藤井アナの著書『伝える準備』ーー想像と言い換えの旅はつづくよ、どこまでも

アナウンサー。

昔は、ただ原稿を読む人たちだと思っていた。

しかし、インターネットの普及によりだれでも伝えることができるようになった今、大勢に対して瞬時に様子を伝えるプロであるアナウンサーのすごさが、少しずつわかるようになってきた人も多いのではないか。

アナウンサーの素晴らしいエピソードはたくさん出てきているが、記憶に新しいのは、日テレ「news every.」藤井貴彦アナウンサーのコメントだと思う。

特に、コロナウイルスの不安が増大する一方だった頃、番組が終わる数秒前のひとことコメントが素晴らしい!と多くの人が勇気づけられ話題になった。私もそのひとりである。


そんな藤井アナの書かれた本が、#読書の秋2021 企画の対象書籍に含まれていたので、今日はその感想などを書いてみる。

2時間くらいあればさくっと読めるので、伝えることを仕事にしている人や、私生活で「伝わらない」ことの苦労を感じている人は是非読んでほしい。


カラフルな言葉の数々

印象的だったのは、本書のなかで使われる言葉ひとつひとつにも「伝わる」ために選びぬいた片鱗が見えるところ。

例えば、藤井アナが入社当初から続けているという日記の章。

5行で短く表現するため、もっといい表現はないかと言い換えを重ねていくことを「言葉を煮詰める」と表現している。

この「煮詰める」という言葉に、ん??と少し引っかかりを感じる読者も多いと想像し、こう補ってくれている。

「煮詰まる」という言葉は近年、作業がはかどらず物事が行き詰まるという意味で使われますが、本来は煮物がおいしく煮えていく様子から生まれた言葉です。長年書き続けていると、たった5行では字数も限られているため、できるだけ凝縮された言葉で多くの内容を表現したくなります。

ー藤井貴彦. 伝える準備 (Japanese Edition) (pp.81-82). Kindle 版.

さらに、ネガティブなことをポジティブに表現することが言い換えの醍醐味、というパートでは「言葉がカラフルになる」という小見出しで表現しており、この小見出しの裏側まで書いてくれている。

実はこの「3言葉がカラフルになる」の表題ですが、はじめは「3言葉が豊富になる」という表現でした。でも、この表現ではみなさんにイメージを届けきれないのではないかと考え、言葉の引き出しをいろいろ開けてみたところ、「カラフル」という言葉が顔を出したのです。こういった言葉遊びが会話を豊かにしていくのだと思います。

ー藤井貴彦. 伝える準備 (Japanese Edition) (p.83). Kindle 版.

伝えるプロの引き出しから選びぬかれた言葉たちは、本書のなかでもカラフルに彩られている。

読みながら、すてきに感じた表現をメモするのも楽しい。

「美しいものを見て、おいしいものを食べなさい」

もうひとつ印象的だったことは、藤井アナが新人時代に先輩から言われたという言葉。

みなさんを包むファッションと同じで、日常で使う言葉がその人を飾っていくのです。だからこそ経験することが大切で、私たちアナウンサーにとっては「美しいものを見て、おいしいものを食べなさい」というアドバイスにつながっていくのかもしれません。

ー藤井貴彦. 伝える準備 (Japanese Edition) (p.14). Kindle 版.


一見、アナウンサーと関係なさそうなアドバイスだが、表現(言葉)は経験から生まれ、使う言葉が重なってその人が出来上がっていくのだ。

私はよく、自分の語彙力が乏しいことに歯がゆさを感じて、上手く伝わらないくらいなら黙っておこう、と伝えることをあきらめてしまいがち。

よく、よいアウトプットをするにはまずインプットから。と聞くし、さらには読む聞くだけのインプットよりも自分が体感・経験したことの方が圧倒的に強く残り、血肉となるはずだ。

もともと腰が重いタイプだし、最近とくに新しいことへのチャレンジに臆病になっているけれど、いろんなモノ・ひと・ことに触れていこう。美術館にも行きたいし、ちょっと奮発しておいしいごはんも食べたい。久々の友人にも連絡をしてみよう。そして、できるだけその経験を伝える努力をしてみよう。

まずは自分にしか見えない場所で書くのでもいい。
継続するために、ひとに見えるSNSなどで1投稿だけ頑張るのもいいかもしれない。

伝わり方を想像する

伝える前に伝わり方を想像することがたいせつである。本書を通して藤井さんは一貫してこのメッセージを届けてくれている。

「伝える」と「伝わる」は全然違う。

「伝える」は自分の行為。
「伝わる」はその結果。

最終的に意図したことが相手に伝わるかどうかは、自分がいかに想像して、言葉を工夫するかにかかっている。

想像することの大切さと難しさについては、つい先日、岸田奈美さんが書かれていたこちらをぜひ読んでほしい。インターネットをする人みんなに、読んでほしい。

想像すること。調べること。いろんな人の意見を知ること。何度も言葉を選び直すこと。

そして、想像できる範囲を拡張していくために、日頃から多くの意見にふれ、事実を知り、経験を増やすこと。

伝えたあとの反応を、次に活かすこと。

これらすべてが「伝える準備」なのではないかと思う。


いったい、私はそれができているのだろうか。


私なりの伝える準備

藤井アナの本を読むと、自分は到底準備不足だと痛感する。

しかし、ふだんSNSなどで受信・発信する仕事なので気をつけていることももちろんある。

私なりに、伝える前にチェックしているポイントはこんな感じ。

だれに届けたいか
以下を明確にするために、調べたりヒアリングをする。
・どんなことをしている人で、何に困っていて、何を求めている人なのか
・届けようとしていることは、その人が求めていることなのか
・本人も自覚していない潜在的で根本的なニーズに合いそうか
・その人たちには、どこでどう伝えると、伝わるのか

どうしてほしいか
届けた結果、どう思ってほしいのか。行動として、読んでほしい、申し込んでほしい、ダウンロードしてほしい。感情の動きとして、ひっそりいいね押してほしい、感じ取ってほしい、意見を聞かせてほしい。など。

共感してもらえるか
文章のどこかが、①の人の心にとまるのか。読んだときに以下のどれかの感情になってもらえるか。
・「あ、これ私のことだ」
・「ずっと気になっていたことだ」
・「私が知っておくべきことだ」
・「めちゃくちゃわかる」
・「え?どういうことだろう?」
・「これは今知っておいたほうがよさそう」

パッっと見でもわかるか
スマホのスクロールだと0.01秒で指を止めるか判断しているらしい。長めの文章ページまでたどり着いても、初見では2割くらいの流し見だろう。一字一句見ている人はほとんどいない前提で、タイトル・単語のインパクト・語呂・見出し画像・行間・端的さ・漢字やひらがなのバランスなど、「パッっと見」でどう感じるかを考える。

このあたりが大切だと思っているが、常にできているわけではないし、今も難しいと感じる。スベっていることもある。


時代やツールも変わるし、相手も毎回違うので、「伝える」ことにこだわり続ける旅は一生終わらないと思う。想像力を鍛えつづけ、言い換えの醍醐味を楽しみながら、旅をたのしんでいこう。


藤井さん。本書での藤井さんの言葉は、私にはこんなふうに伝わりました。伝えたかったことと、合っているといいのですが。すばらしい本を、ありがとうございます。

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#読書の秋2021は、11月30日まで開催しています。ビジネス書から絵本まで、出版社さんが幅広い書籍をご紹介してくれているので、この機会に読んで書いてみてはどうでしょうか?





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