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匿名アカウント「Dr.ナイフ」の研究(上)~朝日新聞が育てた"嘘"拡散器

はじめに

小論は、x(旧ツイッター)上で不正確でたらめな情報を拡散させ続けている匿名アカウント「Dr.ナイフ」(@knife900)について分析するのが狙いです。「Dr.ナイフ」(@knife900)は9万人を超えるフォロワーがいるx界の大物ですが、コミュニティーノートでツイート内容の不正確でたらめさが日常的に指摘されることで有名です。なお、小論は表現の自由への反対を表明するものではありません。


匿名アカウントはずるい

①批判されない

「Dr.ナイフ」(@knife900)に限らずですが、匿名アカウントはほとんど批判対象になったことがありません。しかし9万人を超えるフォロワーがいるアカウントはすでに一つの巨大媒体であり、フェイクを垂れ流すのは無責任です。匿名であってもその責任を逃れられない。これが、小論の問題意識です。

政治家やタレントなどの有名人のアカウントは、不正確だったり不穏当な発言をすれば、炎上することはしばしばあります。炎上したこと自体が報道されもします。このようにして、SNS上の言論にも、一定のチェック&バランスが機能しています。

その埒外に置かれているのが、匿名アカウントです。匿名アカウントは、滅多に炎上しません。仮に炎上しても、それが報道されることはありません。

なぜ扱いが違うのか。

有名人のツイートが批判・炎上・報道されるのは、影響力が大きいうえに、その人の思想・信条や人格がある程度、事前に共有されているからです。さらに、訂正や謝罪や辞任、または無視や言い訳や開き直りなど、さまざまに展開される責任の取り方を見て、どういう対処が正しいのかの世間知を学ぶ場ともなっているわけです。

多くのネット民は、有名人に羨望や嫉妬を感じていますから、火事場見物的な観衆がついて報道価値があがる。そういう側面もあると思います。

ところが、匿名アカウントは顔が見えない。どんな思想や人格の持ち主かもわからない。そういう相手を批判するのは、海に向かって石を投げているようで空しいのです。

ディスカウントディスるができない

匿名アカウントはある意味で、顕名アカウントよりも影響力があります。それは、思想・信条が明らかではない分、読み手がツイート内容をディスカウントできないからです。

例えばそれが●◎新聞の記者や、◎●党の議員のツイートなら、頭の中で、「●◎新聞」「◎●党」という風にタグをつけて読むことができます。そして、「まあ●◎新聞なら、こうなるよな」「まだ◎●党はこんなこといっているのか」などと、ツイート内容をディスカウントして受け止めます。

しかし、匿名アカウントはタグがつかない。そのアカウントをしばらく見ていれば、ある程度の思想・信条はわかりますが、それでも「◎●新聞」「●◎党」という属性ほどの強力なタグはつきません。読み手は無防備な状態に置かれるのです。だから危ない。(お好みで新聞と政党名はどうぞ)

③責任を取らない

以上あげたような構造の中で巨大なアカウントとして育ってきたのが、「Dr.ナイフ」(@knife900)です。

「Dr.ナイフ」(@knife900)は、批判されない安全地帯から、不正確でたらめなツイートを続けて、9万人ものフォロワーを獲得しました。後述しますが、これだけの数のフォロワーを獲得したのは、朝日新聞の影響が大きかった。しかし、それを差し引いても、文字通りナイフのような切れ味のいいツイートでバサバサと権力批判を繰り返すことができたのは、どんな、不正確でたらめなことを書いても責任を問われないという構造の故です。

不正確でたらめと知ったかぶりだらけのツイート

その、不正確でたらめぶりは、コミュニティーノートができてからは、可視化されるようになりました。コミュニティーノート誕生後の事情は、以下の記事にまとめています。そのいい加減ぶりに、驚くと思います。

しかし、コミュニティーノートができる前の不正確でたらめぶりはまったく知られていません。そこで、コミュニティノート以前にどんな不正確でたらめがまかり通っていたかをいくつか紹介しましょう。


「内部留保課税は財産権の侵害、憲法違反」

出鱈目です。内部留保課税だろうがどんな税だろうが、税金の本質は国家権力による財産権の侵害です。どうしてこんな恥ずかしい知ったかぶりをするんだろうと思います。

「企業が最適な行動をすると必ずデフレになる」

謎理論です。後に出てきますが、「Dr.ナイフ」(@knife900)はインフレは絶対だめだとも言っている。デフレでもインフレでも与党を批判できるように素材を探していたのでしょうか。

「日本は核拡散防止条約を批准していない」

嘘です。批准してます。わざと言っているとしたら悪質ですし、知らないのなら無知ばかですし、最低でも調べてないので不誠実です。

「国民民主党の歴史は立憲民主党より長い」

嘘です。逆です。立憲民主党は2017年の設立、国民民主党は2018年の設立で、立憲の方が古いです。 ただ、両党は2020年に合流して(新)立憲民主党になった。この合流に参加しなかった議員は(新)国民民主党を結成しました。

(新)国民民主党の結成は4日だけ(新)立憲民主党よりも早いのですが、文脈からして、「Dr.ナイフ」(@knife900)は2020年以前の党名で考えているので、明らかに間違い。

