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東京日和

はじめに

 まったくもって文章を書かなくなった。観劇や映画を見たりしても感想を書けなくなっていた。ということで出来はどうあれ最後まで書き続けてみようと書いてみた。東京1泊2日の旅行記を。

1日目 旅立ち


 10月のある日に私は半年ぶりに東京を訪れた。目的は毎度のように小沢健二だ。「東大900番講堂講義・追講義+ Rock Band Set 」。そう数日前に東京大学で講義をした小沢健二による一般向けの講義&ライブだ。って毎度のようにとは書いたが、小沢健二目当ての東京は2019年の今は無きスタジオコーストでのライブ以来だったりで。ここ最近はそうダウ90000目当てだったとか、なんとか。
 そんなことはいいのだ。とりあえず私は東京へ向かう。あのころと違って新幹線で。バスで行ってその日の真夜中にバスで帰るような強行日程は組まなくなった。ほぼ新幹線往復代だけでホテル一泊できるJR東海ツアーを利用していく。去年はぷらっとこだまを使っていたけれど、のぞみ名古屋東京間1時間40分という短さの楽さに今は抗えない。ただツアーのためか選べる電車が少なくて、名古屋10時過ぎ発の電車で東京へ。確実に指定の新幹線に乗るため、はやめに家を出て名古屋に向かう。40分くらい多分名古屋駅で待ったけど、そのとき待合室にいた男の人が誰かに似てるような気がして、ちらちらと見てしまった。ただそれが誰かかはまったく思い出せなかったが。
 毎度のようにコーヒーを買うかどうか悩んで結局やめて新幹線に乗る。乗り口が席から遠い方で、人と申し訳ない感じですれ違いながら席に着いたり。
 晴れていたのに富士山には雲がかかっていて見れなくて。っていつだってあまり景色を楽しむ感じなどないのだけど。横浜過ぎたあたりでふっとラーメンが食べたくなって、東京駅構内にないかを探す。
 ってことでラーメンである。シンプルなラーメンである。「ニッポンラーメン凛トウキョウ」で上品なラーメンを美味しくいただく。そして店を出て気づくのだ。飛んだラーメンの染みが一張羅のシャツについていることを。今回の小沢健二講義、なんとドレスコードありでパーティに向いた格好とのことで、おしゃれなど毛頭にない私でもとりあえず新しいシャツもパンツも買ってのぞんでいるのだ。会場ではスカーフもして髪ももじゃもじゃな私はえせ久能整感で講義に向かうのだ。ってそのシャツに微かな染みが!ウェットティッシュで拭き拭きするが、微妙な染みは染みのまま。

池袋と梟書茶房


 ホテルのある池袋へ。新幹線の切符にある(都区内)を利用するため、今回は東京駅の外には出なかったのだ。山手線で向かうのだ。
 池袋は1年半ぶりの来訪で。前回はロロ「ロマンティックコメディ」を東京芸術劇場で。そうコロナ禍以降、はじめての東京だった。森美術館で「Chim↑Pom from Smappa!Group」の「ハッピースプリング」を見たあと、永青文庫へ行き、そしてロロを観たのだった。今回もChim↑Pomのアート展が会期延長したって聞いてこれはいけるかも!って思ったら、私が東京にいる二日間とも休みだった件。
 そんなこんなでその前回池袋に行ったときチラッとのぞいたけど結局行かなかった梟書茶房へ。タイトルを隠したふくろう文庫と雰囲気が素敵そうだったのと、パンケーキがとても美味しそうで、結局1年半ずっと頭の中にいたとかそういうことだと思う。
 待ってる人も数組だったし、名前を書いて待つことにする。何を思ったか名前をオヤマダにする。オザワではなく。
 少しして席に通され、鍵を渡される。会計のときにこの鍵を渡すとのこと。こういうの嫌いじゃないの。パンケーキを頼むと、20分かかりますがいいかどうか聞かれる。もちろんゆっくりするつもりで来てるから問題なし。コーヒーも頼んで、その場にある本をチラッと読んだりしたあと、思い立ったように文章を綴ってみた。


