栃木でつくる演劇WIP版イト2019の動画公開に関して

2019年に弊劇団メンバー・常盤美妃プロデュースで上演した作品
『栃木でつくる演劇WIP版イト2019』が期間限定で一般公開されました。


この作品は、東日本大震災のことを2038年問題に翻案し描いたSF青春群像劇です。

メンバーの常盤は栃木出身の俳優で、2011年当時、まだ学生だった彼女は日常が一瞬にして変化していく体験・恐怖を味わったそうです。倉垣もまた阪神淡路大震災の被害者であるため、彼女の心情は理解出来るものでした。


栃木は地震被害だけをみれば福島よりも大きなダメージを受けた地域もあるとの事ですがメディアではそのことは殆ど触れられません。
毎年この時期になると原発・津波と、よりキャッチーでよりスキャンダラスな福島の報道ばかりとなります。


2017年にこの作品を栃木で上演することになった時、私はそのことを知らず、栃木の俳優たちとの稽古中のディスカッションでその事を知りました。東京にいて受けていた情報はあくまで一部であり、すでに偏向的なものであったのです。
その事実を受けて脚本を修正し、その後の2019版に繋がる原型が出来ました。

常盤がこの作品を再演したい、栃木で上演し、栃木の俳優たちと一緒にやりたい、そして作品を通じてあの日を忘れないこと。
今の幸せや日常は、沢山の人の努力や犠牲の上にあるということを忘れたくないという事。その強い意思が、作品を動かし、クラウドファンディングを通じた栃木の学生・演劇団体へのDVD無償配布などに繋がっていきました。


今回の動画公開も、新型肺炎の影響で活動自粛・休校の要請を受けて、緊張感高まる状況に対し、何かSAIで出来ないかというところから決まったものでした。

演劇やインディペンデントな活動を続ける表現者を取り巻く、現在の日本のムードは好ましくありません。演劇や芸術の社会的な認知が驚くほど低いことも手伝い、メディアではバッシングの材料、人々のサンドバッグとして扱われています。とはいえ現状、どういう風にしてこの流れを変えて行けるかというと、外に向けた意思表示と、普段と変わらない行動を続ける以外ないなというのが、僕の考えです。

僕は演劇が人を苦しめるものになって欲しくないと考えている人間なので、この作品を通じて「どんな人でも、どこでも、誰とでも、台本ひとつあれば演じることが出来るぞ、楽しいぞ」というメッセージを投げたいと思います。

演じることは想像力を養います。自分と違う立場の人間のことを考えたりするからです。自分のことや自分の人生のことだけではなく、役を通じて役を生きる事を通じて人のことを考えることが出来る。それが想像力の育成につながっていくのです。

プロだとか、アマチュアだとか、演じる人だとか観る人だとかそういった分け隔てなく、全ての人が平等になるようなレギュレーションを持つ作品があってもいいなと思うのです。
実際この作品は三日で作られていますし、SAIのメンバーである渋谷は俳優ではありません。それでも、こういった作品づくりは出来るのですから、もっと自由でもっと柔軟に「演劇」というツールを使っていくことが大切なのではないでしょうか。今の時代は、あまりに想像力が欠如した言動が飛び交い苦しくなります。

動画は3/31までの期間限定公開となっています。まずは一度、ご覧いただけると嬉しく思います。


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