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子ども・若者総合相談センターとの取り組み

昨年末からの新たな取り組みについて、ご報告です。

2020年9月より、「かんもくの声」は「名古屋市子ども・若者総合相談センター」(以下、相談センター)にて場面緘黙支援のサポートをさせていただいております。

場面緘黙経験者として、主に元当事者の立場から、相談センタースタッフの皆さまと関わってまいりました。

具体的取り組みとしましては、相談員(相談センターに相談に来られた子ども・若者と実際に関わっている)の皆さまとともに、個別のケースワークを軸にした場面緘黙勉強会(月一回程度)を行ってきました。

2021年3月には、4回にわたる勉強会での学び・気付きを相談員全体に共有するため、場面緘黙研修講座(相談センター内での講座)にて講師をつとめさせていただきました。

以前から「場面緘黙なのではないか」と思われる相談者の方も複数人いらっしゃったようで、相談員の皆さまから「場面緘黙について知りたい」というお声があったそうです。

私は場面緘黙の治療や支援の専門家ではありません。元当事者としての専門性から関わらせていただいています。相談センターでは、必要に応じて医療・心理・福祉等の専門家との連携も行うとのことでしたので「場面緘黙支援の専門家ではない」という不安がありつつも、引き受けさせていただいています。それゆえ、未熟ながら慎重にリスクなどを熟考し試行錯誤してきました。

また、相談センターに打診しまして*「クローサー」としてパートナーの同席を許可していただきました(パートナーは社会福祉士で、子ども、高齢者、障害、地域福祉に関わる対人援助職の経験があります)。私にとっては未知の取り組み・全く初めての場でしたが、クローサーの存在を認め同席を許可していただけたことで安心して挑戦することができました。画期的な受け入れに感謝するとともに、こうした「当事者+クローサー」をセットで受け入れる場のあり方が広がっていくことを願います。

*クローサー
場面緘黙当事者にとって「ほかの人とは話せないがこの人とは話せる」という限られた存在。安心できる相手。慣れない場であっても、クローサーが付き添うことで不安が下がる・話しやすくなる場合がある。家族、友人、パートナーなどが多い。かんもくの声の仮説概念的造語

さて、私は専門家ではありませんが、場面緘黙の専門書籍等を参照しながら「正しい基礎知識をお伝えする」姿勢でお話してきました。そして、本人との関わりや支援においては一貫して「本人の意思確認・気持ちを聴くことの大切さ」をお伝えしてきました。また、場面緘黙経験者の視点からは、クローサーの存在が本人との関わりや支援においても重要であることをお伝えしています。*「人・場所・活動」「人も環境因子」といったお話は、場面緘黙経験者の視点から経験談をベースに話すことで、多くの人にとって腑に落ちる部分があるように思います。

*当事者の不安や発話に影響する状況の要素には、大きく分けて「人・場所・活動」の三つの要素がある。<『場面緘黙Q&A』(学苑社)p.16>
クローサーの存在は「人」の要素のなかの「その場に誰がいるか」という観点において、当事者の不安を軽減したり話しやすくしたりする「環境因子」ともいえる。

勉強会では個別のケースワークを軸にすることが多いため、ひとりひとりに適した対応は異なることが前提です。それゆえ、一概には言えない部分も大きいのですが、例えば*「水道モデル」などを中心に、支援の土台の部分で大切にすべきことを話し合う機会も生まれました。

*水道モデル
『場面緘黙Q&A』(学苑社)p.97掲載 発話までのプロセスのイメージ図

こちらの相談センターに相談できる人の年齢は0歳〜39歳(名古屋市在住)です。私で役に立てるのかという気持ちもありますが、かねてより関心事であった緘黙の(十代を含む)若い人の支援に関われることは、稀有なありがたい機会です。

