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コロナのせいにしてみよう。シャムズの話【note版】

本記事は2020年6月19日に発売した書籍「コロナのせいにしてみよう。シャムズの話」(國松淳和著、金原出版)のnote版です。

note版は書籍・電子書籍とはレイアウト・デザインが異なります。
本文や内容に違いはありません。


【 書 籍 】

金原サムネ

・著 者:國松 淳和
 (医療法人社団永生会 南多摩病院 総合内科/膠原病内科)
・定 価 :1,430円(1,300円+税)
・四六判・168頁
・ISBN 978-4-307-10203-2
・発行日:2020年6月19日
・発行所:金原出版

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【 電子書籍 】
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【 推薦文 】



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この本を手に取った人へ

みなさんこんにちは。私は内科医の國松淳和と申します。

普段は病院に勤めて、患者さんの診療をしています。
内科の範囲で何でも診ているつもりですが、発熱や原因のわからない症状の診断・治療を頼まれることが多い医者です。

新型コロナウイルスの感染拡大とその脅威によって、私たちの社会と生活は、一変しました。その一方で、私たちそのもの、つまり生き物としての「からだ」の質はそこまで変わってしまったようには思えません。

実際には、みなさんのからだはいつも通りで、早く世の中が元に戻って欲しいとただ願っているだけなんだと思います。

私たちのからだはパッと見は変わっていないのに、社会は変わってしまった。ただそれだけなのに、ものすごく体調が悪くなってしまった人たちが大勢います。

人間は、こういう社会や環境の変化によって、こうもすぐに落ち着かなくなり、具合が悪くなってしまうものなのでしょうか? 


はい、私はそういうものだと思っています。人間の体調は、社会や環境の変化によって、大きく影響を受けてしまうのです。

この本では、

コロナが流行してからというもの、コロナに感染してもないのに「いつもと違ってちょっと変になってしまった」「いろいろと体調が悪くなってしまった」という人たちに、どんなことが起きているのか。

をお話ししたいと思います。

それを通して、この「コロナ禍」においてみなさんがいったいどんなことに気をつけていけばいいか、どんなことをすればいいのかについて提案したいと思います。

ただ、私は臨床医(患者さんに直接接して診察する医者)です。患者さんという人間が持っている病気や症状を診る専門家です。社会や経済や公衆衛生を扱う専門家ではありません。

あくまで、体調が悪くなってしまった人にどんなことが起きていて、どんなことに気をつければいいか、どうしたらいいのか、を述べるだけです。

実はこの本は、2020年5月の執筆時点で、新型コロナウイルス感染症診療の陣頭指揮を執り続けている国立国際医療研究センター病院、感染症医の忽那賢志先生に執筆を提案されて書きはじめました。

同世代で、同じ「発熱」を日頃扱う臨床医として、盟友という以上のつながりを感じている相手でもあります。忽那先生はおそらく、私の感覚では、今回の新型コロナウイルス感染症の流行にあって、一番ウイルス自体に接している医者の一人であると認識しています。

その彼が、私と同じような問題意識を持っていたことを教えてくれました。私の考えを本にすれば、患者さんのみならず、医療従事者も助かるのではないかということでした。

確かに、私もいわゆる「防護服」と「マスクとフェイスシールド」を厳重にまとって診療することがたびたびありましたが、あれをやりながら患者さんの心配や不安に対して、時間をかけて説明してあげられないのです。

きついマスク、キャップ、手袋を二重にしたままの状態ですので、顔や口にかなりの圧迫感があり、少ししゃべるのにも結構難儀します。ひと続きの会話ですら精一杯で、つらいです。

とはいえ患者さんのほうこそ、一人一人ご自身の症状につらさを感じているし、見えないウイルスと未来に対して不安がいっぱいですよね。


そこで私が「コロナに関する不安とその対処法」を本にして、一般の人に提案すれば、何より現場で防護服を着て対応される臨床医の先生方が、本来患者さんに時間をかけてすべき説明にとって替えられるかもしれない。

と、そう思ったのです。これはまさしく私の本領だなと思います。忽那先生、さすが私のことをよくわかっていらっしゃる。

実は私はこれまでもたくさんの本を書いてきましたが、いずれも医学書でした。つまり、主に医師という専門家が購入して読んで、自身の診療などに役立てるための本を書いてきました。

本来は、患者さんや一般の人たちにではなく、お医者さんのために本を書いてきたのです。

コロナウイルスに感染しているわけでもないのに具合が悪い・不安である、といった人たちに対する説明全般についての本を、臨床医のみなさんのために書けばいい。そう思ったのが、この本を書く一番の動機でした。


前置きが長くなりました。この本の結論を雑に先に言ってしまえば、こうなります。あなた・あの人の具合の悪さは、みんなコロナのせいです。
頭や精神がおかしくなったように見えても、別に精神疾患になってしまったわけではなく、みんなコロナのせいです。

