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つま先で感じる満潮

 朝、海へ散歩に出かける。海辺に腰を下ろして、そこで1,2時間本を読むのが最近のマイブームになっています。歩いていると漂ってくる潮の香りや、少し強い海風など、感じ取れる自然を全部無視して、本に集中することで、本を閉じ終わったときにふと感じる海がとても心地よく、海辺に繰り出しては我を捨てて読書をするのが、休みの日の過ごし方になりつつあります。
 その日は、漁港で買い物をして帰りたかったので、水揚げが行われる場所のすぐそばに腰をかけて、船が戻るのを待ちながら本を読むことにしました。コンクリートで整備された海岸に腰を掛けると、足の先が海から5cmくらい離れており、これなら濡れないと確認し、本を開き始めました。
 普段漁船が戻ってくる時間を考えれば、30分くらい読んでいれば水揚げが始まるだろうと思っていましたが、その日は船が戻る気配もなく、3時間くらいは経過したでしょうか。ふとつま先がじんわりと湿っていることに気が付きます。特に場所や体勢を変えた覚えもなかったので、不思議に思いましたが、すぐに潮が満ちてきたのだと理解に及びました。
 理科の授業で、月の引力か何かで潮の満ち引きが発生するとかなんだとかといった事象が存在することは、知識として知ってはいましたし、なんとなく時間帯によって海の水位が変化しているなあと感じることは何度かありましたが、数時間かけて、実際に潮の満ち引きという事象を体感したのはこれが初めてで、実感のある学びに少し興奮を覚えました。
 もし時代が違えば、潮の満ち引きを発見したのは私かもしれない、という妄想をしながら、なかなか戻ってこない漁船を諦め、冷えた足で帰路へと向かいました。後で聞きましたが、この日は漁がなかったようです。

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