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大壹神楽闇夜 2章 卑 1疫病6

 葦船を波にさらわれた神楽達は運良く沖合を進む葦船に救助して貰う事が出来た。此の葦船は別子(べつこ)の娘が感染者を運んでいる葦船だったので本来なら卑国には行かないのだが特別に行って貰う事が出来た。
「しかし…。柚季生等のお陰で助かりよったじゃかよ」
 波に揺られ乍ら神楽が言った。
「まったくじゃ…。我等が通らねばどうするつもりじゃったんじゃ。」
 柚季生(ゆきお) が言う。
「遭難じゃか…。」
「じゃよ…。そのまま奴国に住まねばいけんか思いよったじゃかよ。」
 と、香久耶が言うと三人はゲラゲラと笑い出した。
「その手がありよったじゃか。」
 と、柚季生(ゆきお) は笑う。
「じゃよ、我の将来は漁師じゃ。」
「網をこさえよるか。」
 と、ケラケラ笑っている所に鄭孫作がやって来た。
「お〜。鄭殿。休憩じゃか。」
 鄭を見やり神楽が言った。
「はい。麃公(ひょうこう)が交代してくれましたので。」
「なら、ユックリ休むと良い。」
 と、神楽は左横をポンポンと叩いたので鄭は其処に腰を下ろした。
「所で鄭殿…。もう一度其方の剣を見せて貰えぬか。」
 神楽が言った。神楽は宿屋で鄭の剣を見せて貰ってから虜になってしまっていたのだ。
「勿論…。」
 と、鄭は鞘ごと神楽に渡した。神楽は剣を抜きジッと見やる。柚季生(ゆきお) は鄭の剣を初めて見やるのだが、其の美しさに一瞬で心を奪われてしまった。
「な、なんと見事な剣じゃか…。」
 と、柚季生(ゆきお) はソロリと刃に触れようとしたのだが、其れを神楽が止めた。
「指が切れてしまいよるじゃかよ。」
 神楽が言う。
「指が…。」
「じゃよ…。」
 と、言った神楽は昨晩、此の剣の刃を握ろうとして鄭に止められていた。其の後鄭は此の剣が如何に切れるのかを実演して見せると神楽は指が無いなるとこじゃったと顔を青ざめさせたのだ。
「そんなに切れよるんか ?」
「切れよる。」
 と、神楽は柚季生(ゆきお) に剣を渡した。柚季生(ゆきお) はマジマジと見やりハァァ…。と、吐息を吐いた。
「じゃが、切れよると言う事は我等の合口みたいなもんじゃか。」
「合口 ?」
 鄭が聞き返す。
「じゃよ…。我等の持つ合口は切れよる。」
「ほぅ…。其の様な物があるのですか。」
「ありよる。」
 神楽が言った。
「なら、是非見せて頂きたい。」
 と、鄭が言うと神楽と柚季生(ゆきお) はスーっと視線を逸らした。
「どうしたのです ?」
「合口は渡せぬ。」
「どうして ?」
「我等の命じゃからじゃ。」
「もぅ…。お姉ちゃん等は頑なじゃかよ。」
 と、其れを見ていた香久耶が合口を抜き袖から出した。
「香久耶 ! 何をしておる。其れは渡してはいけん。」
 神楽は強い口調で言った。
「お姉ちゃん…。」
「合口は我等が命じゃぁ言うたじゃかよ。」
「神楽殿…。私は其の命を更に高める為に此処にいるのです。」
 鄭は強い眼差しで神楽を見やり言った。
「じゃ、じゃが此れはいけん。」
「信用無く命を高める事など出来ません。」
「た、確かにそうじゃ…。なら、我のを見せてやりよる。」
 と、神楽は鄭の強い眼差しに負け合口を見せてやった。鄭は其れをジッと見やり刃をチョコンと触った。
 神楽達が言う合口なる物は指二本分位の小さな剣である。だが、其れは剣と言うには余りにも歪な形をしており、確かに先は尖っていて刃が付いてはいるが、其れは余りにもお粗末な物であった。
 
 彼女達に技術が無いのか…。

 鄭は考える。だが、彼女達の持つ剣は刃は無いが剣の形はなしている。しかし、此の合口には刃があるのに剣の形は成していない…。と、鄭は合口をあらぬ方にグニグニ動かしやがて一つの結論を出した。
「柚季生(ゆきお) 殿…。私の剣を。」
 と、鄭は剣を返して貰うと其の剣で合口を力一杯切った。
「鄭殿 ! 何をなさる !」
 神楽は止めようとしたが遅かった。

 ガチン !

