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【期間限定 無料公開】コロナのせいにしてみよう。シャムズの話『医療従事者のみなさんへ』

書籍「コロナのせいにしてみよう。シャムズの話」(國松淳和著、金原出版、2020年6月19日発売)より「付章 医療従事者のみなさんへ」を抜粋し、期間限定で無料公開いたします。

新型コロナウイルス感染症の診療・支援にご尽力されている医療従事者のみなさまに、心より感謝申し上げます。本記事がその一助になれば幸いです。


【本編はこちら】



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付 章
医療従事者のみなさんへ


この章は、番外編として私の仲間たち(医療従事者、特に医師のみなさま)へお届けします。本当にいつもお疲れさまです。

※注 この章は、医療従事者のみなさん以外は絶対見ないでください!!

シャムズは『ゲシュタルト』

本編を読むことでシャムズのことは大体わかっていただけたと思います。
つまりはシャムズというのは、ゲシュタルト(Gestalt)なんです。気づきましたか?

この言葉を使うとなぜか反射的に嫌う人がいますが、言葉に罪はないのでどうかTwitterを見るのをやめて休憩なさってください。


……シャムズはゲシュタルトなので、一般の方に「で、つまりシャムズって何?」って聞かれても一言で答えられません。一言で言えないのがシャムズだし、一言で言えたらシャムズではありません

もしも私が取材とかで「で、先生、シャムズというのはどういうものでしょうか? 説明してください」と訊かれているとき、爽やかな顔をしていたら、それは私の最大級の「社会性」と思って心の中で褒めてください。

シャムズの説明は、この本そのものです。一言では無理です。先に言っておきます。

さて、あらためて共感を得ようとするまでもなく、もうみなさんの頭の中には、

「ああ〜、シャムズいるわ〜」
「ってことはあの先生はシャムズだわ」
「っていうかウチの院長がもうシャムズっててヤバい」

とか、いろんな思いが飛来したかと思います。はい、みなさん、雑談が足りていません。仕事しすぎです。


シャムズ特性・シャムズスイッチ

医療者のシャムズの場合は、シャムズ特性というか「この人はシャムズになりそう」ということが、平素の様子から予想しにくい印象があります。

したがって、シャムズ発症に関与しているのはストレス(あるいは恐怖・不安)に対する感受性の問題だと思っています。つまり受容体の問題といえるので、遺伝子蛋白の違いからでしょうか(雑すぎ)。

遺伝子と考えるからには、モザイク・ヘテロ欠損・完全欠損とグラデーションの関係性なのかもしれません。コロナ禍でも大丈夫な人はまったく大丈夫ですから。


日常的な例でいうと、過換気症候群ってありますよね。パニック障害とかパーソナリティ障害とかの精神疾患を持っていたり、心療内科に通院中の患者さんだったり、そういう背景を持つ患者さんが、急に強い過換気発作を生じて救急外来を受診。酸素飽和度が100%で、治って帰宅となるアレです。

いつもというか、ずっと前から私は思っていたのですが、過換気症候群は基盤となる精神状態が脆弱な人がなるとは限りません

精神科に通院している人は世の中にものすごくいるわけですが、みんながみんな過換気発作になるわけではありません。他方、普段は全然普通だった人が突如パニック発作を発症して、過換気発作を起こしてしまう人もいます。
つまり、同じくらいのストレスがかかっても、過換気を起こす人と起こさない人がいるということです。

これは、ものすごく理路を飛躍していえば、ストレスに対する感受性の問題だと思うのです。感受性が強いと、過換気スイッチが入りやすい。

であれば『シャムズスイッチ(任天堂っぽい)』というのもある……ということになります。なので、シャムズになる・ならないには理不尽さがあります! 決して差別しないでください!

コロナ対応の最前線に立つ先生方! 日頃からコロナ対応の医療者を差別しないで、って言っているじゃないですか!


