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悪魔来たりて、船は翔ぶ

 南南東の風が強く吹いている。

 海面に浮かぶ残骸と、それにしがみつく水死体。それを横目に、進む先には一隻の装甲帆船。イーゴリは、その船影に見覚えがあった。

「イスパニアの差し金か。正規軍ではないようだが」

「ニーニャ型キャラヴェル。おそらく12年製」

 女性らしい、落ち着いたその声は人間のものではない。イーゴリの乗る人工知能制御型スループ帆船、その制御インタフェースは『ヴェパール』と名付けられていた。

「整備状況は不良。イスパニアの私掠船とみられます」

「3日前のお礼参りって訳か、復讐なんて何の得にもならねえ。儲け話でも持ってきやがれ、それなら少しは聞いてやるんだが」

 私掠船に搭載されたコイルガンの砲口が、じっとりとこちらを睨む。イーゴリは操舵室の片隅に置かれた情報チップを一瞥する。こいつを届けるのが今回の仕事だ。

「航路計算完了。お任せを」

 聞き馴染んだ声と共に、純白の帆が横風に翻った。

【続く】

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