10/2

久しぶりに言葉を並べるならば、何をつらねればいいのだろう。東京に降りたったときに頭を流れたのはきのこ帝国の「東京」で。くるりでも小沢でもなく。
今から勉学をするという不思議な気持ちとここは東京だとかいうおかしな感覚。今この場所にいて明日には帰っていく。この東京のどこかに高円寺があって、昨日までまつりが行われていたとか。
そんなふうに生きていって、そしてどうしてすれ違うように東京のインとヨウがたぶんアメーバ状にからんでいっている。
あたしは今日も街とか美しいくそみたいな東京を味わって楽しんでいくのか。
池袋。1年半ぶりに訪れる場所。前回行かなかった場所に来て、誰かのことなど思わないで。ただただパンケーキがくるのを待っている。
好きそうで、それでいて実はつくられた「好き」にうもれているような気がする。
この世界が変わるのかもう変わっているのか、そしてそれに抗うようにきっと私は無気力なのだ。
誰かを思うように、広島以来の旅だ。1人きりの旅はやっぱり東京で。なんだか同じような行程をめぐりそうだけど。驚きとか異界とかそういうものにふれることがこわくなってきている。

 こんな風に書いていたらパンケーキがやってきた。ふわふわで、だけど昔ながらのホットケーキ感がした。そしてメープルシロップをかけたいだけかけれる幸せ。美味しくいただいてひとしきりゆっくりして。


  西側しか行ったことのなかった(東京芸術劇場×2しか行ったことないの。)池袋の東側へ。そちらに泊まるホテルがあるのだ。チェックインまでまだ時間があったから、ふっと気になっていた「岸辺露伴 ルーブルへ行く 体験型イベント」がやってる「バンダイナムコ Cross Store 東京」へ。聞いたことあるぞサンシャインシティにはじめてやってきた。そうだ、水族館とかあるところだ。 体験型イベントとは言いながら、マイヘブンズ・ドアー作りに入ってく人たちを見ながら、特に何もせず。まぁ目当ては衣装とか展示だったから、それをブラブラと見て。岸辺露伴(高橋一生)アクスタが気になりながら、特に何も買わず帰る。そうこういう場所だとだいたいこんな感じな気がする。先にもう買う!って決めてたりとか、よくわかんない勢いとかでもないとなんだか思いきれない気がする。


一生さん等身大看板


小沢健二 東大900番講堂講義・追講義+Rock Band Set


 ホテルにチェックインして一休みして、渋谷に向かう。そう本日のメインイベントは渋谷公会堂(現・LINE CUBE SHIBUYA)で行われる小沢健二の講義だ。
 すごい久しぶりにハチ公に出会い、すごい久しぶりにスクランブル交差点を渡る。HPの指示に従って会場へ向かう。途中のPARCOにああこれが渋谷のPARCOだなんだとか思う。そう渋谷は坂の街。湾曲した坂を登っていく。
 16時前に到着。会場の写真を撮り、グッズ列に並ぶ。なんだか久しぶりにけっこうな時間並んでいた気がする。40分くらいだろうか。まぁグッズ列なんて1月の星野源以来で、そんときはけっこう早かったから去年の小沢健二名古屋センチュリーホールでの並びぐらいかかったとかなんとか今になって思ったりする。お目当てのTシャツはサイズがなく、スウェットもこれかなって色は売り切れ。別の色のと、ピンクの猫仮面を買う。電子回路もそうだけど、基本その場でしか使えないものってなんか買っちゃうし、ずっと講義中も頭に乗せてた。これで500円とか高い気もするが、この瞬間、この刹那のためのものって思うと、それでいい気がしてしまうのだ。
 グッズを買って一度外に出て見渡せば、とてつもなくおしゃれな人たちから普通な感じの人までそれぞれと。
 会場の中へ。入り口でジャガード編みバッグと「赤い山から銀貨が出てくる」の冊子をいただく。「赤い山から~」は持ってなかったから、ちょっと嬉しい。そして開演前に読んだ時より、講義後ホテルで読んだ時の方がなんだか頭に入ってくるような気がした。席には黒地にハートマークの教科書が置いてあって「アケルナキケン」のシールが貼られている。私のハートは青色で隣の席のはピンク色で交互に並べられていて。会場内、開演中以外は撮っていいとのことだったのでいくつかパチリと。

