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大臺神楽闇夜 1章 倭 2襲来5

「なんとも奇妙な…。」
 麃煎が言った。
「我等の強さを知っていると言う事、だから身を隠している。」
 軍師を務める王嘉(おうか)が答える。
「隠れて戦が出来るか ?」
 と、麃煎は船上から港を見渡す。不思議な事にその周辺には兵士はおろか民さへも居ない。
「作戦でしょう。迂闊に攻め入れば此方が痛手を食う事になる。」
 辺りを捜索する兵を見やりながら王嘉が答える。
「まどろっこしい…。」
「確かに…。ですが、とても良い作戦です。」
「作戦のぅ…。何にしてもお手並み拝見だ。」
「値するか否か…ですか。」
「フン…。値しても課題は山積みだ。」
 と、倭族の船を見やり麃煎は王嘉と共に下船した。
 下船して改めて周りを見やると更に不気味に映る。先程迄人がいたのは確かである。だが、港はおろか砦の中に兵士はおらず、倉庫にも駐屯所らしき場所にも人はいない。
「下手に動くは危険。一旦兵を戻すべきです。」
 不審に感じた王嘉が助言する。
「そうだな…。大筒を叩け。一度兵を戻す。」
 と。麃煎が言うやいなや先に行き過ぎた数名の兵が射抜かれた。
「敵 ! 敵襲 ! 一旦引け !」
 前方から声が上る。麃煎と王嘉は大筒を叩かせ乍ら前方の状況を見やる。が、八重兵の姿は依然として見当たらない。だが、隠れている事は確かである。だからと言ってその場所を特定するのは難しい。
 港からしてそうなのだが、点在する小さな小屋や監視所等が視界を妨げ、何を目的に作られたのか分からぬ木の壁が至る所に設置され其れが更に視界を狭めているのだ。
 兵士が隠れているのかと壁を槍で突くが無駄に終わる。小屋の中に隠れているのかと探るが誰もいない。が、作りからして暗殺を前提とした作りである事は確かである。
 港から砦に入ると其れは更に複雑になっている。点在する小屋に竪穴式住居。そして生い茂る木…。そして壁。間近の壁は既に兵士が破壊し、小屋は既に探索済みである。だからと言って視界が良くなった訳では無い。
「八重が動くのを待つか…。」
「否…。その必要は無いでしょう。」
「何か妙案があるか ?」
「待つは愚策。必ず奇襲を受けるでしょう。ですが、此方が無駄に動けば策にハマる。なら、相手を動かせば良い。前方の兵士が射抜かれた場所。其れより先に火を…。」
「火を放つのか。」
「左様です。火が回れば敵は必ず現れる。」
「確かに…。で、どうやって火を放つ ? 敵の居場所が分からぬ以上無駄に近づけぬぞ。」
「確かに…。では先ずあの本殿を焼きましょう。」
 と、王嘉は砦の本殿を指差す。
「あれを ? 」
 麃煎は本殿を見やり首を傾げる。本殿は既にもぬけの空だとの報告を受けていたからだ。
「焼けば分かります。」
 と、王嘉が言ったので麃煎は本殿を焼く様に指示を出した。
 其れから直ぐ兵士達は本殿に油をまき火をつけた。パチパチと火が燃え始め緩やかに本殿を火が包んで行く。
 本殿は木と茅で作られているのだが火の回りは非常に遅い。ガソリンや灯油が有れば一瞬でキャンプファイヤーだったのだが生憎その様な便利アイテムは存在しない。有るのは火の力を少し強める程度の油である。
 其れでも有る程度まで火が回れば後は燃えカスになるのを待つだけで有る。初めは弱かった火も燃え広がるに連れ激しく燃え盛る。立ち昇る煙はモクモクと上がり、やがて中から二十人程度の八重兵が出てきた。
「真逆…。真に隠れていたか。」
「放て !」
