3-⑪そしてこれから

社長が逮捕されてから、手探り状態であちこちへの連絡、あれこれの手続き、事務所続いてブリリアントの片付けと怒涛の忙しさと混乱の渦に巻き込まれた日々が急に終わり、完全体宅勤務となったあたしは必要な買い物以外出かけないような、ほぼ引きこもりの状態になった。

ブリリアント片付けの2カ月間は繁華街のほうに行くからとおしゃれもした。
だが最低限の買い物にしか出かけないと、最低限の身だしなみしか気にせず、これではいかんと思っても楽すぎるのには抗えない。

それにしても。

これから、どうなるのか。

社長は悪事に関わっていないつもりだと思うし、そう主張しているのだと思う。けれど警察検察はそうとってくれずに起訴された。保釈も難しそうで、有罪が確定すれば10年前後は塀のむこうになるだろう。

会社の資金がある間はいいが、そのうちあたしと猫田さんの給料も払えなくなるし、会社自体存続が難しくなるから、休眠か解散ということになるでしょう。今後は後始末のご協力、よろしくお願いします。

弁護士にはごく初期にそのように言われた。

オフィスを片付け、ブリリアントを片付け、その他のことも有能に始末していくことは、自分の墓穴を自分で掘っているような気もするのだが、退去の日が決定しているから仕方がない。
社長には、いろいろと細やかに居心地がいいように配慮してもらった恩を感じてもいる。なにしろ、右腕くんを切り捨ててまであたしの雇用を守ってくれたのだ。そこにいろいろな思惑が働いているとはいえ、それはお互い様だ。できることは手伝いたいし、会社人として有能に働きたい。

あたしが抜けても仕事はなんとかまわっていく、会社はそういうものだ。むしろそういうシステムを作り上げて組織はまわすものだと思っている。けれども、いまの社長の、会社の状況ではあたし以外にあたし担当の仕事を処理できるひとがいない。いま、あたしが抜けてしまうと、社長が戻ってきたとき、会社は立て直せない状態になっているだろう。

「そんなこと言ったって、自分の生活だって大事でしょ。さっさと、次の仕事見つけたほうがいいんじゃないの」
数少ない、事情をつたえている人から言われることもある。
けれど、やはり、社長の期待を裏切りたくないのだ。

ちらちらと登録している派遣会社や転職サイトからの情報を眺めながらも、できうる限りは鉄格子のむこうの社長のお手伝いを続けたい、社長の希望の灯をちょろちょろとでも点けつづけたいと思っている。

まあ、給料払われなくなったらとっとと新しい仕事探すけど。
仕方がない、それが浮世の定めってもんさ。

そうしてあたしの顎はまだ痛くて大口が開けられないし、今度は右首すじのリンパ腺が腫れてきたのだった。

<了>

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