10円コーヒー。
この国に、留学したての頃の話。
新学期が3月から始まるこの国では、入学時まだ寒い。
当時の記憶の中心は、学食の食堂から出ていた白い湯気と、慣れない味噌チゲのにおいだった。ある時「なんで、こんなところまで来ちゃったんだろう・・・」と後悔する時も、あったっけ。
そんな中、大学の一角に、古い自動販売機あった。
こちらの学生たちが休み時間にふと来て、そこから紙コップに入った温かい飲み物を、いとも簡単に持っていく。
なんだろうと思って近寄ると、「コーヒー」という文字のボタンがひとつ。なるほど、これは多分、あの甘いコーヒーに違いない。
まだ慣れない、少し辛めの味噌チゲ後に飲むには、ちょうどいい。
【1日目】
遂に自動販売機に挑戦して、あの甘いコーヒーを飲むぞと、張り切って100円(1000ウォン札)を握りながら、その自動販売機の前に立った。
「えっ?100円(1000ウォン)じゃないの?お札を入れるところがないし!」
そこには「100ウォン(10円)」とだけ、書いてある。
その日は小銭が無かったので、泣く泣く諦めた。
【2日目】
今日こそはあの甘いコーヒーを飲むぞと、張り切って100ウォン(10円)を握りながら、その自動販売機の前に立った。唯一、あの丸くて長細く開いた穴に、100ウォンのコインを入れた。
「あれっ?100ウォン入れたのに、機械が反応しないし!」
後ろで待ってた学生が、それを見て、自動販売機を、バンバン叩きながら言った。
「あら~残念ね。自動販売機が、お金食べちゃった!たまにあるのよね。」
あまりにも、ごく普通に言うので、泣く泣く諦めた。
【3日目】
もう今日こそは、あの自動販売機から甘いコーヒーを絶対に飲んでみせるぞと、張り切って100ウォン持って、あの自動販売機の前に立った。
100ウォン入れた。がちゃ。
ホッ、反応した。が・・・・
紙コップが、引っかかったのか。出てこない・・・
そして、目の前であの甘いコーヒーが垂れ流しになった。
ジャ~~!!
「えっ!?こんなこと、あり~~~~!!!」
思わず叫んでしまった。
それを見た、後ろの学生が言った。
「たまにあるのよね。もう紙コップ無いのかな?試しにやってみるね。」
すると、ちゃんと紙コップがカチャっと出て来て、甘いコーヒーが見事にキャッチされた。
「あら、大丈夫みたいね。これ上げる。」
私の悲痛な声を聞いて、きっとかわいそうだと思ったのだろう。
その学生は、私に甘いコーヒーをおごってくれた。
あの自動販売機を通して、なぜかほんの少し、この国が好きになった。
そして、あれから「ごく普通」のことが
何も問題なく、「ごく普通」に為されることが
いかに、ありがたいことなのかを・・・識った。
拙い文章を読んで頂いて、ありがとうございました。 できればいつか、各国・各地域の地理を中心とした歴史をわかりやすく「絵本」に表現したい!と思ってます。皆さんのご支援は、絵本のステキな1ページとなるでしょう。ありがとうございます♡