました。詩乃さんが帰って来る日を、またここで待っています。そのときは、この続きをお話できたらうれしいです。

写真:2枚とも青坂さんからお借りしました。ありがとうございます🌿

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