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【小説】素敵なしゅうまつ

ありがちなしゅうまつの話

『週末は晴れの予報です。暖かい気候となり、春の訪れを感じられるでしょう。週明けからは……………』


 広場付近のビルに設置された巨大モニターから、穏やかに微笑んで天気予報を読み上げるアナウンサーの声が響く。広場には多くの屋台が立ち並び、地域住民も外から来た人たちもごちゃまぜに、大勢の人が集まっていた。

まだ平日だというのに、昼間からそこは活気にあふれていた。そんな地上に対して、青いビル群からのぞく空は真っ赤に燃え上がっている。本来なら青空が広がっているはずの時間だが、赤や紫に形を崩す空には、時折星がたくさん流れていく。美しさの中に恐ろしさをはらんだその光景は、誰が見ても『世界の終わり』という言葉を思い浮かべるものだった。

 その通り、この星は終末を迎えている。

恐ろしい話だ。星が寿命を迎えたとか。人類は何も…、いや、まあ…何もしなかったわけではない。ただ、人類の行動などにかかわらず、星は終わりを迎えるらしい。到底人類の力は宇宙に及ばなかったのかもしれない。もちろん、移住計画なんかも話題には出た。しかし、この星に住む全人類を完璧に移住させるなんて難しい話だ。それに受け入れ先も問題で…僕みたいな一般人がどうにかできることでもないのだが。

 僕は今日もデリバリーのバイトをしている。お店からご飯を受け取って、依頼者に運ぶ…まあよくあるあれだ。しかし…さっきから依頼者が見つからない。最近多いのだ、屋外からデリバリーを依頼する利用者が。まあ別に利用したいという気持ちを否定するわけではないが、屋外で待たれると相手の正確な場所が分からない。特にこの広場のように人が混雑しているような場所で…。
この星が終末を迎えているというのに、本当にのんきな話だ。空は今にも崩れ落ちそうに見えるのに、僕は端末片手に他人の食べ物を運んでいる。どうしたって人類の無力さを実感してしまう。


 実際は、この星が終末を迎えてからもう100年以上経っている。本来の空の色なんてデータ上でしか見たことがないのだ。
星の時間はものすごく長い。もちろん星の寿命が観測されたときは大パニックだったそうだが、その後研究がすすめられ、実際にこの星に生命が住めなくなるのは非常に遠い未来だということが発表された。その時も『陰謀だ』とか『信じられない』とか、混乱は収まらなかったらしいが…100年も経てば人類は慣れてしまうといういい例だ。今じゃもう僕たちのように本来の空の色を知らない世代がほとんどだった。そのうえ、僕たちの世代も星の最期を見る前に死ぬ。結末はまだまだ先なのに、目に見える変化が起こるなんて星はせっかちだと思った。まあ、人類の時間が短すぎるだけなのだろう。

 そんなこんなで僕たちは、今もこの真っ赤な空の下で日常生活を送っている。現在、この星はお手軽に終末気分が味わえるとかで有名な観光地にまでなってしまった。『終末惑星』とか言って…
そんな名前の星ではないが、それでも地元が盛り上がることは良いことだと思っている。この星は今観光産業で成り立っていると言ってもいい。この広場も多種多様な星から来た人たちが混在している。
しかし言葉や文化が違うため、トラブルもなくならない。今も依頼者を見つけられないし…やっぱり屋外から注文するなんて…まあそんなこと、あまり大きい声では言えないが。

 過去に比べれば宇宙船の一般利用が容易になったが、この星が本当の最期を迎えるとき、どうなっているかはわからない。この星の全人類を異星に移動…おそらく時間をかければできるのだろうが、人口が増え続けているこの星からの移住をほかの星が受け入れてくれるのか…。本当の終末に面した時、移住の手続きをする人で大混乱になるかもしれないが、現代を生きている人たちには関係ない。未来の子孫のために今から移住、が一番良い形なのだろうが、今こうして観光産業で豊かになってきた状態で実際に行動する人は少数だろう。結局僕たちは最期までこの星に振り回され続けるのかもしれない。

 でもそれも、全部僕たちの………僕の、エゴなんだろうな。
遠くから呼び止められて振り返る。予約票を画面に出した端末を振って、僕に呼びかける家族。依頼者だ。運んできた料理を出して渡す。ピクニックか何かに来たのだろう。家族はこの星の人たちだった。…まあ、いいけど。
笑顔の子供たちを見て、僕は帰ったらとりあえず就活情報サイトでも見ようと思った。

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