見出し画像

鬼に成るのは一体誰か

鬼滅の刃のマンガ最終巻が発売された。

本誌で終了したのが春頃だったので、年内に畳み掛けるようにコミックスが発売され、ブームを加速させた感はある。
私がこのマンガを読みはじめたのは遅く、本誌の黒死牟戦辺りからだ。なんだかよく分からんが勢いと執念が凄まじいマンガだな・・・面白そうだぞとなり、そこから読むようになった。アニメ版がちょうどやっててそれも終盤だったので見始めた。そしたら完全に落とされた感はあった。

内容に関しては方々で感想や意見があるし、今後も引き続き情報が出て来るだろうから、考察とかそう言ったものはここでは書かない。いや結果的に考察になってしまった感はあるがいかに面白く魅力的な作品であったかという話なのだ。

半年、この作品に没頭した時に何が面白かったのか私の主観を述べるだけの今日はブログです。

「努力・友情・勝利」のジャンプの王道物語であったこと。

自分たちの劇団・舞台芸術創造機関SAIが一ヶ月のロングラン公演に挑んでいた時にこの作品に出会い、劇団としても15年目の大戦真っ最中であったことが、この作品の波長とリンクした。
無惨を追い詰める鬼殺隊の勇姿に励まされていったし、演劇はチームプレイでもあるからこそ、単騎大活躍ではない鬼滅の戦闘シーンは読んでて共感できた(もれなく皆ボロボロになる。)
作品のベースはジャンプの王道である「努力・友情・勝利」である。この黄金率を徹底していたから世代を超えて評価されたところはあるのではないだろうか。ジャンプ作品が支持される根底にはこの「努力・友情・勝利」があり、日本人の琴線に触れて来る。

「鬼もまた人であったこと。圧倒的なリソースを誇る鬼に負けない、鬼にならない物語。」

これは脳科学者の茂木健一郎さんの鬼滅の刃感想にもあった話で、不老不死であることは無限のリソースを持っていることに等しい。現代に置き換えるとお金や地位といったものになるだろう。競争や成長の哲学のもと、圧倒的なリソースで圧倒的強者となること=鬼と同義に捉えると、なぜ鬼滅の刃が現代日本で(日本だけではないが)ヒットしたのか理由が見えてくるというものだった。
鬼のボス・無惨がブラック企業のパワハラ社長と喩えられ、鬼の組織のブラックさをネタにすることが連載中あったが、それ自体が社会と合い通ずる部分という話である。どこにでも無惨は居て誰でも鬼になる可能性があることを示唆していると考えられる。
あなたの周りの無惨様。そんな話が出来る程度には世の中に存在していた〝人の心〟を捨てたものたち(捨てたわけではないのだけど)という喩え。そしてそういう存在が淘汰されていく物語ではある。
しかし鬼側に共感したり鬼に好意的な気持ちを抱く人もいると思う。私も結構そうだ。
作品としては主人公側の鬼殺隊について描写されるしそれがメインなのだけど、鬼ひとりに対して複数の隊士で挑んでいく姿は、ふと冷静になるとTwitterやSNSの炎上の構図とよく似てる。
インフルエンサーに対しアンチコメする状況が通じるなと思う。
時期的にはコロナ対策の何が成否か不明な中、何をやっても叩かれる安倍首相や、東京都の小池都知事と国民・都民の関係も相似して見えた。それぐらいどこにでもあり得る話だなと感じたのである。(組織の長という話だと童磨なんかが似てくるか。)
批判や非難についてはするのが良くないという話ではなく、脊髄反射的なことも多い。この辺りは当事者意識がどこにあるのかの話なのでこれだけで話が続くのでこの項は〆る。

「優しさと感謝の気持ち。諦めない心について。」
炭治郎という主人公がとにかく人間が出来ていたことが大きい。勿論歳相応の弱さはあるものの、それも含めて仲間たちと共に成長していく姿が多くの人の心に響いたのではないだろうか。ありがとうもごめんも言えない人がすごく多くなってる。大人(というか、老人)でも言えない。ぶつかって当たり前、押し通って当たり前。子供たちはそういう世界を見ながら成長している。そんな中で、人に対してとても気持ちの良い炭治郎の姿は、真似したくなるのではないだろうか。快不快を子供は敏感に察する。今とても嫌な空気だなと感じても、それをどうしたら変えられるのだろうかなんて当然わからない。そんな時に炭治郎のように素直に正直になれることで変えられるのかもしれないと、何かヒントになっていたりするのではないかと思うのだ(善逸や猪之助でもいいのだけど、皆素直なのだ。)
そして、諦めないこと。希望を持つこともこの作品は強いメッセージとして発信している。それは世代問わずに、共感する部分はあるように思う。

【最終巻を読んで】
この記事を書き始めた時には最終巻がまだ出てなかった。本誌連載から追加ページがあると言うことでそれを楽しみに読んでみたが、これが素晴らしかった。最終回の追加は前後に大きくページが増えている。これにより、本誌連載に感じたやや唐突な印象もなく、より重厚な読後感を与えてくれる形になっていた。
世間的にはバトルシーンをはじめ一部残酷表現があるから教育上良くないという声もあるが、昔のアニメや漫画はこの比ではなかったと思う。そしてその凄惨さを上回る道徳的寓話性が、この作品をより魅力的にしているように思うのだ。手塚作品も割とグロかったりエロかったりあるようにという話。まあまだしばらくはお祭りは続くと思うし、未見・未読の方は一度触れてみてほしい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?