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駅の南側

人が飽和している。店が立ち並ぶ。喧騒と雑踏で耳が埋まる。汚らしい。渋谷を説明しろ、と言われたらここらを和らげたり尖らせたりして教えるだろう。頭空っぽにして膨大な情報を左から右に流しながら散策するのが"渋谷"なんだろう、と街ソムリエみたいな顔して決めつけている。

先日渋谷駅の南側を少しだけだが散歩する機会があった。僕がこの街に来る時は大抵CDショップのオタクをしている時なので中々そちら側に足を向けることはなかった。

日中の気温も低く、夜はとりわけ涼しかった。オフィスビルの間をすり抜けて吹く風に秋がやってくる寂しさを覚える。僕らの足音だけが周期的に聞こえてくる道はなんだかひたすら横に広がっているように思えてくる。古びた歩道橋の下を走る電車はわずかな街灯をも自身に乗せることが出来るほどだった。

僕が身を溶かしたかった「東京」像を思い出した。僕の憧れは"君の名は。"が原型を為している、というよりかもうそのものである。経済を武装しただけの街じゃなく、どこかアンバランスを感じるような姿をした街が好きなんだろうと思う。「下町みたいなお店の向いにビル」「沿線沿いの茂みに囲まれたマンション」「頭上に航空障害灯、足元はくすんだアスファルト」…… こんな東京をもっと見つけてみたいと、自宅のベッドで書き綴る。

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