はじめての海水浴

 フランス文学のバカンスのシーンに心惹かれ、休日に海水浴に出かけてみる。原付で島を横断し、20分くらいかけて、砂浜のビーチへと赴く。この場所に砂浜を、作るために、香川から砂を取り寄せたらしい。これらの砂を運搬した船は何を思って瀬戸内海を抜けてきたのだろう。
 記憶にある限り、海水浴なんてした覚えがない。ビーチに到着すると、家族連れが2,3組、老夫婦が1組、ステッカーを貼りまくったパソコンで内職をする若い監視員と、少し遠くにスピッツの懐かしい弾き語りをする若い女性が一人。悪くないところだと思う。
 一人だと何をしていいか分からないけれど、とりあえず海の中へと歩みを進める。冷たいけれど、体が拒否するほどではない。紫外線を遮るものがない空間で、心地よい。海に浮かんでしまえば、案外やることがなかったけれど、それでよかった。これまでずっと、海に遊びにいく、という行為に、抵抗があったのだけれど、自分にとっての海への抵抗は、海そのものではなく、海に植え付けられた、若い人たちのキラキラしたイメージに対するものだと気がつく。一人であてもなくただ海に放り出される海水浴は、そう悪くはなかった。
 泳ぎ始めて5分くらいで、クラゲに刺されて、撤退した。海なんてそんなものである。

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