 と、強い衝撃音と共に刃の一部が欠けピョンと飛んで行った。
「あ…。あ…。わ、我の命が…。」
 神楽は余りの衝撃的な事件に意識を失いそうになった。
「神楽殿…。欠けたのは剣の方です。」
 そう言うと鄭は合口を神楽に返した。神楽は本当に無事なのか必死に合口を見やる。鄭は大きく欠けた剣を見やり娘達を見やった。
「此の合口は銅ではありませんね。一体此れは何で出来ているのです ?」
 鄭が問うた。
「鉄じゃ。」
 香久耶が言った。
「鉄 ?」
「じゃよ…。じゃが、其れは使えんじゃかよ。」
「何故です。」
「溶けんのじゃ。」
 と、合口をしまいながら神楽が言う。
「溶けない ?」
「じゃよ。じゃから熱して無理矢理叩いて伸ばしよるんじゃ。」
 柚季生(ゆきお) が言った。
「成る程…。其れで歪な形をしていたのですか。」
「じゃ。」
「つまり、此れを溶かせればエクスカリバーが作れると言う事ですね。其れで此れは何処に行けば取れるのです ?」
「出国の山に一杯ありよる。」
 香久耶が言った。
「出国 ?」
「じゃよ…。其処には真っ赤な川が流れておる。」
 柚季生(ゆきお) が言う。
「なら、私は出国に行かねばなりません。」
 と、鄭が言うと卑国にストックがあるから大丈夫と神楽が言った。
「其れは有難い。」
「じゃがどうやって溶かすんじゃ ?」
「色々考えて見ます。」
 と、鄭は既に頭の中であれこれ考え初めていた。
 そして葦船はドンブラコッコ…。
 又一日が過ぎ、二日が過ぎて一行は卑国の浜に無事到着した。柚季生(ゆきお) は感染者を秘密の集落に連れて行くので卑国には寄らず其のままドンブラコッコ…。神楽達は麃煎(ひょうせん)を連れて鷺の宮殿に向かった。
 一行はテクテクと歩き続け日が暮れる少し前には都に到着する事が出来た。女しかいない都と聞いていたのだが以外と男も多くいたので麃煎(ひょうせん)はガッカリである。
「男もいるじゃないか…。」
 テクテク歩く男を見やり麃煎(ひょうせん)が言った。
「あの者達は行商人か旅行者じゃ。」
 綾乃が言う。
「出入りは自由なのか。」
「今はの…。」
「昔は違ったのか ?」
「違いよる…。」
「ふーん。」
 と、麃煎(ひょうせん)達はキョロキョロと周りを見やりながら歩き続けた。そして鷺の宮殿に着くと四人は日三子の間に通された。
 日三子の間には既に多くの娘達が其処にいた。上座に伊都瀬(いとせ)と華咲(かさき)が座っており右に月三子、左に月影の娘達が座っている。本来なら都馬狸(とばり)等別子(べつこ)の娘達も同席するのだが、都馬狸(とばり)達は迂駕耶(うがや)にいるので今回は同席していない。勿論開拓組の月三子達は気長足姫(おきながたらしひめ)と領土を奪いに行っているので欠席している。麃煎(ひょうせん)達は伊都瀬(いとせ)と華咲(かさき)の前に腰を下ろした。
「神楽、香久耶、綾乃、陽菜…。ご苦労じゃった。」
 伊都瀬(いとせ)が言うと四人は応と答えた。
「して、我が卑国の大王伊都瀬(いとせ)じゃ。」
 伊都瀬(いとせ)は事前に大王と言う様に千亜希と美涼に言われていたので、其の様に言った。
「我が左王の華咲(かさき)じゃ。」
 と、華咲(かさき)が言うと四人は華咲(かさき)を見やり神楽と香久耶を見やった。神楽が項蕉(こうしょう)と話している時に母上は華咲(かさき)だと言ったのを覚えていたからだ。
「どうかしたのか ?」
 華咲(かさき)が問うた。
「否…。ひょっとして、神楽殿と香久耶殿の母上か ?」