 王嘉の策に驚きを隠せぬ麃煎をよそに、既に弓を構えさせていた弓兵に王嘉は指示を出した。弓兵は八重兵目掛けて矢を放つ。命からがら本殿から出てきた八重兵は一人残らず矢の餌食となった。そして、王嘉の予想通り本殿が燃えるのを合図とする様に身を潜めていた八重兵が姿を現し攻撃を開始した。
「来ます。」 
 王嘉が言った。
「来る ?」
 と、麃煎が言った所で兵士達に緊張が走る。
「八重だ ! 八重が来た !」
 兵士達が声を荒げ叫ぶ。
「やっと戦が出来るか。」
 ニヤリと笑みを浮かべ麃煎が言った。
「ええ…。ですが深追いは禁物です。」
「分かっている。ー迎え撃て。我等が力を見せつけよ !」
 声を荒げ麃煎は迫り来る八重兵の元に歩みを進めた。
 お互いの雄叫びが混じり合い激しい戦闘が始まる。剣を矛を構え八重兵が襲い来る。其れを秦兵が向かい撃つ。
 麃煎は恐る事なく戦場に入って行きその目でジックリと敵の動きを見やる。
 そして…。
 文明の差を痛感した。
 八重兵の持つ剣や矛は鈍以外の何でもなく、身に付ける鎧は一昔も二昔も前の鎧の様であった。
 八重の剣は鎧を貫けず、八重の鎧は体を守れず。しかも下半身は脛当てを着けているだけのお粗末な代物。
「なんだこれは…。」
 どれだけの物かと期待していた麃煎はガッカリだった。
 戦術は確かに良いのかも知れない。だが、肝心の武器や鎧が駄目では話にもならない。其れに戦い方もお粗末…。悪戯に剣や槍 ? 槍…? まぁ、槍の様な変わった槍を振り回しているだけのお遊びに見えた。
「此れが八重か…。」
 話にもならぬ八重兵は麃煎の前でことごとく秦兵に討ち取られていく。だからと言って秦兵の持つ武器が無敵の代物かと言うとそうではない。
 鎧ごと貫けると言っても良くて三度。突き方によっては一度で鈍になる。其れに鎧ごと貫かなかったとしても人の脂と血は矢張り伝説の剣をも鈍にしてしまう。
 初めはスパスパ切れていた剣もやがては力を入れねば切れなくなる。其れでも剣は剣。鈍であっても切れる。だが、八重兵の持つ剣は剣の形をした銅の塊。此れでは切れる物も切れない。貝殻の方が数倍は良く切れると言うものである。
「うりゃぁぁぁぁ !」
 と、其処に麃煎に向かって来る八重兵が一人。矛を構え麃煎を突きに来る。麃煎は恐れる事なくドッシリと正面を向き構えて見せた。
 貫ける物なら貫いて見せよ。麃煎は無言でそう言っている。八重兵は力を込め渾身の一撃を麃煎の胸にあたえた。

 ドン !

 と、鈍い音が響く。此れは矛が弾かれた音である。麃煎は涼しい顔で八重兵を見やるが、此れは痩せ我慢である。例え矛が鎧を貫けぬと言っても強烈な力が鎧から体に伝わって来る。だから当然痛い。が、此処で痛い顔を見せれば格好がつかないと言うものである。
「その程度か八重 !」
 麃煎は声を荒げ言った。其れに臆する事なく八重兵は一度構え今度は麃煎の首に狙いを定め矛を突く。其れを麃煎はグイッと踏み込み乍ら攻撃をかわすと即座に八重兵の首を刎ねた。
 血飛沫を上げながら首が宙に跳ね上がる。麃煎は素知らぬ顔で更に八重兵を打ちに行く。圧倒的な差…。八重兵は徐々に追い詰められて行く。が、此処で大筒が鳴る。
 大筒の示す意味は後退せよ…。
 気がつけば開始場所よりもかなり前に出ている。圧倒的に此方が優勢なのだから敵を追い詰めて行くのは道理である。だが、王嘉はそれを良しとはしない。逆に麃煎は何故下がらねばいけないのか疑問を抱く。抱くが軍師の策は絶対である。
 麃煎は仕方なく後退すると、八重兵に勢いが戻る。が、此れは八重兵にとっては誤算である。このまま秦兵を引きつけ矢で射る作戦だったからだ。だが敵を引き寄せるには攻めなければ策がバレてしまう。だから、劣勢であっても攻めるしかないのだ。
