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【特別版 第5回】アルバイトの是非

書籍「憧鉄雑感~皮膚科医による痛快!鉄道エッセイ~」の発売を記念して、本書から選りすぐりのエピソードを全5回にわたって、毎週note上にて特別公開しています!

最終回となる第5回は医師と鉄道の意外な共通点!?
「アルバイトの是非」です。

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大学在籍時代、外勤と呼ばれる勤務があった。通称アルバイトと呼ばれ、ほとんどの医師が経験しているのであろう。医師不足対策とともに、給与の補填という面もあろうが、皮膚科医にとっては、common diseases を学ぶ絶好の機会でもある。
貧乏性の筆者は医局長時代、外勤の給与アップを目論んだ。もちろん、他の医局員のためという崇高な?建前である。

もう時効であろうから記すが、たまたま自らの外勤先の事務長に対し給与アップのお願いを電話したところ、翌週外勤の際に「医局長から電話があって、給与アップと言われたが、医局長は怖い方ですか?」などといわれた。事務長は、目の前の男が電話の張本人とは夢にも思っておらず、悪魔の如き直感でつい「そうですね。シッカリしています。病院間の不公平をなくすためでしょうが、そちらは平均より安めだから電話したのでしょうね」などとヌケヌケと言った。
「医局長には黙っておいてください!」と念を押された結果、メデタク給与がちょっぴりアップした。尤も、後日事務長からだしぬけに電話がかかってきた時には、流石に狼狽し、ボイスチェンジャーなど使う暇もなかったが案外電話の声では正体がバレないものである。

患者にとって外勤のシステムはわかり難く、大学で診た患者がたまたま外勤先に現れることもあって驚かれた。しかも、治らぬ患者などはお互いに気まずく、無言の外来となる。患者にとっては、「何故大学の医師が、こんなところに??」という訳であり、システムの説明から始めねばならず時間の浪費だ。

ところで、鉄道においてもアルバイトが存在する。まったく異なる鉄道会社の車両が他社線内のみの列車に使用されることがあり、通称〝アルバイト運用〞と呼ぶ。
最近の鉄道は乗換の利便性向上のため、相互乗り入れが盛んになり、東急東横線が東京メトロ副都心線を介して、東武東上線、西武有楽町線と相互直通を始めたことが話題になった。相互乗り入れでは他社車両が自社区間を走ることとなる。この場合、車両使用料を支払い経費精算するが、実際には他社区間での車両走行距離を路線距離の割合に応じて分担することで合理的に処理している。例えばA社10㎞とB社40㎞を相互乗り入れする場合、編成数をA社とB社で1対4の負担とすることで車両使用料を相殺するのである。

ただし、実際にはこのようにきれいに分かれないため、編成により事細かな走行距離が調整され、よって全体の走行距離調整のため他社線内だけを運用する場合が生ずることとなる。東海道新幹線の名古屋発東京行の一部の「こだま」がJR西日本車である理由がこれであり、車内放送ではJR西日本らしく〝いい日旅立ち〞が流れる。


5アルバイトの是非

羽田空港で発車を待つエアポート急行新逗子行き。京急線内のみの運用に都営地下鉄の車両が使用される。


事務長が現れた。「で、先生! 医局長にはどれくらいアップを提示すればいいですかね? なかなか目安がわからないので内緒で教えてくださいよ〜!」悪魔の如き直感で「そうですね! 3倍ぐらいにして頂ければ…」と口にしようかと思ったが、ここは常識的な判断となってしまい「お気持ちだけで…」と筆者の中から珍しく天使が出てしまった。
悪人にはなり切れぬ小市民の筆者に比較し、案外事務長のほうが上手だったのかもしれぬ。

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「憧鉄雑感 note特別版」の連載は本記事で最終回になりました。
続きは書籍でぜひご覧ください!

【書籍のご紹介】

金原サムネ

・著 者:安部 正敏
・定 価 :2,750円(2,500円+税)
・A5判・298頁
・ISBN 978-4-307-00489-3
・発行日:2020年9月25日
・発行所:金原出版

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【 電子書籍 】
■ M2PLUS

■ 医書.jp
https://store.isho.jp/search/detail/productId/2005398760/

【著者紹介】
安部 正敏(あべ まさとし)
医療法人社団廣仁会 副理事長 兼 札幌皮膚科クリニック院長。長崎市生まれ、島根県立松江南高校卒、群馬大学医学部卒、同大学院医学系研究科修了。医学博士。父は医師免許をもつ真打の落語家“春雨や落雷”。群馬大学医学部皮膚科、米国テキサス大学サウスウエスタンメディカルセンター細胞生物学を経て現職。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学非常勤講師。日本臨床皮膚科医会常任理事。日本乾癬学会理事。全国の“乾癬患者会”サポートにも取り組む。『皮膚科の臨床』(金原出版)にて「憧鉄雑感」を好評連載中。