獅子に勝つ蚊
国会議員のゲトウは、目立つ存在ではなかった。選挙区では、さすがに顔を知られていただろうが、全国的には、顔を知っている人は少ないだろう。その彼が一躍有名になったのは、ある政界の闇をマスコミに告発してからだ。
本人は、正義のためだと言っているが、実はマスコミのインタビューを受けたときに、今まで地方局のテレビにしか出たことがなかったのに、急に全国区の、多くの人が見るテレビだと思うとたちまち緊張し、ついついポロリと闇の一部をしゃべってしまった。そうすると海千山千のマスコミは、次々質問をする。ゲトウは頭が真っ白なまま次々しゃべってしまう。
マスコミは喜び、政界スキャンダルだと次々続報を放送した。ゲトウは、重要なポストについているわけではなかったので、闇といっても闇の入り口しか知らないが、マスコミのニュースショーに出るコメンテーターは、その話に加え、あることないこと重ねていった。ゲトウが闇をあばいているように見えた。
そんなゲトウの姿を見た政界の黒幕ソウカは、腹を立てた。ゲトウの弱みをつかもうと、私立探偵を雇い、調べさせた。すると、ゲトウがパパ活をしていることがわかった。
ソウカの方は、老体にムチ打ってさんざん女遊びをしているのだが、そんなことは関係ない。マスコミにゲトウのことをリークした。スキャンダル大好きなマスコミは、そちらのニュースに飛びつき、パパ活パパ活と叫びだした。そうすると政界の闇問題は、いつの間にか報道が少なくなった。
そして、ゲトウは国会議員をやめるはめになってしまった。
小さな蚊が、百獣の王ライオンの前でこう言った。
「おまえなんて恐くないさ。おれの方が強いぞ」
「おまえの強さなんて、ツメでひっかき、歯でかむくらいだろう。そんなの女のケンカと一緒さ。ツメでひっかき、かみついたりする。いやいや、今は男も拳でなぐりあったりしないで、ひっかいたり、かみついたりしている」
「それはともかく、くやしかったらおれと戦ってみろ」
黙って聞いていたライオンも、ついに堪忍袋の緒が切れ、戦いが始まった。
ライオンが腕をふりまわしても蚊はつかまらない。ライオンがかみつこうとしても、そこに蚊はいない。
蚊の方は、ライオンの顔の、毛がない部分をかみまくった。
かゆいかゆい。
ライオンは、自分の顔をかきむしった。
かゆくてかゆくて、そのうち自分でひっかくものだから、痛くて痛くて、ついにライオンは降参した。
蚊は、
「おれは百獣の王に勝ったぞ」
と、喜び飛んで行こうとしたところに蜘蛛の巣があった。
蜘蛛の巣にからまれて、「百獣の王に勝ったおれが、どうして」と思いながら蚊は蜘蛛に食われていったとさ。
人生、どこで何があるのかは、わからない。
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