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個性がなければ滅んでしまう

 春になると桜前線の話題がニュースになるが、この「桜」はソメイヨシノのこと。
 ソメイヨシノはたった1本の木から接ぎ木や挿し木で増えたクローン桜だ。DNAの同じクローンだから、気温が同じ場所では同じ時に花を咲かせる。だから「桜前線」ができる。
 他の桜はクローンではないので、同じ場所の同じ種類の桜でも、咲く時期には違いがある。
 ソメイヨシノが生まれるまでは、桜といえばヤマザクラだった。ヤマザクラは木によって花の色や葉の色が微妙に違う。桜の花の咲く時期も微妙にバラバラなので、花が咲いている期間も長い。ソメイヨシノはまったく同じクローンだが、ヤマザクラは同じ桜でも木によって個性が違っている。
 ソメイヨシノは種ができないので、前述のように接ぎ木や挿し木で人の手によって増やさなければならない。そして人の手によって植えなければならない。
 ヤマザクラなどの種は、いろんな場所にちらばっても、自分に合った環境でなければ芽吹くことがない。それなのにソメイヨシノは人に都合がよい場所にしか植えられない。
 桜にとってはいい環境ではないかもしれない。そもそもソメイヨシノはそんなに丈夫な木ではなく、「桜切るばか梅切らぬばか」といわれるように、枝を切ったらそこから腐っていくこともある弱い木だ。切った跡に薬を塗ったり、人が手助けしなければ生きていけない木なのだ。
 また、クローンなので、伝染病でもあれば、一気に同じDNAを持つ仲間に広がる。
 クローンが一気に滅んだ例もある。
 人間に都合のよい植物は接ぎ木や挿し木でクローンを作って、まったく同じ種類をどんどん広げていった。種を蒔いて育てると、親とまったく同じ子はできない。子どもは両親の遺伝子が合体したものだから、どこかしら違っている部分がある。同じ品種がほしいときは、個性が出ないようにクローンを作る。
 そこで滅んでしまった植物の一例がバナナ。
 一般に日本の店で売っているバナナはキャベンディッシュ系といわれるものが大半だ。ところが昔はグロス・ミシェルという種類のバナナがほとんどだった。
 バナナは種ができないのでクローンで増やすしかないのだが、グロス・ミシェルにパナマ病という病気が流行り、1950年代から1960年代にほぼ全滅してしまった。
 そこでパナマ病に強いキャベンディッシュが広がった。
 ところが現在、キャベンディッシュに新パナマ病という病気が流行っている。DNAが同じバナナなので病気もうつりやすい。バナナはプランテーションで大量に同じものを生産しているので、病気が流行れば一気に流行する。
 違った個性をもったバナナの開発が待たれているそうだ。
 バナナは種ができない植物なのだが、根を伸ばして新しい芽を出す。
 種ではなくて球根で増える植物も多い。ユリやチューリップは球根で増える。球根で増えるということはクローンを作るということだ。親と同じものができる。個性がないので、何か病気が流行ればみんな同じ病気にかかってしまう。
 本当は、病気にかからないような個性をもった兄弟がいれば、同じ病気が流行っても、その病気に強い仲間が増えることになる。そうして生物は進化し、地球の中で生きてこられた。
 ユリやチューリップはクローンで増えているので、もう進化することはないのか。
 安心してください。ユリやチューリップは球根で増えるだけでなく、ちゃんと種を作っている。種から個性豊かな子どもができて、環境に適していればそこで芽吹き増えていく。
 球根でクローンを作って増えているジャガイモだって、小さなトマトのような実をつけることがあり、種から新しい個性のジャガイモが育つ可能性を残している。
 自分と同じDNAの仲間が、一気に滅亡することのないように、植物は、自分とほとんど同じDNAだけど、少しだけ違った個性をもった子を作り、滅亡から救おうとしている。
 個性がなければ仲間は全部滅んでしまう未来が待っている。

 そこで人間だ。子どもたちに、いや日本の大人たちにも、個性はあるのだろうか。
 子は親のクローンではないので、新しい個性を持って生まれてくる。
 それなのに人間の成長には環境が大きな影響を与える。
 我々日本人には、個性を殺され、同じ方向を向いて戦争に走ってしまった歴史もある。明日そうなれば日本の滅亡だ。
 歴史は、個性の豊かな英雄がつくってきた面が多い。会社も、個性の豊かな経営者が大きくしてきたことが多い。それが引き継げなくて潰れる会社も多いけど……。
 日本の未来のためには個性が必要ではないか、個性を大切にしなければならないのではないかと、自然界が教えてくれる。
 

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