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大壹神楽闇夜 2章 卑 2三子族7

 ヤリスが周国に戻り三日が経った頃、衛峰の使いが白椰との席の日取を伝えに来た。ヤリスは其れを承諾し、イリアの安否を尋ねた。イリアは毎日激しい拷問を受けている様だが、何一つ切り落とされてはいないと聞いて少し安心した。しかし、白椰夫人に会うのは四日後である。其れ迄無事でいてくれるのか…。ヤリスは気が気でならなかった。
 其れから四日経ちヤリスは衛峰の付き添いの下、白椰夫人の家に訪問する事になった。部屋に案内されたヤリスと衛峰は取り敢えず白椰夫人の前に跪いた。白椰夫人はジッとヤリスを見やる。
「其方がヤリスか。」
 何とも性格の悪そうな表情で白椰が言った。ヤリスは"はい"と答え額を床に擦り付け許しを乞うた。衛峰は其れを見やり周りをチロリと見やる。其処には白椰夫人と娘の白瑛、数十人の取り巻きの女、数人の侍女と五人の奴婢がいた。ヤリスは白瑛とは年が近い様に思えた。恐らく二十代後半か三十代前半である。
 白椰夫人は両手首と両足首を切り落とした奴婢に座っており、其の振る舞いは正に王后の様であった。
 白椰はヤリスに服を脱ぎ跪く様に言った。ヤリスは言われるがまま服を脱ぎ跪いた。そして又ヤリスは額を床に擦り付け許しを乞う。
「白椰様。どうか、どうかイリアをお許し下さい。我等は白椰様が求める全てを貢がせて頂きます。」
 ヤリスは必死に悲願した。
「良い…。では、ヤリス。我の足を舐めよ。」
 白椰がそう言うとヤリスは白椰の足を舐めた。其の姿を見やり女達はケラケラと笑った。
「足の指一本一本綺麗に舐めよ。」 
 白椰が言う。
「其れが終わったら足の裏を舐めろ。」
 其れを見やっている女が言った。ヤリスは逆らう事無く従った。ヤリスは白椰の両の足を綺麗に舐め終わると又額を床に擦り付けさせられた。
「舐め終わったのなら四つん這いになれ。」
 白椰が言った。ヤリスは言われるがまま四つん這いになる。
「良い…。ケツを此方に向け突き出せ。」
 更に白椰が言ったのでヤリスはお尻を白椰に向けお尻を突き出した。其の姿を見やり皆は腹を抱えて笑った。其れからササクレだった棒を持った侍女に何回もお尻を殴らせた。
 何回も何回も殴られお尻からは血が滲み出し真っ赤に腫れ上がって行った。其れを見やり白椰達は茶を飲みオヤツを食べた。ヤリスは拳を握りしめ必死に耐えた。其れを見かねた衛峰が流石に止めに入りヤリスに対しての罰は終わった。
「白椰様。どうか、イリアをお許し下さい。」
 ヤリスが許しを乞う。白椰はヤリスを四つん這いにさせその上に座り言った。
「許してやっても良い。その代わり今より五日の間、我の奴婢として仕えよ。」
 白椰の要求にヤリスは素直に従った。此れでイリアは解放される。ヤリスはそう思った。だから、白椰の要求には全て従った。
 家に入る時は服を脱ぎ、四つん這いになり歩かされた。手を使う事は許されず、首に縄を巻かれ犬として扱われたのだ。勿論、気に入らなければササクレだった棒で何回も殴られた。成王は日に日に増えて行く傷を見やり心配したがヤリスは鍛錬での傷だと嘘を言って誤魔化し続けた。
 其の様な日が五日続き約束の日が来ると白椰はヤリスを解放した。白椰が素直に解放した理由は婚礼の日が近づいていたからだ。
 白椰は最後の日にイリアの受け渡し場所をヤリスに告げた。ヤリスは白椰に跪き寛大な処置に感謝の気持ちを示した。
 次の日ヤリスと娘達は其の場所に向かった。衛峰は何か心配だったので一緒について行った。約束の場所に着くと既に荷車を持った男達が待っていた。男達はヤリス達を見やると荷車から何かを運びヤリス達の前に無造作に置いた。そして男達は何も言わず去って行った。ヤリスと娘達は無造作に置かれた其れを見やっている。
「ヤリス…。此れはなんじゃ ?」
 娘が問うた。
 娘達が見やる其れは肉の塊である。
「ヤリス…。イリアは何処じゃ ?」
 別の娘が更に問う。
 ヤリスと娘が見やる肉の塊は明らかに人である。だが、四股は切り落とされており、目はくり抜かれ、皮が剥がされていた。しかも、ありがたい事に其れは塩漬けにされていたのだ。
「ヤリス…。すまぬが我は許せんじゃかよ。」
「分かっておる。」
 塩漬けにされたイリアを見やりヤリスが言った。
「ま、待て…。」
 慌てて衛峰が言った。
「衛峰殿…。すまぬが全て終わりじゃ。」
 ヤリスが言う。
「駄目だ…。一人の女の為に全てを失う気か ?」
「一人の女… ? 約束守らず、仲間を殺した者を何故許さねばならぬ。」
「其方らの為だ。今は我慢しろ。」
「出来ぬ。」
 と、ヤリスと娘達はテクテクと歩き出す。
「聞け ! 必ず其の時を与えてやる。だから、今は待て。」
「其の時 ?」
 ヤリスは後手に振り返り問うた。
「そうだ…。其の為にはお前達の力が必要だ。」
「我等の力 ?」
「あぁぁぁ…。その代わり約束は必ず守る。」
 衛峰は強い眼差しで言った。ヤリス達は少し議論した後、其の話に乗る事にした。その後、イリアの骸を山に運び獣の餌とした。此れは娘達の風習である。
 其の後、成王とヤリスの婚礼の儀は無事に行われた。ヤリスは満遍の笑みを浮かべ成王との契りを喜んでいる様に見せた。其の裏で衛峰の計らいで数人の娘が華夏族になった。