……すみません、取り乱しました。ということで、シャムズというのは、みなさんに対しては休憩時間や勤務終わりなどで持ち出すような言葉と思って構いません。

はい、以上を踏まえて次にいきましょう。

シャムズの分類
 〜あなたの周りのシャムズってる人は、どんなシャムズ?〜

Ⅰ.狭義・通常型
Ⅱ.広義・通常型
Ⅲ.疲労・倦怠型(masked CIAMS)
Ⅳ.過活動型
Ⅴ.亜型(その他)


Ⅰ.狭義・通常型

ある人のシャムズらしさを考えるに際して、その病態である「精神的加重」の定義に忠実である場合を、「狭義・通常型」と呼びます。では「精神的加重」とは何だったでしょうか。

精神的加重というのは、「身体疾患があると、軽微な認知機能障害や意識の低下を生じ、それによって通常であれば適応できていたイベントに対応できずに、転換性の症状が出現しやすくなる」

ということでした。

私は、これを「転換症状」という言葉の定義に忠実だった場合と、そうでない場合に分けられると考えています。すなわち、前者をⅠ.狭義・通常型とし、後者を次のⅡ.広義・通常型とすることにしています。

転換 (conversion)とは、一般初診外来や神経内科、精神科、整形外科、耳鼻咽喉科などの外来をやっているとまあまあな割合でみられる、あるいは推定される症候ですね。

神経系の機能に関わる身体症状に注目されることが多いのですが、『精神症候学 第2版』(濱田秀伯著、2009年、弘文堂、113頁)によれば次ののような身体症状が、転換症状として記述があるので参考にしてください。

表 転換症状として現れる身体症状
■運動障害
・脱力、麻痺、弓なり緊張、失立・失歩、失声、けいれんなど
■感覚障害
・感覚鈍麻、疼痛(限局性の頭痛)、圧痛(胸骨痛、乳房痛、卵巣痛)、心窩部違和感、視野狭窄など
■自律神経系障害
・呼吸困難、嘔吐、発熱など

つまり、やさしく言い換えると、このⅠ.狭義・通常型は、「コロナによる加重がかかることによって、通常であれば適応できた出来事に不適応を起こし、表のような運動障害・感覚障害・自律神経系障害が出現したもの」となります。

「あれ? これじゃ単なる不定愁訴では?」と思いましたよね。

そうなんです。定義定義うるさくてすみませんが、実は「精神的加重」の定義に忠実であればあるほど、私の考えるシャムズのゲシュタルトから外れていくのです。よって、臨床的には「TypeI シャムズ」は非常に頻度が低いか、シャムズと認識されずに、普通の内科外来に来たり、不定愁訴として扱われたりしているのだと思います。

これを「神経衰弱」と呼んで深刻視すれば、「抑うつ状態の手前」などと一定の警戒を行えるかもしれません。しかし、私はこれに対し内面に鬱積しないイメージを持っているので、他のタイプよりは予後がよいかもしれないと考えています。

その理由の考察として、「転換」という現象自体が葛藤に対応する象徴的解決という一つの成功の形になっているため、なのかもしれません。

つまり身体症状という形で表象化させたことで、患者としてはすでに成功なのであって、結果として不安を軽減させているのだと思います。

患者はなぜそうするか。内在した葛藤が放置されれば、心身を蝕むので何か別のものに変換される必要があるから、と考えられます。


Ⅱ.広義・通常型

Ⅰ.狭義・通常型の説明で述べたように、Ⅱ.広義・通常型は、「身体疾患があると、軽微な認知機能障害や意識の低下を生じ、それによって通常であれば適応できていたイベントに対応できずに、転換性の症状が出現しやすくなる」という精神的加重の説明において、「転換症状」の部分に関して「転換」の原義に忠実でないもの、をいいます。

つまり、転換ではあるものの、さきほどののような代表的な転換症状以外の何か別の症状になる、ということで理解しておきましょう。

コロナ社会のせいで、脳の具合が悪くなっていろいろなことが立ち行かなくなり、別のおかしな症状に置き換わってしまうというのが、この「TypeⅡ シャムズ」だとしておきましょう。

まあ要するに「典型的シャムズ」といえるもので、カバーするものも、数も多いと思われます。内容については、本編で述べたことがほとんどすべてです。


Ⅲ.疲労・倦怠型(masked CIAMS「仮面シャムズ」)

仮面ライダー・シャムズではありません。このタイプはちょっと深刻ですから注意しましょう。

お察しのとおり、人柄がよく、サボらず真面目な人に多いタイプです。いつのまにか疲労を蓄積していて、なかではいろいろと変質しているのに、表層からわかりにくいタイプです。

そして、さらにこのタイプは終末像がうつ病である、といってしまうとみなさんは混乱してしまうかもしれません。

普通「仮面うつ」というと、抑うつ症状よりも様々な身体愁訴のほうが前面に出るためにうつ病の診断がされにくい・遅れる、ということで話題になる切り口でした。

「仮面シャムズ」では、むしろその人の元々の性質がシャムズをマスクしてしまいます。つらくても真面目にタフな任務を黙々と遂行するような方に成立しやすいのが、この「TypeⅢシャムズ」だと思います。医者に多いでしょうね。