開場してすぐの様子


闇で光る教科書


 いよいよ開演。講義の内容についてはどうも書いてはならぬというより、改めて言葉に出すということがとても難しい、どう表現したらいいかわからない感じではある(これもまた講義内容に少しかかわってる気はするけど。)ので、終演後すぐにただ書き留めた言葉を。
 「小沢健二という人はどうしたって、凝り固まった私に「ちょっと待って!それって?」なんて問いかけてくれる気がする。」
 うん、歌について書こう。新曲「Noize」である。この講義に含まれた歌である。のせいかなんだか何も書けない。ただ3回聴かせてもらったこともあって、魔法的のときのように、帰り道やホテルでなんとなく口ずさめる、とかいう経験がまた出来て嬉しいのは確かで。
 ライブは基本前回の「So Kakkoii宇宙Shows」の感じで離脱(もうなんの説明もない。)があったり、「運命UFO」からの「ローラースケート・パーク」だったりで。でもね、やっぱり「強い気持ち・強い愛」をめっちゃ声出しで歌えたことだよね。あの瞬間はやっぱ違ったと思う。会場の雰囲気が変わった気がするの。ってか声出しですよ。まじで2019年のスタジオコースト以来の。それまではさ、口ずさむ程度だったけど、「強気強愛」じゃもう我慢できなかった。そして大泣きをした。小沢健二コンサート100%の割合で泣いているけど、まぁ今回も大泣きだ。勝手に踊る星野源スタイルの私だから、自分勝手に手を上げ、体をくねらせ踊るのだ。
 「高い塔」ほんとすごいよかったし、「薫る」とか新しい歌たちが私の体に染み付いているってのはやっぱ素敵なことで。「そして時は2020!」って「彗星」を歌い始めた途端、盛り上がれる感じとか本当最高だった。
 講義は2時間半やったけど、まじでまだまだ聴けたし、なんだろう学問ってやっぱ楽しいことじゃないかなんて思う。こういう時間をほんと久しぶりに感じた気がした。講義時間も足りなければ、ライブ時間も足りない。LINE CUBE SHIBUYA音出し21時までなんだね。確実に越えてたよね?それでももっと欲しかったのは確か。でもね、やっぱすごい楽しかった。なんてバカみたいな感想を述べてしまうけど、ほんと高揚した楽しい音楽の時間だった。

 人込みにまぎれ会場を後にする。渋谷駅までの道、カフェかしら?フリッパーズってお店があって思わず写真を撮ったり。どこかで飲もうかとも思ったけど、この感覚を静かな所でかみしめたいな、と池袋のホテルに戻る。駅ではじめていけふくろうを見て、「フクロウの声が聞こえる」が頭を流れる。いけふくろうと写真を撮ろうとする若者たちが「観光客みたい。」とか笑っているのを見て、写真は次の日の朝に撮ったそんな私。ええ、観光客です。
 コンビニでお酒と夕食を買ってホテルへ。ホテルの目の前にたこ焼き屋さんがあるのに気づいて、しまった!と思って悩むが結局やめる。
 ホテルで教科書を眺めたり、i PHONEあてて英文を訳してみたり、そんなことをしてたら時間も知らぬうちに過ぎ、寝ることにした。

2日目 HMV&BOOKS SHIBUYA


 2日目の東京。何処へ行こうか、と小沢チケットが取れてからずっと思っていた。そういう時間ってすごいわくわくして楽しくて。はじめは美術館に行こうとか思って、東京都現代美術館でやってる「あ、共感とかじゃなくて」とか、アーティゾン美術館でやってる山口晃さんの展示とかに行こうかなとか、考えていたのだけど、その日にやってる舞台とかライブとかないかしらって探してたら、X(旧Twitter)に流れてきた!ぱぷりか「柔らかく搖れる」。ちょうど豊岡演劇祭でやっていて、私が行く日は東京公演中だった。なんだかとても気になった。もちろん岸田國士戯曲賞受賞作ってのもわかりやすくこんな私を後押しする。チケットもまだ売っていたのでさっそく予約する。返信されたメールが迷惑メールの疑いをかけられている!そんな久しぶりのノープレイガイド。チケットぴあとかローチケじゃ見つからなかったものに、わくわくしながら。
 と、いうことで13時にはこまばアゴラ劇場に着いていたい、ということで予定が変わっていく。池袋からアーティゾン行って、駒場東大前へとかいう行ったり来たりで行こうかと思ったが、ちょっと移動続きが辛い気がした。もう若くないとかそういうことか。4年前とかなら、まず千葉美術館に「me」を見に行って、それから東京現代美術館で展示2つ見て、ポレポレ坐で「撮れた展」見るとかいうことをやれたわけだ。ただ美術展3つ連続は非常に精神が疲れた!ので出来る限りゆるく行きたいとか思ってた。
 朝起きて、やっぱり近場で固めてしまおうとか思い立ち、はたまた渋谷に向かった。