場面緘黙の十代・若者は、
・子どもに比べて緘黙の支援体制が薄い、治療法が確立されていない
・幼少期から緘黙であった場合、子どもより治りにくい可能性がある
・二次症状や後遺症などを発症する場合がある
・人目が気になるなど、緘黙症状に加えて思春期特有のしんどさがある
・将来についての重要な決断、進路選択や自立などを迫られる重圧がある
・緘黙でコミュニケーションが遮断され孤立状態が続いている場合がある

もしこれらのことが重なれば、十代の緘黙は非常に苦しいものです(私自身もそういった面がありました)し、深刻な状況といえます。

場面緘黙の場合、まず親御さんから相談センターに相談されるケースが多いようです。一般的に「ひきこもり」「不登校」「未就労」と呼ばれる状態の人たちもいらっしゃいます。いわゆる「学校と家庭の連携」といった子ども・学生向けの支援の方法には当てはめられない状態も多いです。ケースや留意点として、

・親と子の主訴が実はズレているケース(例えば、親は自立や就労を、子はもうしばらく充電期間が欲しいなど各々別のことを望んでいる)

・親や学校としてのニーズ(話せるようになって欲しい)と本人のニーズ(今は話せないことでは困っておらずそれよりも別の支援を求めているなど)がちがっている

・支援の際、家族関係への配慮と場面緘黙への配慮の順序や優先順位を見きわめる必要がある(例えば面談時、家族が同席することで不安が下がり発話がしやすい反面、家族が同席すると言いにくいことがあるのではないかなど)

・場面緘黙と「家族関係」「家庭環境」「ASDなど場面緘黙と関わりがあるであろう別の症状など」の困り事が絡まり合い、ある程度ときほぐし整理してから支援を行う必要があり、その整理がむずかしい場合がある

・母子や家族間の距離感の近さの良し悪し(「家族=理解者」の存在が安心につながる一方、話せないため家族以外の人に頼れず共依存的になりやすいなど)

・関わりや支援において、本人への意思確認・気持ちを聴くことが最も大切なのに、緘黙ゆえ意思確認や気持ちを知ることそのものが最もむずかしい場合がある

など、これまで様々なお話が出ました。場面緘黙の支援の枠を越えたケースだと感じる場合も多々あり、実際、純粋な場面緘黙だけの相談(話せなくて困っている)というのはないに等しいのかもしれません。相談センターでは家族支援の勉強会にも力を入れているそうです。私自身、今後も学びと経験を深められるよう、相談員の皆さま・相談センターの皆さまと場面緘黙のこと+場面緘黙以外のことも学びつつ、関わっていければと思っています。また必要に応じて、場面緘黙の治療や支援の専門家を巻き込める可能性もあります。

地域の相談機関と場面緘黙に詳しい人がつながることで、子ども・若者の困難の中から場面緘黙への支援ニーズを掘り起こすことは重要です。場面緘黙は当事者も家族も気付きにくい側面が大きいため、幼少期から長年苦しんでいる場合もあります。当事者を支援・治療など地域の専門家や専門機関へつながりやすくすることが必要です。また、場面緘黙を知ることは当事者の自己理解にもつながります。自身の抱えてきた困難の一端を知り、心身の現状把握ができる可能性もあります。それは、自責の苦しさを軽減し、生きやすさの指針となってくれるのではないでしょうか。

また、場面緘黙経験者(元当事者)と支援者の関わりも大切です。現在進行形で苦しい状況にある当事者と関わる支援者にとって、経験者と実際に関わって話を聴くことは、気付きがあるだけでなく当事者支援に対する希望的観測を保つ動機にもなり得ます。経験者は自身の経験を支援者に話し伝えることで、当事者支援に役立てる場合もあります(場面緘黙に関わらず元当事者=経験者の存在意義のひとつかもしれません)。

こういった取り組みが全国に広がってほしいという思いから、今回こうして報告させていただきました。相談センターや相談員の皆さまの積み重ねてきた実践を主軸とし、そこにかけ合わされることで、わずかながら一助につながれば幸いです。

微力ながら引き続き関わらせていただく予定です。

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