Ⅳ.過活動型

過活動型は本編で触れましたね。第4章を参照してください。

このタイプも医者に多いと思います。普段ではしないようなことをはじめてしまうことが典型的です。くどいですが、その判別に有効な視点は「普段のその人のことを知る周囲の人からみれば、およそそんなことはしないだろうということを急にはじめた」というものです。

本人は、このコロナな世の中になって、よかれと思って行動しています。そのため、属するコミュニティの中でのその人の周囲からしても、一見その行動が正当化されやすく、それを止めようとする人がいないというところが問題で、根が深いのです。

しかもたいていは、優秀な人や管理職・社会的立場が上の方が過活動型になりやすいため、それを止めようとする抑止力が働きにくいことも、悪化を促進させます。

こういう人を急に体を張って止めると、その人を否定することにもなりかねない(否定はしていないけど)ので、少し空回りしてふと疲れた瞬間に一気に説得しましょう


Ⅴ.亜型(その他)

いくつかの亜型が(私に)報告されています。まだ雑多な概念も多いため、簡単に紹介するにとどめます。

アビガン亜型
・普段はまあまあ普通なのに、ことアビガンⓇの話になると急に非科学的なロジックで騒ぎ出すという亜型です
PCR亜型
・普段はまあまあ普通なのに、ことPCR検査の話になると急に非科学的なロジックで騒ぎ出すという亜型です

共通しているのは……ある地雷的なキーワードがあって、それを踏むとスイッチが入って精神的加重がかかるのか、急に人が変わったようになるということでしょうか。今後の症例の集積・報告を待ちたいです。


シャムズ・ミミックス(CIAMS mimics)

あれもこれもシャムズかと思っていると、人物の厄介な発言・行動全部がシャムズにみえてきます。ここで、シャムズと紛らわしい病態を紹介しておきます。シャムズ・ミミッカー(CIAMS mimicker)ということですね。

私に一番相談があるもので、なんだか最近やたらと怒りっぽくなった・攻撃的になったがこれもシャムズなのか、というのがあります。多いです。代表的だといえると思いますので、「前より攻撃的になった」についての病態鑑別をする形で説明したいと思います。


「前より攻撃的になった人」を考える

まず、元々怒りっぽい人がさらにその程度を増した、というのは私のいうシャムズの前提を満たしていないので、シャムズではありません。シャムズというのは平時との発言・行動の大きな質的変化をいうのです。

ただ、「程度が増した」というのを「性格・性質が尖鋭化した」と言い換えることはできます。元々のものが尖ったというまさに字のままのイメージです。しかし、これをシャムズに含めるのは、やはり私は少し抵抗があります。

まあこれも、コロナだししょうがないじゃん! っていうものではありますけれど。

一方、決して怒るようなキャラクターではなかったのに、やけに攻撃的になったという方はシャムズです。

これを判定するのはその人の日頃を知る近くの周囲の人です。平素の状態からこのコロナ禍での影響を差し引いていき、どんどん減ってゼロ近くになるのはいいのですが、マイナスになってしまうのがシャムズです。

つまりコロナの影響を加味して、普段と今のバランスが取ろうとして「ええ? そんなことで怒る人だっけ?」というとき、シャムズと判断されます。


攻撃的シャムズの鑑別その1
  「パーソナリティの揺れ」

「自粛警察」などと、世間が自粛に協力しているというのに、正当なルールの基で営業している店舗などに「自粛しろ」と攻撃的に迫り、その営業を不当に妨害するような人がいます。さすがにそれをしているのは医療従事者ではいないように見えますが。

あるいは、放っておけばいいのに、特定の人物の発言をあげつらい瑕疵を探し出して晒す行為で悦に入る人がいます。

これらはともにシャムズではないと思います。こういうのはパーソナリティの揺れか、単に意地悪なだけです。

普段では目立たず今になって悪化したので、シャムズではないかと反論するかもしれません。しかし私は、こういう人は普段からこうした性質はあったのだと思っています。

意地悪さには「強い意識下の意図」というものが底にあるように思います。シャムズが「無意識の転換症」が本質であると思っている私からすると、精神的加重で意地悪くなった、というロジックは少し受け入れ難いのです。

