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欠けたカラダがかえってきた。

左の首のあたりから
右の腰を頂点に曲線を描いて
左の鼠蹊部まで。

左側の腹が
三日月型に
ごっそり欠けていた。

自分の人生の過去の20年近くを
まるではじめからなかったかのように
扱おうとしていたから。

だから欠けていたのだと
やっと
気がついた。

欠けたカラダでは
力がでないし
前に進めなかった。

欠けたカラダのまま
道の先をみようとすると
強い力で背中を引っ張られた。

たしかに
熱く強い力で引っ張られるのに
振り向いても何もない。

仕方がないので
前に進むのをあきらめて
何もないその場所に
目をこらして
耳を澄まして
夢の中では旅をして
すこしずつみえてきた。

わたしが20年近く
人生の中心に置いて
エネルギーを注いできた
バンド活動のこと
生活のこと

それを
まるで最初からなかったかのように扱わないと、
誰かを傷つけてしまう気がしていた。

いや違う。

布を被った人たちに磔にされて
雷が落ちて
罰を受ける気がしていたのだ。
そんな妄想に取り憑かれていたような気がする。

そのとき飼っていた猫は
確かにこの世に生きて
ニャアと鳴いていたのだ。
確かにそこにいたのに
まるで最初からいなかったかのように
扱っていた。

猫は何も悪くないのに。
確かにそこにいたのに。

お葬式もせず
弔いもないまま
放置されて
わたしの中で腐っていたのだ。

わたしのカラダは
腐って欠けていた。

やっと
それに気がついて
弔いをはじめた。

森の中で耳をすまし
陸と海の間を彷徨い
手足を振りまわして
般若心経を唱えて
よく泣いた。

亡き父とカニが
手を握ってくれていた。

そうして
すこしずつ
すこしずつ
欠けたカラダが
戻ってきたのだ。

欠けたカラダでは
力もでないし
前を向けなかった。

もうそろそろ
まぁるい身体で
前を向けそう。

桑の葉の芽吹きをみたときに
そろそろ弔いが終わるとわかった。

カニも冬眠から覚める春。

欠けたカラダ
おかえり。

きみはなんて
愛おしい。
一生大事にするよ。

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