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ご存じの商売物②~江戸の町の多種多様な出版物を擬人化した物語

 「御存商売物ごぞんじのしょうばいもの」(北尾政演まさのぶ作画、1778刊)の紹介。全三回の二回目。
 江戸の町で流行した黄表紙きびょうし青本あおほんを擬人化してストーリーが展開する。流行遅れの黒本、赤本が、青本に嫉妬しっとおとしいれようとする。
 青本が、観音参りに行った場面からつづく。



中巻

 浅草観音の境内けいだいの様子。
 西洋の遠近法を取り入れた浮絵うきえが、おらんだ大からくりの呼び込みをしている。子どもがのぞいているのは、豆絵まめえという小さな絵。 



 黒本は、古いやりかたでは最新の青本(黄表紙)にケチをつけることもできないと、少し最新の流行も学ぼうと、真っ黒な出で立ちで赤本と連れ立ち出かけ、青本がいても知らぬ顔で通る。向こうから親分の唐紙表紙からかみびょうし(絵入り浄瑠璃じょうるり本)が来たので、困ってしまう。
 ここにまた、錦絵にしきえ(浮世絵)という美しきものあり。江戸の名物だけあって、べにを惜しみなく使い、ひときわ目立つ遊女の衣装いしょうにて、まことに地方で「江戸絵」とめるももっともなり。錦絵にしきえは、新造しんぞう禿かむろを引き連れて、観音へ参詣さんけいする。
 青本は、「はて、美しいものじゃ」と、錦絵にしきえに見とれる。 



 青本は、錦絵にしきえの美しきにれ込み、芝居関係の本、長唄本ながうたぼん義太夫ぎだゆうの切り抜き本、芝居のセリフを抜き出した鸚鵡石おうむせきなどを呼び、いっぱいにもてる。
 錦絵にしきえは、青本にれたわけでもないけれど、ためになりそうなので適当に相づちをうっている。このことから「絵空事えそらごと」という言葉がうまれたとさ。 



 黒本、赤本は、どうにかして青本にケチをつけんと、算数の塵劫記じんこうき、歴史の年代記道化どうけ百人一首(百人一首のパロディー本)などと相談し、柱隠しはしらかくしを盗み、一枚絵青本の仲をさこうと計画する。
 大津で売られていた大津絵は、最近売れなくなり、大津を夜逃げして、黒本の家にいたけれど、黒本の息子、小型本の小本こぼんが夜泣きしているのをあやす。
大津絵「これ、そんなに泣くと、おじいの服についている鬼が出てくるよ。恐いぞ恐いぞ。もう黙んな」 



十一

 道化どうけ百人一首は、特に思うこともなかったけれど、この作戦がうまくいったら良いようにしてやろうと言うゆえ、そうしたら我が子も楽に暮らせるようになるだろうと、相談にのる。
柱隠しあにさんも承知だから、もう夫婦でござんす」
一枚絵「たとえこの身は製本の刃物で切られても、恋の心が切れることはないさ」
柱隠し「それは本当か
年代記塵公じんこう塵劫記じんこうき)、あのいちゃつきを見ろよ。いまいましいこった」 



十二

 黒本は、三人を使い、まんまと柱隠しはしらかくしを盗み出し、家へ連れてくると、女房の伊呂波短歌いろはたんか(いろは歌の教訓本)、なんの訳も知らず、大の焼きもちにて、夫婦げんかを始め、すりこ木でたたき合う。
黒本「おれの深い計画も知らずに、こんな夜明けに何をいうか」
 道化百人一首が止める。
道化「そんなに怒るは、あんまり短歌(短気)じゃ」
 黒本は真っ黒になって腹を立てる。
黒本「ええ、じゃまするな。そこをどうけ(道化どうけ)」 



 ここまでが中巻。
 江戸時代後期には、物語に登場するような、さまざまな種類の本が出版された。それらの本が一般家庭でも読まれていた。
 
 次回へつづく、




 百人一首の現代語訳はこちら、

 


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