 そして又大筒がなると秦兵は左右に分かれ足速に後退する。其処に後方から矢の雨が降り注ぐ。この攻撃により多くの八重兵が命を落とした。
 そして又大筒が鳴る…。
 大筒の音に合わせ秦兵の攻めが変わる。八重兵は其れに適応出来ず更に数を減らして行く。其れでも八重兵の勢いは衰えず秦兵に立ち向かって行く。勇敢であると言えば聞こえは良い。だが、其れしか策が無いと言えばそうなのだ。
 正直後が無い。そして既に王嘉は其れを見抜いている。
「何故一気に攻めぬのです ?」
 王嘉の横にいる兵士が問う。
「その先に策があるからだ。」
「その先 ?」
「そうだ…。あの場所より先に何か策がある。」
 と、王嘉はその場所を指す。
「まだ八重には策があると ?」
「あるさ。いくらこの島が迂駕耶から離れているとは言え、八重はこの場所で我等を迎え打つ算段。だが、其れにしては兵士の数が少な過ぎるとは思わないか ? 真逆たった此れだけの数で何とかなるとは思ってもおらんだろう…。其れに八重兵は態と後退し我等を引き寄せているのは明白。なら、その先に策があると考えるは当然だ。」
「成る程…。」
 と、兵士は前線を見やる。そして言われて初めて八重兵の少なさに疑問を持った。
「確かに少ない。ですが、そう言う事なら、八重の策は尽きたもどうぜん。このまま我らの勝利ですか…。」
「あぁぁ、策が無いなのであればそうなる。が、そう甘くはないだろうな。」
 と、王嘉は前線の兵士達の動きを見やる。王嘉が又前線を見やっていると”痛 !”と言う声が聞こえた。王嘉は声がした方に視線を向けた。背中を摩り乍らキョロキョロと周りを見やっている兵士が一人。
「どうした ?」
 王嘉が問う。すると今度は反対方向から”痛 !”と言う声がする。王嘉は慌ててその方向に視線を向けるや否や何処からともなく無数の石が飛来してきた。王嘉の側にいる兵士が数人王嘉の盾となり王嘉を守。
「丞相…。此れは ?」
  王嘉を守り乍兵士が問う。
「まだ、八重が潜んでいたのだろう。」
「八重が…。其れで石ですか ?」
「…。妙だな。」
 と、王嘉達が話しているとピタリ攻撃が止んだ。
 そして…。
 トゥィ〜ン トゥィ〜ン
 聞いた事もない様な鐘の音が耳に届く。其の音は細い、だがしっかりと耳に届く。そして一度聞けばずっと聞いていたくなる様な心地の良い音色。
 その音は何処から流れて来るのか ? 王嘉はキョロキョロと周りを見やる。そして自分達の正面に人が立っている事を知った。
 誰 ? 王嘉達はその者を見やる。
 その者は真っ赤な衣を身に纏い鬼(き)の面を付けている。髪は高くそれこそ天に届かんばかりの高さにゆわれ、ただ静かに其処にいる。優しく鐘を鳴らすその者は間違い無く女である。
「な、何者だ…。」
 見た事も無い衣を纏った女を見やり兵士が言った。
「三子だ。」
 王嘉が言った。
「三子 ? 三子とはあの…。大将軍が言っておられた ?」
「あぁぁ…。何かして来るぞ。油断するな。」
「応…。」
 と、兵士達は予期せぬ攻撃に対応出来るよう身構えた。が、其れに反する様に女は鐘を鳴らし乍ら舞を舞い始めた。
 しなやかに優しく。柔らかくあって力強い。其れは王嘉達が見た事もない妖艶な舞であった。腕を上げる仕草だけでも美しく、高らかに飛び跳ねる姿は正しく天女に見えた。女が異形の鬼の面を付けていても其れさえも美しく心を奪っていく。やがて女は何度か高く舞い上がり、天を駆けながら王嘉のもとにやって来た。
「丞相危ない !」
 咄嗟に側にいた兵士が王嘉を押し退ける。その行動に王嘉は我に返った。
「しまった…。大丈夫か ?」
「じょ、丞相こそご無事で…。」