 其れから三年が経った…。

 相変わらず、朝貢は続き、渡航組の娘達が周国の文化、文明を学びに来ていた。ムサキも周国の文化や文明を学ぶ為に短期間ではあるが訪問した。其の時、久しぶりにヤリスはムサキと会った。ヤリスはムサキを色々な場所に案内してやった。其の時ヤリスは言った。近く、大きな動きがあると…。ヤリスの言う通り暫くして大将軍が謀反の疑いで捕らえられたのだ。
 大将軍は勿論無実を訴えた。成王は此れに胸を痛めて悲しんだが、ヤリスは其れを嗜め処刑するよう進言した。此のヤリスの進言を成王は疑う事無く大将軍を処刑する事に決めた。
 ヤリスは三年の月日をかけ成王の絶大なる信用を勝ち得ていたのだ。勿論、此れに至るには衛峰の人力があったればこそである。
 大将軍の処刑が決まり困ったのは白椰夫人と其の子供である。謀反の罪は家族断絶が基本だからだ。白椰はゲンナリと肩を落とし来るべき日を待った。だが、矢張り死にたく無い。だから、何とか助かる道を模索するが、助けてくれる人は誰もいない。多くいた取り巻きも巻き添えを食いたくないから誰一人近づかない。そんな、白椰を見やり侍女が言った。
「今なら山を越え秦の国に逃げる事が出来ます。」
「秦の国 ? 馬鹿を言うな。あそこは…。」
「いえ、あそこは常に周国の隙を狙っている国。周国の情報を持っていけば、必ず迎えてくれましょう。」
「フフフ…。我に周国を裏切れと ?」
「裏切らねば処刑されてしまいます。」
 と、侍女が言うと白椰は確かにそうだと侍女に荷物を纏めさせ、子供を連れてソソクサと逃げ出した。
 其の翌日、大将軍が処刑された。白椰は夫が処刑された事も知らないままひたすら山道を進んだ。テクテク、テクテクと進む。二人の子供と三人の侍女を連れテクテク進む。進んで、進んだ先に数人の女が道を塞いでいた。
「其処を退かれよ。」
 白椰が言った。
「これこれ…。連れぬ事を言うてはいけんじゃかよ。」
 と、群れの中からヤリスが姿を現し言った。
「ヤ、ヤリス…。既に追ってが来ていたか。」
 と、白椰は観念した。
「此処に兵はおらぬ。」
「いない ?」 
「じゃよ…。」
 と、言うヤリスを見やり白椰はイリアの事を思い出した。
「あ〜。我に辱めを受けた仕返しをしに来たか。」
「辱め ?」
「忘れたか ? 裸になり跪いたではないか。」
「フフフ…。文化の違いじゃな。裸になり、其方に跪こうと我等は其れを恥とは思わぬ。じゃが、仲間の仇を打たぬは恥。我等は必ず仇を打ちよる。」
 と、言うと侍女達が白瑛と息子の白鹿の喉に刃を突きつけた。白椰は其れを見やり、ヤリスを見やる。
「ま、真逆…。我等を嵌めたのか。」
「じゃよ…。其方等を罪人にしよるのに、三年も掛かりよったじゃかよ。」
 そう言うとヤリスは白椰を押さえ付けホッペをグッと押さえ無理やり口を開けさせた。
「な、何をする…。殺したいならサッサと殺せ…。どの道死刑だ。」
「じゃな…。其の内殺してやりよる。」
 と、娘が白椰の舌を掴み出し、其のまま切り落とした。白椰は血を噴き出させながらもがき苦しんだ。
「白椰。其方はイリアを五日苦しめ殺しよった。じゃが、我等は殺さず苦しめる技を心得ておる。」
 優しく、そしてとても冷たい口調でヤリスは言った。
 この日より九百日、白椰と白瑛は人が考えうるありとあらゆる苦痛を与えられ、九百一日目に死ぬ事を許された。
 白椰と白瑛が死ぬ前日…。ヤリスは久しぶりに集落に帰郷した。二人の最後を見やる為である。帰郷には衛峰と百人の兵、そして三百の侍女が付き添った。この事からもわかる様にヤリスは周国にて絶大な力を持っていた。
 衛峰は白椰と白瑛がどうなったのか気になっていたので、今回の帰郷に付いて行く事を願い出た。だが、既に肉の塊になっていた白椰はヤリスと衛峰を見やっても何の反応もし無かった。
「白椰…。やっとじゃ。やっと死ねよる。死ねる気分はどうじゃ ?」
 ヤリスが問うと白椰はポロリと涙を流した。衛峰は其の余りにも変わり果てた姿に思わず目を逸らした。 
 其の姿は既に全身の皮を剥がされ、四股は無い。だが、何故か目はあった。
 衛峰は此の様な姿は既に見慣れているはずである。だが、此れは更に酷い物である。確かに既に四股は無いが一部の骨が残っている。肩から、二の腕から骨が…。太腿からも骨が剥き出しになっている。
 初め衛峰は此れはどう言う事なのか分からなかった。が、血がこべりついた貝殻を見やり理解した。娘達は白椰の部位を切り落としていたのでは無く…。