 麃煎(ひょうせん)が問うた。
「如何にもじゃが…。我は産んだだけじゃ。神楽をそだてよったんは安高じゃ。」
 と、華咲(かさき)が言った。
「産んだだけ…。」
 と、麃煎(ひょうせん)達には又謎が出来た。と、今は其の様な話をしている場合では無い。麃煎(ひょうせん)達は伊都瀬(いとせ)達に取り敢えず自己紹介をし、始皇帝の考えを皆に伝えた。
 話を聞いた伊都瀬(いとせ)と華咲(かさき)の初めの一言は都馬狸(とばり)と同じであった。だが、今更其れを攻めても仕方が無いし、どの道選択肢は其れしか無いのも事実である。
「さて、此の話を氷…。否、王后にも聞かせたいのじゃが王后は今新たな領土を奪いに行っておる。」
「領土を ?」
「そうじゃ。特に麃煎(ひょうせん)殿は八重の兵に更なる力を与えてくれよるじゃろうから、早急に合わせたいんじゃが…。」
「我もお会いしたく思います。」
「じゃな…。伝令を送りよったから二、三日もすれば帰って来るじゃろう。」
 と、華咲(かさき)が言った。
「じゃな…。其れ迄は此処でユックリと過ごすと良い。其れから、王嘉(おうか)殿は水豆菜(みずな)達と話すと良い。鄭殿は鍛冶をしておる娘達に紹介しよる。李禹(りう)は…。そうじゃなぁ…。神楽と過ごすと良い。」
 と、伊都瀬(いとせ)が言うと水豆菜(みずな)が四人の前に金袋を置いた。
「此れは ?」
「お金じゃ。何かと必要になりよる。」
 水豆菜(みずな)が言った。
「お金…。」
 と、中を見やり麃煎(ひょうせん)達は腰を抜かした。
「どうしたんじゃ ?」
 ビックリしながら水豆菜(みずな)が問うた。
「こ、此れは金ではないか…。」
「金 ?」
「き、金だ。」
 と、金袋からお金を出し麃煎(ひょうせん)は更に驚いた。其れは小さく薄く伸ばされただけの物ではあるが秦国に持って帰ればそれだけで一年は贅沢が出来る代物である。其れが袋の中にジャラジャラと…。驚いて当然である。
「こ、これがお金なのか ?」
「じゃよ…。」
「いや、しかし…。こんなに貰う訳には…。」
 と、麃煎(ひょうせん)が言うと水豆菜(みずな)は首を傾げ言った。
「こんなにもなにも…。普通じゃかよ。」
「ふ、普通なのか ?」
「じゃよ…。」
「しかし…。これだけの金があれば秦国では一生優雅に暮らしていけます。」
 王嘉(おうか)が言う。
「ほぉ…。秦国ではお金が大事じゃか…。なら、心配せんで良い。此の国…。八重国も卑国もお金の価値は無いに等しい。我等にとって大事なのは米じゃ。」
 伊都瀬(いとせ)が言った。
「じゃよ…。其れに、どの店も物々交換してくれよるしの…。じゃが、其方等に狩は無理じゃろぅ。」
「まぁ、余り得意では無い。」
「じゃから、お金を使いよる。」
「はぁぁぁ。」
 と、四人は今一理解出来ない。
「まぁ、滞在して行く内に分かりよる。今日はユックリと休まれよ。」
 と、伊都瀬(いとせ)は四人を寝床に案内する様に行ったので、月三子の娘が麃煎(ひょうせん)達が住む事になる家に案内してやった。神楽は一仕事が終わったので綾乃と陽菜と共に稽古場に戻って行った。
 稽古場に戻ると何やら楽しそうな声が聞こえて来るので、神楽は何とも怪訝な表情を浮かべながら中を見やった。

 そして神楽はブチギレた。

 其処には王太子とエロ三昧の神楽無敵部隊の娘達がいた。

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