 再びの渋谷、昨日と同じ道を辿ってまずHMV&BOOKS SHIBUYAへ。あの頃小沢ファンとして憧れていたHMV渋谷はもうなくなっていて、新しいHMVなのだろうけどなんだかそれでも。
 北川景子さんのパネル展を見る。数日前に写真集のお渡し会やってたとのことで。学生の時の短い演劇人時代、恋人の写真をケータイで見せるシーンで当初北川景子さん(モップガールのときの)の壁紙を使っていたイタイ人間なのだ。何かグッズでもと思ったが、なんでだろう気になるアクスタは売り切れていた。
 やはりCDでも、と。そう今やなかなかCDショップで買うことなどない。前回は去年の11月か、コロナ以降はじめて会う友人と太陽の塔を見に行って、帰りに京都のタワレコでだらだら音楽談義をしたあと、Conton CandyのCDを買ったのだった。うん、ということで今回もConton Candyの新譜を買おう。多分、今年のSpotify(無料会員)1番聴いたアーティストだと思う(去年は3位でした。1位は春ねむりさん。)。そしてなんと買ったらもらえるステッカーにサイン入りがあるかもしれないということだ。そんなConton Challenge!店員さんもそれがわかってるせいか裏向きでステッカーを渡してくる。やー、来い!裏返すが何もない!うん、あえなく失敗だ。

それでも「桜のころ」が好き


杉本博司展とsilent


 HMV&BOOKS SHIBUYAを出て向かうは渋谷区立松濤美術館。半年前にエドワード・ゴーリー展で訪れた場所だが今回は「杉本博司 本歌取り 東下り」がやっているのだ。杉本博司さんについてはほんと何も知らないような私なのだが、HPを見てなんだか面白そうと。
なんだかこの日は少し暑いくらいで、ブラブラと歩いていくが日陰を選びながら歩いていく。そして前に見たことある建物が見えてくる。渋谷区立松濤美術館。この小さな美術館がお気に入りになったのだろう。近場だからとはいえ、また行きたくなったのは。
 「本歌取り」という技法。もともとあったものを使って新しいものを生み出す。それって森村泰昌さんの作品が大好きな私にはとても合ってる気がした。
 展示は最初に見た「時間の間」という作品に心を持ってかれる。時計が逆に回っている。水没してずっと放って置かれてた時計。再び生を受けて700年前の厨子の中で逆に時を刻んでいる。時間の感覚がなくなるような気がした。ずっとその場にいたような気もするしたった一瞬しかいなかった気もした。

 本歌取りゆえ、解説を読まねばわからないのだが、ただただその屏風の作品とかに圧倒されたりするのもよかった。「十一牛図」に描かれた丸がすごい好き。なんで素麺?ってのも含めて好きだったり。「法師物語絵巻」もそうだけど、やっぱりその人の作品じゃなくてもそこにあることの意味とかそういうものを越えて、ただここにあること。そしてそれがなんだか心を惹くことってすごいことのような気がするの。

もうお気に入りとなった渋谷区立松濤美術館

 一通り見てもう一度お気に入りを見て、座って一息。時間も気づけば11時半近く。ごはんを食べておこうと、近くを検索してたら出てきた「ANEA CAFE MATSUMI-ZAKA」。なんとドラマ「silent」のロケ地だということだ。私にとっても去年のベストドラマだ。あんだけ丁寧に一人一人を描くことなんて出来るんだ、と。そしてこの「silent」ってドラマでしか感じられないものがあった。思い出そう。カフェというとあそこか?紬と想が待ち合わせしてたあのカフェか?とかなんとか思ってたら、まぁ行ってみようじゃないかと、私のミーハー心も手伝って。  ということで来ました「ANEA CAFE MATSUMI-ZAKA」。二人が座ったであろう席を横目で見ながら、端っこの席でカレーのプレートをいただく。後で調べたら、二人が座った席は予約制になってるみたいで、もう1年くらい経つのにすごいなとか思ったり。 久しぶりに食べたカフェごはんとかいうやつだけど、カレーは間違いなく美味しく、こういうときについてるポテトってどうしてこんなに嬉しくて美味しいんだろうとか、思ったり。