 九百日かけ肉を削ぎ続けていたのだ。

「既に話せぬか。じゃが…。簡単には死ねんじゃかよ。最後迄苦しめてやりよる。」
 と、ヤリスは白椰の腹を裂き腸を引きずり出した。そして、引きずり出した腸を何回も何回も殴打した。悲痛なうめき声が響き渡る。白椰は既に体を動かす事も出来なかったのでひたすら苦しむだけであった。其れを見やり衛峰は思わずウゲッと吐いた。
 そして次の日…。
 ヤリスは白椰の体から順番通りに臓器を取り出した。順番通りに臓器を通り出したのは、間違えた臓器を取り出すと其の時点で死んでしまうからである。

 一瞬でも長く…。

 もがき、苦しませる為に…。

 である。

 ヤリス達の願い通り白椰と白瑛は最後の瞬間が来る其の時まで苦しみもがきそして絶命した。

 と、伊都瀬(いとせ)が此処まで話すと麃煎(ひょうせん)は少し気持ち悪くなったと話を中断してもらった。
「なんじゃ…。此処からが面白いんじゃぞ。」
「否、面白く無い…。」
 と、麃煎(ひょうせん)は口を押さえた。
「じゃかぁ…。」
「しかし、周の時代に其の様な話があったとは驚きだな。」
「何を言うておる。其方の国の歴史じゃかよ。」
「こらこら、儂が産まれた時は既に戦の真っ只中だぞ。歴史を学ぶ暇など無いさ。」
「確かにそうじゃな…。」
「所で人を殺さず苦しめる技は伊都瀬(いとせ)殿達も知っているのか ?」
「残念じゃが…。既に失われておる。周国を知り我等は男を殺さん様になりよったからの…。じゃから、実験台がおらん様になりよったんじゃ。」
「伊都瀬(いとせ)殿達が殺さんでも争えば人は死ぬ。」
「じゃから無駄に殺さん様にしよったんじゃ。」
 と、伊都瀬(いとせ)が言うと麃煎(ひょうせん)は納得した。
「其れで、その後はどうなったんだ ?」
「じゃよ…。此処からが面白いんじゃ。ヤリスと華夏族になりすましよった娘達が破茶滅茶作戦を決行しよったんじゃ。」
 と、伊都瀬(いとせ)は何やら楽しそうに話し聞かせた。
 衛峰のお陰で華夏族になりすます方法を知った娘達は、以降多くの娘を華夏族になりすまさせた。そして、ヤリスと共に周国の力を削ぐ為に頑張ったのだそうだ。
 だが、ヤリスは知っていた。成王が死ねば自分の力も又失せるのだと。だから、今のうちにと破茶滅茶な事をやりまくったのだ。
 その甲斐があったのか成王の死後周国は一気に衰退し始めた。そして、其れとは逆に名も無い島国は新たな力と武器を手に入れる事により国を作り始めた。
 最早衰退した周国に朝貢する集落は無くなり、周国は海を渡って攻めいる力も無く。更に百年が経つ頃には完全に関係は途絶えたのである。
「周国も終わりじゃか…。」
 娘が言った。
「かもじゃ…。じゃが、又息を吹き返しよるかも知れよらん。」
「じゃよ…。今のうちに消し去りよるか。」
「じゃな…。」
 と、華夏族になりすました娘達は名も無き島に関する全ての竹簡を焼き払い、名も無き島に関する内容を刻んだ青銅器を全て溶かしてしまった。

 だが、ヤリスの時代から時が流れ過ぎていた。

 全ての竹簡を焼き払ったつもりが少し残っていたのだ。

「まったく…。お陰で大惨事じゃかよ。」
 伊都瀬(いとせ)が言った。其れを聞き、麃煎(ひょうせん)は抜けている所はしっかり受け継いでいるのだと思った。

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