「劇場グラフィー」はじめました。②


あの日、幕の袖から見た「光」が、ずっと忘れられません。

それまで、「きれいだな」くらいにしか思っていなかった劇場の光が、すごく特別な、私自身の心も、人生も照らしてくれるような、そんな希望の光に見えました。

何を大げさなことを言っているのかと、引かれてしまうかもしれませんが、本当に、その時にはそう感じられたのです。

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何とも言葉にし難いのですが、「私って此処に立っていいのだろうか」という心境でした。あんなに舞台の照明が、キラキラと輝いて見えたことはありません。

23歳になって、演劇にも就職にも挫けて全てを失った頃に、ご縁あって、再び初心で舞台に向き合ってみようと参加した公演でした。

中学生から部活で演劇を始めて、いつしか当たり前に立ってしまっていた板の上が、とても眩しくて、恐れ多くて、飛び込みたいけど飛び込みたくない、そんな特別な場所なのだということに気付かされました。

劇場の光は、人工的な光かもしれません。

しかし、「劇場」という場所にあるからこそ、自然光にも負けない特別な輝きを放ちます。ライブ会場などにも、同じことが言えるかもしれません。

ステージは、何かを表現したい、自分を見てもらいたい、そんな目的を持った人達が自分自身と、他人と、そして社会と向き合い、葛藤した末に「それでもやるのだ」と、覚悟を決めて立つ場所です。

自分をきれいに見せたい、良い人だと思われたい、好かれたい。そういった自意識を捨てて、丸裸の心で表現に没頭できた時、表現者は驚くほどの輝きを放ちます。

観客の前で化けて、心を掴んだ役者を今までに何度も見てきましたし、私自身、人に「良かった」と言われた時は、きっとそういう状態になれていたのだと思います。

人の写真を撮ってみてわかりましたが、被写体は、カメラを意識して表情を作っている時よりも、話をしたり、何かに夢中になっている時の方が、何倍も魅力的な顔をしています。

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model:桜羽萌子(@tktkpengin)

自分も普段は役者として活動をしているので、宣材写真などを撮る機会があるのですが、その度にどうしたらきれいに写れるだろうと、一生懸命目を開いたり、顎を引いたりしていたものです。いつもカメラマンの方に、いまいちな反応をされていた理由が、撮る側に立ってよく理解できました。

「人にどう見られているか」という意識にとらわれず、心のままに躍動する人の姿は、きっと一番に魅力的なのでしょう。またいつか舞台でも、そんな心奪われる光景に立ち会いたいです。


役者は人気商売ですから、客に好かれるために意図的に可愛さだとか、面白さだとかを追求してしまいがちです。

しかし、中身のない闇雲な頑張りは人の心に届きませんし、いずれ自分自身も疲弊してしまいます。これは私自身が、役者という職業を通して実感したことです。

表現活動を通して、誰かの心を動かしたい、社会に影響を与えたいのなら、方法が何であれ、自分の本心に従い、明確な目的意識と共に歩んでいくことが重要なのではないかと、私は考えました。

ここでようやく、この記事の本題に入るのですが、

なぜ一役者であった自分が、いま舞台に立つことよりも、「劇場で写真を撮る」ことを選んだかと言いますと、自分なりに出来ることを考えた結果、それが心から「必要なこと」であり、「やりたいこと」だと思えたからです。

先にもお話した通り、劇場は私の中で「特別な場所」なので、いつかこの場所に帰るために、劇場の維持を少しでも助けられる取り組みをしたいと考えました。

コロナウイルスの流行による影響から、オンライン演劇なども盛んになりつつありますが、やはり生の舞台を、空気を共有できる場所を求める声もあります。

劇場ごとに環境を整えてくださっているおかげで、無観客公演という手段も可能にはなっていますが、演劇の公演を行うこと自体がそもそも大掛かりな上に、感染症のリスクと戦いながら準備を行うのはハードルが高く、どこでも毎週のように公演が行われていたような、かつての活気を取り戻すのにはまだ少し時間がかかるように思います。

私も、舞台で演劇をすることを勿論諦めてはいません。

しかし、こうした状況の中で、ふらりと寄り道をするついでに、劇場を有効に使える手段として、「劇場で写真撮影を楽しむ」という遊びを提案してみました。

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これを始めるにあたって、初めて照明をまともに扱ったのですが、役者がスタッフワークに触れられる機会はあまりないので、そういった面でも非常に意義があると感じています。

まだまだ手探りではありますが、これまでの常識が覆されてしまった今こそチャンスだととらえ、自由にのびのび、創作と発信を楽しみたいです。

そんな#劇場グラフィーですが、一個人で始めた取り組みのため、今後の活動経費を募るべく、お写真の販売を始めてみることにしました。

あくまで劇場支援が目的なので、身銭を切ることに抵抗はないのですが、実際にやってみたら本当に楽しくて、早く次が撮りたくて仕方がないのです。

こんな時でもお客様頼りであることに心苦しさを感じますが、活動を軌道に乗せることで少しずつ、経済を回していけたらと思っておりますので、ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

写真というのは不思議なもので、「今だ!」と思った時にはもう、一番いい瞬間を逃してしまったりします。

そうした瞬間をもっと上手に収めて、沢山見てもらいたいのですが、私のカメラの腕が未熟で本当にもどかしいです。役者と劇場の魅力を引き出せるよう、精進せねばなりませんね。

しかし、急ごしらえでセットした照明の灯りや装置にも、溶け込める力はさすが、表現者です。素材の良さのおかげで拙いながらも、素敵なお写真が撮れたと思いますので、是非一度、ご覧いただけましたら幸いです。

【通販ページはこちら】

https://gekijyography.booth.pm/

自分で企画して、準備して、撮影までを行うのはちょっぴり大変なので、この記事を通して、技術やアイデアを提供してくださる方にも出会えたら、とても嬉しいです。

良かったら、Twitterでお気軽に絡んでください。

https://twitter.com/kanikama444

それではまた、そのうちに。

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