 と、言った兵士の肩からは血が流れ、天を駆けて来た女が其処に居た。
 そう、女は天を駆け王嘉に襲い掛かって来たのだ。
 女は既に長い袖の中に合口を忍ばせていた。だが、地面につきそうなほど長い袖の所為で王嘉達が其れを知ることは無かった。だから、兵士の天才的機転がなければ王嘉は確実に殺されていただろう事は確かである。
 右肩を合口で突き刺した女はすかさず左腕を首に回し兵士の顎を上げると、突き刺した合口を抜きそのまま兵士の首に突き刺した。
「うごぉ…。」
 力弱い声と共に首から血が噴き出す。
「貴様ぁぁ !」
「女を殺せ !」
 その光景を目前に兵士達が熱り立ち剣を振り上げる。と、又何処からとも無く無数の石が飛来してきた。
「また石か !」
 と、兵士の動きが一瞬鈍る。女は其の隙を見逃さず近くに居た三人の兵士の喉を手際良く突き刺す。そして女は王嘉を標的に捉えるが、其れを周りの兵士達が拒ませる。石をぶつけられながらも兵士達が女を殺そうと襲い掛かってきた。すると何処から現れたのか三人の女が後方から現れ数人の兵士を手際良く殺して行く。驚く兵士達、皆の視線が後方に向いた瞬間…。女はそそくさと逃げ出していった。そして、合わせる様に後方の女達もそそくさと逃げて行った。
「女が逃げたぞ ! 追え !」
 兵士達が声を荒げ逃げ去って行く女達を追う。其れを王嘉が止めた。
「駄目だ ! 追うな。」
「何故です ?」
「先ずは立て直しが先だ。其れに追えば更に相手の策にはまる。」
「しかし…。」
 兵士は不服そうだった。だが、此れは完全に相手にしてやられたのだ。相手の策を読み此方が有利になっていると勘違いさせられていたのだ。此処で熱くなれば更なる痛手を食う事になる。

 痛手 ?

 そもそも女達は何をしに此処に来たのだろうか ? ふと、王嘉は女達の行動に疑問を持った。たかが数人の兵士を殺す為に前線を抜けて態々来たのだろうか ? 其れとも軍師である自分を殺しに来たのか ? 

 否…。

 もしそうなら私を殺すまで戦い続けたはず…。
 私達を誘き寄せ策にはめる…。
 否、此れも良く考えれば有り得ない。策があるなら麃公達が先にその策の餌食になっているはず…。
 なら、何をしに此処に ?
 と、王嘉は前線を見やりブルっと体を震わせた。
「しまった…。此れが狙いだったか。ーー大筒を ! 前に出過ぎだ !」
 慌てて王嘉は指示をだした。
「お、応。」
 と、兵士が大筒の元に向かい。そして愕然とする。
「じょ、丞相。」
「どうした ?」
「大筒が壊されています。」
「な、なんだと…。狙いはそれか。」
 と、王嘉は前線に向かって走り出した。
「後退だ ! 下がれ !」
 叫びながら王嘉は走る。が、八重兵との戦闘に熱くなっている麃煎や兵士達にはその声は届かない。麃煎達は八重兵に導かれる様に前へ前へと進んで行く。それはあたかも自分達が八重兵を追い詰めて行っている様に感じ取れる様に…。気がつけば大きな門が既に目前であった。そして、其の門を潜れば高天原である。
「このまま一気に抑え込め !」
 麃煎が大声で唸った。兵士達が雄叫びをあげ八重兵を抑えに掛かろうとした其の刹那。八重兵は戦いをピタリと止め全速力で逃げて行った。
「な、なんと…。」
 此れには麃煎はおろか兵士達も拍子抜けである。今の今まで必死に立ち向かって来ていた八重兵が突然逃げ出したのだ。
「一体何があったのだ…。」
 麃煎が頭を捻っている間に門が閉められた。
「将軍 ! 門が閉められました。」
「門が ? まったく…。これも作戦か ?」
 と、門を見やっていると門から城壁からモクモクと煙が立ち昇って行くのが見えた。