わざと言っているとしたら悪質ですし、知らないのなら無知ばかですし、最低でも調べてないので不誠実です。

「予算委員会ではなく、総務委員会で取り上げるのは騙しだ」

国会の委員会で質問しているのに、「国民の知らないところでこそっと」って、どう考えたらそんな発想になるんだろう。

「これまで変えなかったから憲法改正は間違い」

巨大ブーメランですね。じゃあ、ずっと政権を担っていることを理由に、自民党政権を変えることにも反対するべきでしょう。

「マイナンバー法改正案でなぜ立憲が賛成するんだ」

マイナンバー法案は民主党政権が作ったのです。当時の主要メンバーがいる立憲民主党が反対したらおかしなことになる。知ってて書いているのなら大ウソつきですし、知らないのなら、無知ばかですし、最低でも、調べないでツイートしているから不誠実です。

「中道、リベラルといえば立憲、共産党、れいわ、社民党」

嘘です。どうして共産党が中道なのか、共産党に叱られます。さらに、共産党がどれほどリベラル政党を目の敵にしてきたか、まったく歴史を学んでません。こういうツイートを9万人が見ているのですから、おかしな人が増えるわけです。

「民主党系野党は20年も30年も野党第一党」

嘘です。民主党が成立したのは1998年4月27日です。ツイート時点でまだ30年経ってません。わざと言っているとしたら悪質ですし、知らないのなら無知ばかですし、最低でも調べてないので不誠実です。

「憲法改正は立党以来の自民党の党是ではありませんでした」

明らかなウソです。ちゃんと詫びていますが、でも不正確でたらめです。全く責任感なくつぶやいていることが見え見えです。

言い訳もしてますが、「歴代首相」と書いてあるところで二重に知識不足ばかをさらしています。書くとしたら、歴代総裁。

「スマホ代は5倍になる」

何を根拠に出鱈目な数字をあげているのでしょうか。そもそも、世界の中央銀行は2%程度のインフレを目指して金融政策を運営しています。日本経済は長い間、デフレ脱却を目指してきました。「Dr.ナイフ」(@knife900)は、 賃金の下方硬直性とか、流動性の罠を全く知らないらしい。


これほど何度もいい加減なことを書き連ねれば、いい加減なアカウントだと気が付くフォロワーもいて、そうした人たちは批判的なコメントを書き込んでいます。しかし、それは蛙の面に小便です。影響力に見合うだけの批判がなされない構造が、野放図なツイートを許しているのです。

朝日新聞を辞めた男の置き土産

そんな「Dr.ナイフ」(@knife900)を人気アカウントにしたのは、朝日新聞がウェブで展開していた『WEBRONZAウェブロンザ』です。

WEBRONZAウェブロンザ』は、朝日新聞の月刊論壇誌『論座』が2008年に休刊した後、2010年6月24日から、スタートした後継メディアです。そこに突然、「Dr.ナイフ」(@knife900)が連載を始めたのです。2020年7月26日のことでした。一回目の連載時の画像です。

(『WEBRONZAウェブロンザ』は2023年7月で終了してますので、画像はアーカイブです)

なぜ匿名のツイッタラーが天下の朝日新聞のweb媒体に連載を持つことになったのか。それは、編集者(当時)の飯島浩氏が直接口説いたからです。

飯島氏は、東日本大震災による福島第一原子力発電所事故のいわゆる「吉田調書」の大誤報問題の責任を取って閑職に追いやられていたのですが、2018年に『WEBRONZAウェブロンザ』の編集者となります。そこで、かねてフォローしていた「Dr.ナイフ」(@knife900)に連絡を取り、連載を依頼したのでした。飯島氏は、「Dr.ナイフ」(@knife900)

安倍政権に抗議するツイッターデモも主導し、ネット界で存在感を高めていた。彼が寄稿してくれれば必ずPVアップにつながる。

またしても識者コメントを「掲載拒否」寄稿家を軽視する朝日新聞のゴーマン体質

と高く評価していたのでした。

しかし、これにはすぐに社内からクレームがつきます。当時の編集長に対して、上長から、

朝日新聞は実名執筆を原則にしてきた、匿名インフルエンサーに執筆させるとは何事か、読者が記事の信憑性に疑念を抱くのではないか

同上

という圧力がかかったのです。当時の編集長は、ウェブ上に、

ご寄稿いただく場合には、筆者がどういう方であるかについて、できる限り読者の皆さまにお示しするのが論座の基本です。今回は、読者へのご説明をはじめ、安心してお読みいただけるようにする努力が足りなかったことなど、編集部の対応に十分ではない点がありました。

同上

というお詫びを掲載せざるを得なくなり、連載4回目以降は「不定期」連載に切り替えたのです。連載は2021年10月を最後に打ち切られました。1年3か月の間に、計7回連載したことになります。

飯島氏によると、編集長はその責任を取って、一部員に降格されます。さらにこれを見て飯島氏は、

そしてこの会社にはもう未来はないと確信した。

同上

と考えて、朝日新聞を辞めることになります。

余談ながら、上記の飯島氏の連載を読んだ感想としては、実際には社内にもう居場所がなくなったのだと思います。

こうして「Dr.ナイフ」(@knife900)は朝日新聞の二人の記者のキャリアを傷つけながら、人気アカウントに成長したのです。

(「下」に続く)


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