 お腹も満足したところで、歩いてこまばアゴラ劇場に向かう。まだ時間は早いけどとりあえず場所を確認しておこう。って10分もかからず到着。時間は12時半。もちろんまだ開場していない。それではこの街をブラブラしてみよう。とりあえず向かってみよう、東大駒場キャンパスへ。数日前に小沢健二が講義して、三島由紀夫が学生と討論した900番教室がある。昨日の新曲「Noize」で駒場東大前とかなんちゃら歌っていた(淡すぎる記憶)はずだし、「アルペジオ」にも駒場図書館とか出てくるし。
 ってか道すがら思うのはほんと東大の街感。予備校の看板には講師全員東大生とか謳っているし、学生にはサービスのあるカフェ?とかあったし。駒場東大前駅をすり抜けて、東大の敷地前へ。やっぱり「関係者以外の無断入構を禁止する」だ。ここでただの見学者ですって入れる人間じゃないのが、私ということで。その文字だけできょどってしまうぐらいの人間で。外観だけ撮って帰る。違う入り口から駒場東大前駅に戻るとちょうど電車が着いたのか、改札から人々が出てきてすれ違う。みんな東大生なのかとかなんとか思う。付近を行ったり来たりして、再びこまばアゴラ劇場へ。


遠慮気味に撮った東大


ぱぷりか 柔らかく搖れる


 こまばアゴラ劇場。2階に劇場があって、客席と舞台に段差がなく、境界線がない感じ。こういう小劇場って東京にはきっとたくさんあるんだろうけど、なんかとても新鮮な気がした。
 とはいえ舞台である。ぱぷりかの「柔らかく搖れる」。完全にすべてがはじめましてで。何もなしに舞台を見た、とかその日の東京行きのバス内で行こうと決めた□字ック以来だろうか?でもそのときは佐津川愛美さんとか見知った人たちが出てたわけで。今回はそれもなく、もう完全な直感で見ようと思ったのだった。



 見終わった後のなんともいえない心持ち。このモヤモヤが残ったってことがこの作品の素晴らしいことなのだと思う。だってなんにも解決していないもんなぁ、って解決とかそんな簡単に出来るもんじゃないでしょう?この世界では。生温い世界でどんどんと静かに落ちていく人たち。このままじゃってどこかで思っているのに、変われない人たち。先送りにすればするほどきっと大変になっていくのだろうけど、その気持ちはすごくわかる気がする。家族というものにあたしもそうだ、甘えてて。やっぱり私たちは変化が怖いのだ。そして気づけばがんじがらめになって事態を最悪な方へ向かわせるのだ。それを変えるのは他人なのかしら?愛の言葉できっと樹子は弓子に二人が付き合ってることを知らせただろうし、多分唯一それが良い方向に向かうものだった気がする。
 そう誰かの力を借りて今の状況を打破しようとあたしはしたけど、結局うまくはいかなかった。あたしが無責任すぎたとか、事の性急さについていけなかったとか、そういうことを思ったりする。会いたいって気持ちになれないままで。まじ呑んでるだけの良太になりたい、とかクソみたいなこと思う。
 舞台に戻ろう。言葉の少なさと登場人物たちの間、静けさとその奥に流れる鬱屈した空気、時折背中をヒヤッとさせるもの。人間だけのやりとりの舞台って実は久しぶりで(普段ヨーロッパ企画とダウ90000だものね。)、その強さとも弱さともいえる力、人からあふれ出るもの、をよりシンプルに直接感じれた。それこそ声だけのラストとか。
 どうでもいいかもしれないが、ねここがいると思ってそのときだけすごい優しい気持ちになれた気がする。

 見終わったあと余韻にふわーっとして、劇場も最後のほうに出た。一度外まで出てから、はっと思い直したように戻って物販で戯曲を買った。福名理恵さんのサイン入りとかいう話だったが、その日はもう売り切れてたのかあとで見てみたらサインはなかった。Conton Candyの件といい、今日はサインとは縁のない日だと思うことにした。

 駒場東大前から井の頭線に乗って渋谷に戻る。乗り換えてそのまま東京駅へ、そして地元へ帰る。こんな風に今回の東京日和が過ぎていった。



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