「煙…。火を放ったのか ?」
 と、麃煎は首を傾げる。何の為に火を放ったのか理解出来なかったからである。確かに小屋に閉じ込められ火を放たれれば命の危険があるから焦るだろう。だが、此処は砦の中である。しかも其の中は無駄に広い。だから門や城壁に火を放った所で何の意味も無い。
 モクモクと上がる煙は瞬く間に黒煙に変わり門やら城壁やらを炎が飲み込んで行く。真夏の暑さと相まって非常に暑い。流れ出る汗は更に激しく流れはじめてきた。
「真逆、蒸し焼きにするのが狙いか ?」
 汗を拭い乍ら麃煎が言った。
「まったく…。此処にいても仕方ありません。一旦引きますか ?」
「そうだな。既に八重も引いているだろうからな。」
 と、麃煎が兵を戻そうとした正にその時…。炎の中から無数の矢が飛んできた。そして小屋等の建物に未だ隠れていた数十名の八重兵が其れを合図に矢を放つ。この攻撃により多くの秦兵が命を落とした。
 鎧は八重の矢を弾く。だが肉体は脆い。勿論八重兵は狙って打ってなどいないが無数の矢を放てば何本かの矢は命を奪い重症を負わせる事が出来る。其れに建物に身を潜めていた八重兵は秦兵が身につけている鎧の硬さをその目で見ているのだ。当然狙うは顔面である。
「いかん…。撤退だ。引け ! 引け !」
 麃煎は慌てて兵を後退させる。兵士達も急いで後退するが、その行動の中で更に数名の秦兵が命を落とす事になった。
「侮った…。」
 後退し乍麃煎がボヤく。ボヤきながら麃煎は全速力で走る。
 と、大声を上げながら走って来る王嘉が見えた。
「後退だ ! 後退 !」
 王嘉の叫び声が響く。
「王嘉 ! 何をしていた ! 何故指示をださぬ !」
 麃煎が声を荒げ叫ぶ。
 王嘉は麃煎の元に辿り着くと息を切らしながら”お、大筒が…。”と言って先ずは息を整えた。
「大筒がどうした ?」
「我等は三子の襲撃にあっていたのです。」
「三子の。」
「はい。その中で大筒が破壊されたのです。」
「何と…。で、三子は如何程いたのか ?」
「よ…。否、五十…。ーー百はいたかと。」
 と、王嘉は咄嗟に嘘をついた。
「ひゃ、百。其方の元に残して置いた兵は五十。良く無事でいてくれた。」
「はい。兵に助けられました。」
「そうか…。」
「それで、将軍の方はどうだったのです ?」
「見事に策に嵌められた。真逆千の兵が待ち構えていようとはな。」
 麃煎はサラリと嘘をついた。
「そうでしたか…。」
 と、二人は燃え盛る門を見やる。いつの間にか炎の中から飛んできていた矢の攻撃は無くなっていた。
「参りました。」
「そうだな。見事と言うべきか。」
「将軍も同じで ?」
「あぁぁ…。後はどの様に繋ぐかだ。」
 と、麃煎は海岸を見やる。海での戦も終わったのか此処から見やる風景は不気味な程のどかに見えた。気がつけば日も天高く昇っている。
「そろそろ飯の時刻か…。」
「そうですね。そろそろまともな…。」
 と、王嘉は言葉を止めた。
「どうした ?」
「気の所為か…。倭族の船が此方に。」
「真逆。帥升達は迂駕耶に向かうはずであろう。」
 と、麃煎は沖の船を見やる。王嘉の言う通り船の進路が変わっている様に見える。
「どうなっている ? 真逆…。」
「其れはないはずです。ですが倭族をこの島に向かわせる何かがあった事は確かでしょう。」
 と、二人は此方に向かって来る船団を見やった。
 そよ風は優しく血の匂いを運び、倭族を乗せた船を高天原に導いて行く。海で何があったのか麃煎達は知らない。ただ一つ言える事。此れが最悪の展開であると言う事である。

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