英語と日本語と日本亡国論
外で、小さな子と歩いていた母親が、道路にあったものを指して、「これは英語でどう言うの」と聞いていた。日本語もろくに話せない子が、英語もぺらぺらとしゃべれないような母親に(偏見!)舌足らずの英語で答える。近頃よく見る光景だ。
日本語をなくして英語を国語にしようとしているかのようだ。英語の国語化によって日本をなくし、英語圏の属国としようとしているかのようだ。
昔からアルファベットが書けない人が多かった。
大文字のABCや小文字のabcのだいたいは書けるけど、 L Q の小文字は書けるだろうか。けっこう書けない人がいる。小学生が英語を習って、これで書けるようになるのか。
いやいや、文字なんか書けなくても会話ができればよい。今の小学校英語は、そういう感覚の、会話中心の英語教育だ。
子どもに教える側の大人であるあなたも、アルファベットが全部書けるだろうか。特に小文字。
a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z
英語圏の属国ではない、日本は独立国家だというなら、仮名はどうか。
日本人ならカタカナは全部書けるか。「を」のカタカナは大丈夫だろうか。書けない人がけっこういる。
ア イ ウ エ オ カ キ ク ケ コ サ シ ス セ ソ タ チ ツ テ ト ナ ニ ヌ ネ ノ ハ ヒ フ ヘ ホ マ ミ ム メ モ ヤ ユ ヨ ラ リ ル レ ロ ワ ヲ ン
日本語もできないのに英語なんてできるか。漢字も書けるか。
漢字でよく間違えるのは「~さま」「さむい」。「むかえる」とか「たまご」も案外間違えて覚えている。
様、寒い、迎える、卵
文字だけではない。九九も覚えているか。
今の子どもはどうか。しっかり覚えているだろうか。
基礎をしっかり学ばせず、さらに英語って、どういうことだろう。国際社会で日本の子どもの学力が落ちるのは当然の結果だ。だって基本を学んでいない。
日本人は古代から外国語を取り入れた。
まずは中国語である漢字。そしてポルトガル語やオランダ語。明治になると英語やドイツ語、フランス語。
でも、基本は日本語。
「~する」という便利な日本語もある。漢字(中国語)の「無視」は「無視する」と使う。英語では「スルーする」と使う。このように外国語を日本語に自然に取り入れることができる。そして言葉を豊かにしていった。
古代の漢字の輸入。
日本に文字がなかったので、中国語(漢字)を取り入れた。
当時の日本の知識人は漢字を使って言葉を書き表した。事実を並べる役人言葉は書きやすいが、会話、詩は漢字だけではなかなか書けない。そこで漢字を使って日本語を書き表すために万葉仮名が生まれた。
春過而夏来良之白妙能衣乾有天之香具山
春過ぎて夏来たるらし白妙の衣ほしたり天(あめ)の香具山
これでは読みにくいということで仮名が発明された。
漢字を崩して平仮名、漢字の一部を使って片仮名。
安 あ 以 い 宇 う 衣 え 於 お
阿 ア 伊 イ 宇 ウ 江 エ 於 オ
こうして発明された仮名(平仮名)を使って世界的な文学作品、「源氏物語」が書かれた。
普段使う日本語で書くから、微妙な表現が可能となった。当時の外国語である漢字ではそこまで表現できない。漢字では書けない日本の文化と伝統が書物として生まれたのだ。
当時の日本語は和語である。今の漢字学習ではひらがなの訓読みの語だ。その言葉で「源氏物語」は書かれた。
源氏物語ほど微妙な表現ではなくとも、英語で自分の気持ちをどこまで表現できるのか。英語はビジネスの道具としては大切だが、文化を書くことは、ほとんどの人ができない。かつての漢字だけの時代と同じだ。
大切な日本語を、どれだけの人が使えており、英語を習っている小学生のどれだけが日本語を使いこなせているのだろうか。
母語というものがある。
人間が他の動物と違うのは、言葉を使うことだ。言葉を使うことによって人間としての頭脳が完成していく。そのプログラミングの基礎になるのが母語だ。
その言葉は、四六時中耳にする言葉だ。塾や授業中の数時間学ぶ英語ではない。説明されなくとも理解できる言葉が母語だ。「イヌ」という言葉が、目の前にいるこの物体だけでなく、隣にいるあれも指し、昨日見た全然姿の違うあれも指すのだという「言語システム」を学ぶのだ。母語を身につけないと他の言葉も身に付かない。
言語を理解する脳をまず作らなければならないのだ。
母語を身につけないまま成長すると、その後いくら学んでも、一生言葉を使えない狼少女となってしまう。
英語もいいけど、日本語をしっかり使えるようにしたいものだ。
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