しかし、コロナで変わった社会をすぐに変えることはできません。ですから社会やあなた自身が「元どおり」になろうと目指す(=もがく)のではなく、新しい安定を自分自身でつくっていこうよ。と、私は言いたいのです。

本書はなるべく、問題提起だけでおわらないように気をつけました。そして「みんなで頑張ろう」とか、そういう漠然とした結論も避けています。

この本を読むことで、少しでもみなさんが自身の行動を自分で変えることによって、体調がよくなり、新たな安定を得ようとできたらうれしいです。

2020年5月吉日
医療法人社団 永生会 南多摩病院 総合内科・膠原病内科
國松淳和

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第1章 
コロナで変わってしまった人たち


「コロナな世の中」になってしまってからというもの、みなさんではなく、みなさんの周りで、全くいつものその人らしくなくなってしまった方はいませんか?

ハイハイいますと一人、二人とすぐ頭に浮かぶ人もいれば、あの人がそうかな、もしかして私もそうかな、などとふわっと心配になる人もいると思います。この本では主にこういう人たちのことをまず考えます。

たとえば、

・コロナの前だったら絶対やらなかったようなことをしたり、絶対言わなかったことを言いはじめたり。

・非常に冷静沈着、頭脳明晰な社長さんだったのに、コロナ禍にあっては、なぜか迷走し、謎のプランを掲げはじめて社員を困らせたり。

・お金儲けや自分の出世のようなことしか考えていなかった人が、急に「コロナ禍で困っている人を助けよう」などと普段なら絶対言わないようなことを言い出して、妙なクラウドファンディングをはじめてしまったり。

・忍耐強い人や穏やかな人が、なぜか急に怒りっぽくなったり。

こういう人のことを考えてみたいと思うのです。みなさんの周りで心当たりの人はいますでしょうか。

ポイントは、普段とは違う、その人らしくない言動や行動をし出す、ということです。


■ シャムズ、シャムズ、シャムズ

こういう人のことを、あとでまた詳しく解説することになりますが、COVID-19/Coronavirus-induced altered mental status, CIAMS(シャムズ)と私は呼んでいます。

直訳すると、「新型コロナウイルス感染症が誘発する精神状態の変化」というところでしょうか。

いかにもちゃんとした病名のようですが、私がそう勝手に呼んでいるだけで、お医者さんという人たちが皆、この呼称を当たり前に使っているわけではありません。
CIAMS(シャムズ)というのは、先ほど例示したような「コロナで変わってしまった人たち」全般を指すものと思ってください。

CIAMS。シャムズ。この言葉をこの本では使っていきますから、ぜひ聞き慣れてください。


シャムズ=いつものその人らしくなさが問題

話を戻します。「コロナで変わってしまった人たち」を指す、この「シャムズな人」「シャムズってる人」の話です。

コロナの以前、普段からその人にみられるかなと思うような行動や発言ならば、それはシャムズではありません。私がシャムズと特に呼んで問題視しているのは、いつものその人らしくなさ、なのです。

つまり、普段から怒りっぽい人がコロナでさらに怒りっぽくなった、みたいなことはシャムズとは違うと思います。もともとキレイ好きで、よく手を洗っていた人がとりわけコロナ禍となってからさらに手を洗うようになった、というのもあまりシャムズではありません。

コロナより前、平素のその人の性質が、量的には変わったとしても、質まで変わっているわけではないので、シャムズではないのです。

要するに「程度がひどくなっただけ」というものです。これも広義には(=広い意味では)、度を超せばシャムズですが、「まあ前からあったけど、最近特にひどい」というのはちょっとシャムズとは違います。

このあたりの「微妙さ」についてもこの本でいずれ述べたいですが、今は理解を優先させるため「性質は変わらずに程度がひどくなっただけ」というのはシャムズっぽくない、シャムズには入れない、としておいてください。


シャムズは病名じゃない

ではこういうのはどうでしょうか。

ある医師が、普段は「検査は必要と思える人だけに行うものであって、やたらめったらやるものではない」と言って、非常に適正な診断・治療のお手本を示して教育的な立場にいたにも関わらず、コロナが拡大し始めると急に「PCR検査だ、とにかくPCR検査をやるべきだ」などと大騒ぎし出したという場合です。

これはシャムズだと思います。普段との違いの落差が大きすぎます。変化する前後の内容の是非を問うているわけではありません・こういうのは具合が非常に悪いんじゃないかと私なら心配に思ってしまいます。

ポイントは、「普段と違って」という点、そして「その人らしくなさ」という点です。この判断は、可能限りその人の周りの身近な人がしたほうがいいです。医者や医療従事者じゃなくてもいいのです。

実はこれは非常に重要なところで、後でも強調しますが、できれば今のうちに覚えておいてほしいのです。

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