「ハミングを用いた音声練習プログラム」について

前回は、Knet事務局メンバーのみくさん(ロンドン在住)から、アメリカのセザール・ルイズ博士(Dr. Cesar Ruiz)の「ハミングを用いた音声練習プログラム」の紹介がありました。それを読んで、私も緊張時にハミングや鼻歌をしてもらったり、家でハミングの練習してもらったりして支援した場面緘黙児がいたことを思い出しました。

場面緘黙症へのアプローチの一つとして、段階的に発話動作を形作っていく「シェイピング法」という方法があります(シェイピング法は「ここで話したいのに、声が出ない」と子どもが思っている場合や、「心理士の前で声を出すことにチャレンジしたい」と思っている時に取り組むとうまくいきます)。
これまで下記のような順番で、多くの子どもと音声のシェイピングに取り組みましたが(途中からの子、途中までの子もいます)、ハミングや鼻歌の練習は、下記のプロセスの(4)と(5)の間で行いました。

(1)イエスノーのクイズで、うなづきと首振りをする遊び
(2)口パクのカード当てあそび 
(3)息を吹くあそび(ティッシュ吹き遊び・風船ガムを膨らませる遊び)・呼吸法
(4)唇破裂音(p・paとか)・舌打ち音や無声音(S・ch・k・t)など、声帯を使わない無声音で、まねっこ・数数え・カード遊び
(5)有声音での数数えや音読(カード・カルタ・英語や国語の教科書)

これらの遊びは、その場にいる全員で遊ぶ(例えば、緘黙児にだけ口パクさせるのでなく、親と心理士と子どもの3人全員とか、兄弟も入れて4人全員が口パクで遊ぶ)ところが大切です。

大半の場面緘黙児が心理士といっしょに(1)(2)が、できます。緊張すると私たちは呼吸が浅くなり、息をゆっくり吐くことができません。音声というのは吐く息ででます。なのでその次に、自分で呼吸を調節して息を吐けるように(3)を練習します。

(4)の「声帯を使わない音声」もできる子は結構います。ただ(5)の「声帯を使う音声」の段階に進むのが、かなり高いハードルです。そのため、(4)と(5)の間に、家でハミングや鼻歌を練習してきてもらいます。好きな音楽を流すとうまくいく子もいます。

場面緘黙経験者からお話を聞くと、話したいという意思があっても緘黙状態になると、「頭が真っ白」「喉が閉まったようになって声が出なくなる」というような状況に陥ると聞きます。脳がオーバーヒートしていて、言うことが考えられない状態や、言う言葉は決まっていても声が出せない状態なのでしょう。そこで「言うことを考える」と「決まったセリフを言う」を区別し、「言うことを考える」はワークや筆談で練習し、「決まったセリフを言う」部分を、シェイピング法で取り組むわけです。

ちなみに、ここちよくハミングすることは、ストレス緩和になります。ヨガには、鼻呼吸してハミングで頭蓋骨を音で振動させ、それを全身へと伝える「蜂の呼吸法」というのがあります。振動により脳が活性化され、集中力や記憶力などを高める効果があるとされています。コロナ感染拡大でのセルフケアとして、あなたもぜひお試しを。

かんもくネット 角田圭子(公認心理師/臨床心理士)