他罰的なパーソナリティが平素は抑えられていたというだけで、生来的な性質がコロナ前後で変質しているわけではないと思うわけです。

コロナな世の中という特殊な状況下での環境の変化によって、そういう他罰傾向を、社会としては許されるようになり、自己の中では(そのつらさのためにそうした行為をする)自身を許容しているのだと思います。

確かに精神的加重の要素もあるとは思いますが、義憤ということで自分を正当化して、負のパーソナリティを解放しているだけなのだと思われます。

私の考えでは、「自粛警察」の人たちはたぶん消耗していないと思います。むしろ生き生きしているようにすら思います。これは自分が安らぐためにしていることなのだと思います。つまりは単なるパーソナリティの揺れです。

以上よりこれらはシャムズではないと思われます。

さきほど「自粛警察」の人たち消耗はしていないとは言いましたが、具合は悪いのでしょう。でもコロナが直接影響を及ぼしている、というわけでもないと思います。

こういう人には、雑談をしていくというより、追い詰めないことが大事です。ただし、わからないうちは雑談で情報を得るしかなく、結局のところやっぱり雑談しないとわからないということになります。雑談は大事です。

パーソナリティ障害の傾向が強い方は、コロナを怖がっていないように思います。あるのは、コロナ前から一貫してある「見捨てられ不安」です。

医者も、こういうとき結構意地の悪さが出ちゃいますね。先ほども言ったように、つらいという状況を、義憤にかこつけて負のパーソナリティを発露してしまう

それはそれで問題ですが、医者の周りには医者が多く、いい人や人徳者もいるので、そういう環境要因のおかげもあってひとまずは落ち着き、「闇落ち」せずに安定していくという傾向にあります。

あるいは、SNSで発散したり(発散されるほうの気持ちに立てない人が多いのは問題ですが)、類まれな知能で自分を補正できたりしているのです。
純度の高い「100%シャムズ」は破綻します。

しかし「8割おじさん」ではないですが、「20%シャムズ」みたいな医療従事者はたくさんいて、シャムズの消耗を、残りの8割、つまり能力や知識や周囲の癒しや励ましによって、予防できているのだと思われます。


攻撃的シャムズの鑑別その2
  「ただのASD傾向」

ASDとは自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder)のことで、一種の発達特性です。非常に恣意的・操作的にみれば、多くの医師が何らかのASD傾向を持っているとすら思えます。

今のこのコロナな医療現場はちょっとしたカオスみたいなところがあります。するとそうした急な環境変化に順応できず、コミュニケーションに障害を起こしたり、うまく伝わらず苛立ったりします。

また、感染制御というのはチームプレイです。ASD傾向の人は、一人で黙々と作業をするのは得意な傾向にありますが、チームで業務を行うのが苦手な人が多いのです。するとコロナ対応となると急にチーム医療が果たせなくなり、周囲への苛立ち、自分の無力感への苛立ちが目立ち、結果として表出上、周囲としては「攻撃的になった」と捉えられてしまうこともあるでしょう。

これは、もともとある「傾向」が、環境の変化で社会性を失う形で攻撃的になったというかたちで表象化しただけで、シャムズではありません。

やはりよく話し合って、一番よい勤務体制をつくってあげましょう。こうした「ASD傾向」のスタッフが得意なこともあるはずです。


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著者紹介

國松淳和 くにまつ・じゅんわ

1977年愛知県生まれ。内科医。日本医科大学医学部卒業後、国立国際医療研究センター膠原病科、同センター総合診療科などを経て、現在は医療法人社団永生会南多摩病院 総合内科・膠原病内科に勤務。

リウマチ専門医、総合内科専門医の資格を持ち、不明熱をはじめとした「原因のわからない病気の診断と治療」を専門としているが、一般内科医としてどんな症状・病態にも対応することを信条としている。

近著は『仮病の見抜きかた』(金原出版)、『また来たくなる外来』(金原出版)、『不明熱・不明炎症レジデントマニュアル』(医学書院)、『ブラック・ジャックの解釈学 内科医の視点』(金芳堂)、『Kunimatsu's Lists ~國松の鑑別リスト~』(中外医学社)など。

國松淳和 公式ツイッター
https://twitter.com/FakePearl_inst?s=20

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【 書誌情報 】

・著 者:國松 淳和
 (医療法人社団永生会 南多摩病院 総合内科/膠原病内科)
・定 価 :1,430円(1,300円+税)
・四六判・168頁
・ISBN 978-4-307-10203-2
・発行日:2020年6月19日
・発行所:金原出版

金原サムネ

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